願いの段 !注意! これから先、流血・暴力表現があります。 シリアスというより、ただケガしてるだけの展開です。 苦手な方は絶対に進まないように。最後はいつもみたいになると思いますが。 「…」 目の前で寝ている虎徹はとても静かだった。死んでいるんじゃないかと思うぐらい静かだった。 報告を済ませた雷蔵と三郎に虎徹を部屋に運ぶのを手伝ってもらい、自分の布団を持って来て隣に敷く。 虎徹が自室で飼っている犬や猫は八左ヱ門の部屋へ移動させ、餌を置いて静かに戸を閉めた。 虎徹の自室には虎徹と八左ヱ門しかいない。 夜はすっかり深まり、月が次第に傾き始めたというのに、八左ヱ門は寝ようとしない。 「虎徹先輩…」 最初は寝ようと思った。 明日からの委員会は虎徹が欠席するため、自分が虎徹以上に頑張らないといけない。 だけど、静かに寝ている虎徹を見ているとこのまま死ぬんじゃないかと不安になり、虎徹の胸に耳を当て、何度も何度も心臓の音を確かめた。 そうしている間に虎徹の傍から離れることができず、虎徹の隣にずっと座っている。 「すみません、先輩…。ごめんなさい…ッ!」 一人になれば、どうしてもあのことを思い出している。 手にも刺した感触がしっかり残っていて、何度か自分の手を苦無で刺そうとしたが、刺してしまうと虎徹の看病ができなくなってしまうと、苦無を静かに収める。 何度泣いても自分が虎徹を刺したことは変わらない。自分のせいで今こうやって苦しそうな顔をしている。 もし死んでしまったら―――? きっと自分で自分を殺したくなるだろう。 そんなことをしても虎徹が生き返るわけがないのは解っているが、自分を絶対に許すことができない。 涙は枯れることなく、八左ヱ門の頬を濡らし続けた。 「虎徹、先輩ッ……!お願いです、いつもみたいに笑って、…ください…ッ…」 いつもの笑顔がどんなのだったか解らない。だから笑って、早く怒って下さい。 目覚めてくれるなら、嫌われたって構わない。それだけのことをしてしまったのだから。 「だから起きて下さい…」 虎徹の布団をギュッと握りしめ、消えそうな声で呟いて布団に顔を埋める。 布団からは虎徹の匂いが微かに香ったが、すぐに消毒と血の匂いによって消されてしまった。 しかし翌日、虎徹の症状は悪化した。 伊作が言ってた通り、傷口から細菌が入り、病気にかかってしまったのだった。 ( TOPへ △ | ▽ ) |