夢/とある獣の生活 | ナノ

寝れない夜の段


!注意!
これから先、鬱表現があります。
シリアスというより、ただケガしてるだけの展開です。
苦手な方は絶対に進まないように。最後はいつもみたいになると思いますが。

「寝れない夜の段」の主人公視点です。短い。





傷口が痛む。
腹が痛む。肩が痛む。身体中が熱くて、思考回路もハッキリしない。
そんな最悪な状態だけど、竹谷の声だけはしっかりと耳に届いていた。
全く動けない俺を甲斐甲斐しく世話してくれる。
よく見えないし、あんまり覚えてねぇけど、隈ができてるのを見た気がする…。
ずっと俺の世話してるし、昼間は委員会で忙しいしできて当たり前だよな。

早くよくならねぇと…。

そう思うけど、熱は下がらねぇし、傷口だってまだ痛い。
今ここで無理をすれば伊作に本気で怒られちまうし、本当に意識を失ってしまう。
そしたらまた竹谷に迷惑かけちまう。それだけはダメだ。
だから大人しく竹谷の世話になっているのだが、昨日の夜、聞いてしまった。


「虎徹、先輩ッ……!お願いです、いつもみたいに笑って、…ください…ッ…」


目は瞑っていたし、意識もなかったはずなのに、その言葉だけはしっかり耳に届いていた。もしかしたら幻聴かもしれない。
それでも可愛い後輩にあんな台詞を吐かせてしまった。
俺が情けねぇからだ…。慕ってくれてる竹谷に情けない姿を見られるのもイヤになった。
高熱が続くものの、次第に身体を動かせるようになったので、竹谷がいないのを確認して布団から這い出る。
少しでも自分のことは自分でしたい。もう動けるところを見せたい。
そしたら安心してあんなことは言わないだろう。今日からゆっくり寝れるだろう。
だから動け!


「虎徹先輩、夜の分を頂いて―――何してるんですか!」


だけど自分が思うようには動かなかった。
息苦しいし、傷口は痛むしとにかく最悪。
竹谷、俺もう動けるぜ。だからさ、俺の面倒見なくていいって。そんな泣きそうな顔すんなよな。
近寄って出してきた手を払い、「大丈夫だよ」って言おうとしたが、言葉が出てこず、咳き込む。咳をするだけでも腹部が痛み、その場に蹲って痛みを耐えた。
できるだけ苦しい姿を見せたくない。この傷のせいで痛んでる姿を見せたくない。竹谷は絶対に気にしてしまうからな。


「虎徹先輩ッ、…お願いですから…、お願いですからジッとしてて下さい…!」


絞り出した声に心がツキンと痛んだ。止めろって、そんな声出すなよ…。
咳き込んだけど大したことじゃない。腹と肩が痛んだけど大したことじゃない。
俺はお前にそんな顔をしてほしくて庇ったわけじゃねぇんだよ…!
お前が助かってよかったな!って言ってやりたいのに、何で喋れねぇんだよ…ッ。
泣くな、八左ヱ門。気にするな!
焦点が定まらない目を八左ヱ門に向けると、八左ヱ門はビクリと身体を震わせて口を閉ざした。


「虎徹せんっ…」


この腹も、この肩も。あとこの高熱だってお前のせいじゃないさ。
もういいからそんな顔止めろ。逆に悪くなっちまう…。
そう思うも、八左ヱ門の表情は悪くなる一方。こいつが何考えてるのか解る。…気がしたが、あまり考える体力もなく、俯いて呼吸を整えるのに集中する。
あー…何でこんなにも付き合ってんのに俺の気持ちが解んねぇかなぁ…。俺に忠実だけの犬なんていらねぇんだよバーカ。


「…お身体にさわります。布団に戻って、薬を飲んで下さい」
「…(うっ)…さい…。(俺のこんな姿見るからお前傷ついてんだろ?じゃあもう出て行け)」
「虎徹先輩、寝ないとよくなりません。お願いします」
「で、って……け…!(って言ってんじゃん…。元気になったらちゃんと話そうぜ)」
「…」


拒絶しても強い力で無理やり布団に戻され、薬も強制的に飲ませれた。
くっそ苦くて吐きだしたかったのに、八左ヱ門がそれを許してくれなず、大人しく飲みこむ。伊作の薬は確かだが、苦くてたまらん…。
最後に泣きそうな八左ヱ門に声をかけてやろうと思ったが、意識が朦朧としてきていつの間にか深い眠りに落ちていた。
遠くで小平太の気配を感じ、「任せた」とだけ矢羽音を飛ばした。



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