寝れない夜の段 !注意! これから先、鬱表現があります。 シリアスというより、ただケガしてるだけの展開です。 苦手な方は絶対に進まないように。最後はいつもみたいになると思います。 八左ヱ門が戦場で虎徹を刺して、二日が過ぎた。 当日と初日はケガの痛みで苦しんでいたが、二日目になってからは高熱を出し始めた。 戦場という場所は不衛生だ。きっと何かの細菌が傷口から侵入し、虎徹の細胞がそれを拒絶し、戦ってているのだろう。 熱は下がらず、それに加え嘔吐も引き起こした。 だけど伊作は「大丈夫」と言って薬を渡すだけ。 虎徹の看病をずっとしている八左ヱ門の目の下には隈ができており、顔も若干やつれている。 虎徹を刺したという罪悪感と、目の前で苦しんでいる虎徹を見るのは精神的にくるものがある。 それでも八左ヱ門は虎徹から逃げようとせず、ずっと世話をしていた。 「虎徹先輩、夜の分を頂いて―――何してるんですか!」 夜の分の薬を伊作から貰って虎徹の部屋へ帰ってくると、虎徹が布団から四つん這いになって出ようとしていた。 高熱で息は乱れ、傷の痛みでうまく動けていない。 だと言うのに布団から這い出て外へと向かおうとしている。 持っていた薬をその場に置いて急いで駆け寄る八左ヱ門。 「先輩、寝てないとダメですって!厠なら俺がおぶりますからっ!」 手を伸ばす八左ヱ門をパシンッと拒絶する虎徹。 たったそれだけの行動だけで額からは脂汗を流し、呻き声を出しながら立とうとして足腰に力を入れる。 「―――っあ、ぐっ…!」 足と腰に力を入れると、腹部の傷が酷く痛む。 膝をつき、蹲って傷口に手を添えて痛みを堪える虎徹だが、腕を動かすと肩に鋭い痛みが走る。 どこを動かしても痛い。そして熱い。 視界も歪んで見えるし、気分も悪い。頭も身体も重たい。 まさに最悪の状態。 「虎徹先輩ッ、…お願いですから…、お願いですからジッとしてて下さい…!」 絞り出すような切ない願いに、虎徹は乱れた呼吸のまま八左ヱ門に目を向ける。 虎徹と目が合った八左ヱ門はビクリと身体を震わせた。 あの日以来、久しぶりに虎徹の目を見た気がする。 高熱のせいで目には涙が浮かんでおり、焦点が定まっていない。 それでもいつもと変わりない目力。思わず逃げたいなんて思ってしまったが、八左ヱ門はその場で固まってしまっていた。 「虎徹せんっ…」 固まっているだけだと、虎徹の看病にならない。 そう思った八左ヱ門は震える声で名前を呼んだのだが、すぐに言葉を失った。 腹部を抑え、蹲っている状態のままで八左ヱ門を睨んでいたから。 「(―――俺が虎徹先輩を刺したから…。虎徹先輩は俺だって気づいていた。俺は気付かなかった…!だから怒ってるんだ。肩をケガしたのも、熱を出して苦しんでるのも、全部全部ッ!全部俺のせいだ!)」 虎徹が今まで自分を睨んでくるなんてしたことなかった。 泣きたい気持ちを抑えつけ、袖で滲んだ涙を拭ってグッと拳に力を込めて虎徹に近づいた。 「…お身体にさわります。布団に戻って、薬を飲んで下さい」 「…っ…さい…」 「虎徹先輩、寝ないとよくなりません。お願いします」 「で、って……け…!」 「…」 「出ていけ」とハッキリ言われたが、八左ヱ門は虎徹を少し強引に布団へと戻し、薬を飲ませようとする。 伊作の気遣いで薬は液体状のもの。匂いがなく飲みやすいのだが、苦いので虎徹は飲みたくないと拒絶したが、八左ヱ門に無理やり口を開かされ押し込まれる。 暴れると傷口が痛むため、素直に飲み込んで、少しして眠りについた。 布団をかけ直し、薬をさっさと片付けて部屋を出る八左ヱ門。 戸を閉め、何歩か歩いてその場にしゃがみこむ。 「(すみません、虎徹先輩…。すみません、すみません…ッ!)」 いつまで経っても八左ヱ門は虎徹に謝罪しっぱなしだった。 先ほど睨んできた虎徹が頭から離れない。あれは怒っている目だ。 早く良くなってほしいはずなのに、よくなるにつれ、怖くなっている自分がいる。 矛盾ばかりで八左ヱ門の頭の中はごちゃごちゃと騒がしかった。 「おっ、竹谷!」 「……っ七松先輩…?」 「どうした?虎徹の風邪がうつったか?」 ドスドスと騒々しく廊下を歩いて自分に近づいてきたのは、砂で汚れている小平太。 虎徹の部屋の近くだというのに静かにするという考えはないらしい。 そう言えば、六年の誰もが虎徹の心配をしていない。 それが理解できない八左ヱ門は、騒々しい小平太を軽く睨む。 「もう夜です。静かにして下さい」 「まあそう言うな!ところでお前は虎徹の看病か?よく毎日できるな!」 「私が虎徹先輩をあんな風にしたのですから、当たり前です。それより虎徹先輩が起きてしまうので、静かにして下さい」 「アハハ!お前は本当に虎徹の犬だなァ!」 「っそれの何がいけないのでしょうか!?」 小平太の言い方にカチンときた八左ヱ門が機嫌悪く言い返すと、やはり小平太は笑う。 子犬がじゃれついてきても痛くもかゆくもないといった態度。 「だがな、竹谷。虎徹はただの忠犬なんて欲しがってないと思うぞ」 「……仰る意味がよく解りません」 「お前が知ってる虎徹は細かいことを気にする性格か?お前が今考えてることはきっと無駄だ」 「………それは「あー、腹減ったー!おばちゃんに夜食作ってもらおー!」 真意を問いただそうとするも、小平太は言いたいことだけ言ってさっさと食堂へと向かって行った。 残された八左ヱ門は少しの間小平太の言葉を思い出して考えていたが、今の自分には到底理解できなかった。 空になった皿を持つ手に力を込め、小平太とは反対方向に歩き出す。 「(虎徹先輩の性格…。確かに七松先輩や他の先輩に比べたら付き合いが短いが、知っているつもりだ。細かいことは気にしない大らかな先輩…。だから今回のことも気にしてないと?そんなことあるか!だって…、今さっきだって俺を睨んでた…。「うるさい」「出て行け」って言われたし、拒絶もされた。怒ってたじゃねぇか…ッ!意味わかんねぇよ!)」 ピタリと足を止めて、近くにあった柱を殴る。 拳が痛んだが、それ以上に頭が混乱していて痛みどころではない。 ギリッ…と食いしばって俯き、再び湧いてきた涙を廊下に落とした。 「虎徹先輩…、虎徹先輩ッ…!俺、もうわけわかんねぇっす…!早く謝りたい、早くよくなってほしい。だけど―――」 意識がハッキリしている虎徹に「もうお前なんて後輩じゃない」と言われたら、きっとまた頭が真っ白になってしまう。 それを思うとどうしたらいいか解らず、今日も寝れない夜を送るのだった。 ( TOPへ △ | ▽ ) |