過ちの段 !注意! これから先、流血・暴力表現があります。 シリアスというより、ただケガしてるだけの展開です。 苦手な方は絶対に進まないように。最後はいつもみたいになると思いますが。 「過ちの段」の主人公視点です。 「じゃあ、行ってくる。その間悪いけど委員会は任せた」 「はい!」 寝間着姿の竹谷に別れを告げ、学園の塀を乗り越える。 昼間のうちに外出届けを出しているから小松田さんに追われる心配はない。 鷹のミナトを連れて裏山を駆け、今から戦場へと向かった。 戦忍びになりたいから、時間ができれば戦場へと向かい、勉強している。 そのせいでケガをよく負ってしまうが、それは仕方のないこと。 伊作や留三郎、竹谷は嫌そうな顔をするが、「行くな」とは言わない。 他人から見れば「薄情な友人だ」って言われるかもしれないが、俺がそれを望んでいるんだから薄情な奴らじゃない。 そんな彼らを置いて死ぬなんてあってはいけないことだ。 今回も死ぬまいと覚悟を決め、とあるお城へ辿り着いた。 派遣の戦忍びとして雇われ、そのお城の忍び装束に着替えて適当に挨拶に回る。 このときに色んな忍者に顔を売っておくのを忘れない。いつか役に立つことがあるかもしれないからな。 「お、お前若いな」 「はい、まだ駆け出しのものです」 そこでベテラン風の忍者と知り合った。 その人はよくこのお城に雇われている人らしく、このお城について色々教えてもらった。 最後に顔をグッと寄せて、俺を真剣に見てきた。 「危ないと思ったら逃げろよ」 「……負けると?」 「今回ばかりは無理だ」 どこからの情報からか解らないが、今回の戦争は負けるらしい。 何でも敵のお城がたくさんの忍びや兵士を雇ったらしくて、兵力にかなりの差があるとのこと。 それだけ教えてもらい、その人は準備へと戻って行った。 「逃げろと言われたが、それなりに頑張らないと勉強になんねぇからな」 今回は自分の命を大事に戦おう。いつも以上にな。 俺の肩で羽休みをしているミナトを軽く擦り、今回の戦場場所へと足を運ぶ。 小高い丘を登り、一番背の高い木の上から周囲を視察。敵は東に陣を構えていた。 言われた通り敵の数は多い。ここの倍以上か? 戦場には兵士のみならず、忍びの数も多くいた。 「ミナト、危険だったら降りて来なくていいからな。まずは自分の命優先にしろ」 言葉は通じないが、気持ちは通じる。 俺の言葉を悟ってくれたミナトは一声鳴いて、大きな翼を広げた。 戦が始まって三日。まだ疲労は溜まっていない。 最初は押され気味だったが、戦忍びのおかげでかなりの量を減らすことに成功し、均衡を保つことができた。どうやら向こうの戦忍びは素人が多いらしい。 だけど兵士は本物で、三日も経てば再び押され始めた。 もう危ないかもしれない。俺も引こうか。 そう思って自分の退路を確保するためにその道の上にいる敵を次々と殺して行く。 「(……せめて大将だけは守ってやるか)」 幸い、大将がいる西陣は近くだ。 それに大将が死んでしまっては報酬金も貰えない。 足を一旦止め、西陣へと向きを変えて走り出す。 「…誰かいる…。まさかっ…!」 西陣に近づくと殺気が飛んできた。陣内からは悲鳴や怒声が響き渡っている。 ここでようやく敵が侵入していたのに気づいてさらに走る速度をあげた。 俺もまだまだだな…。もっとちゃんと気配を感じ取っていれば気づけたはずだ。これじゃあ戦忍びになれるか! 「(あいつかッ!)」 陣内から声が消え、幕から黒い忍び装束を着た人間が出て来た。 殺気を飛ばし、腰に差していた刀を抜く。 「(―――竹谷ッ!?何で!)」 だけどすぐにその忍びが竹谷だということに気づき、足を止める。勢いがついていたのでなかなか止まらなかったが、止まると同時に姿を隠す。 な、何で竹谷がこんなとこに…?……東軍の奴らが学園に要請したのか?そうとしか考えられねぇ…。参ったな。 「(仕方ねぇ、引くか)」 大将も竹谷によって殺されてしまった。戦もこれで終わり。ならば自分がここにいる目的はない。 刀を持ったまま逃げようとしたのだが、敵の兵士が襲いかかってきた。 刀で応戦していると次々とやってきてなかなか逃げられない。 「(間が悪すぎだろ!)」 殺しても殺しても奴らは俺に斬りかかってくる。 少しずつ進んでいるが、逃げるのは難しそうだ。 「(―――殺気…!)」 一人の兵士と応戦していると、後ろから凄まじい殺気が飛んできた。 誰だかすぐに解る。竹谷だ…。 今さっき俺が放った殺気のせいで若干キレたか、防衛本能で俺に襲いかかってきた。 こんな恰好だし、顔も口布で隠れてるから気付かないんだろうな…。 「俺だ」と言ったところで、もう止まるような速度じゃないし、あいつじゃない。 ならば俺がやることはなんだ? 「(食いしばれ。耐えろ!)」 少しでも声をもらせば、俺だと気づく。だから絶対に声を出すんじゃねぇぞ、俺! 真面目なあいつだ。きっと俺を刺したって気づいたら泣いちまう…。きっと一生後悔し続ける…! そんなこと絶対ぇさせねぇし!先輩は後輩の全てを守ってやらねぇとな! 「(ッ!)」 敵を殺して振り返り、無理やり体勢を変えた。 腹ならなんとか生き残れるだろ。心臓は勘弁な。 苦無が奥まで刺さり、鋭い痛みが全身に走ったが声には出さなかった。 痛みで意識が飛びそうになったが、歯を食いしばって意識を保つ。次はここから全力で逃げねぇとな…。 「(―――おい…マジかよ…)」 一瞬浮いた足を地につけ、逃げ出そうとしたが、竹谷の後ろに味方の兵士が槍を持って立っているのに気付いた。 このまま俺が逃げだせば竹谷が殺されてしまう! 瞬時に竹谷の両肩を掴んで、立ち位置を変えた。 腹部と同じぐらいの痛みが肩に走る。熱い…! 兵士の頸動脈を刀で斬り、同時に地面に倒れ込む。 逃げないと竹谷に殺されてしまうのに、身体はもう動きそうにない…。痛いし熱いし痺れるし意識は朦朧とするしダメだこりゃ。 「(まあ…。竹谷に殺されるなら文句はねぇわな)」 そしてどうか、俺だと気付かないまま帰ってくれ。それだけが願いだ。 薄れゆく意識の中、竹谷が構えたのが見えて死を覚悟した。 「(ミナト…)」 「ミナ、ト…。え…、何で…」 ドクンと平常だった心臓が波立ち始めた。 やばい、気づかれてしまった。クソッ…、ミナトがここで降りてくるとは思わなった…! だからと言って身体は全く動かず、竹谷が俺の口布を取って顔を確認する。 驚愕というより、絶望した竹谷の顔が目に入って、俺の心も傷んだ。 ……いや、きっと竹谷のほうが痛んでる。 「(大丈夫、お前は悪くない。お前は敵を殺していただけ。俺が殺気飛ばしたからいけなかったんだ…。悪くない、悪くないからそんな顔するな)」 「虎徹先輩ッ!」 「(ああもう…。お前忍者だろ…)せ、んじょ…で…安易に名前を呼ぶな…。(お前は悪くないって何度言えば解るんだよ…)」 「虎徹先輩、虎徹せんっ…!俺、気づかなくて…!だって…、いるなんて、殺気が俺をっ…!」 「(もうそれはいいよ…。それより)…はち(ざえもん)…、無事で……よか、…た…。(ほんと、お前が無事でよかった…)」 無事だったことに安心すると、痛みがフッと消え、異様な眠気に襲われて俺は意識を失った。 遠くで竹谷が叫んでいるのが聞こえたが、もう声をかける力もなかった。 ごめんな、弱い先輩で。起きたらちゃんと褒めてやんねぇとな。いい忍びの目をしてたって―――。 ( TOPへ △ | ▽ ) |