夢/とある獣の生活 | ナノ

文次郎VS勘右衛門


各場所でそれぞれが戦っている今回の実習は、そろそろ終わりを迎えていた。
戦いながらも時には休憩をとり、または追いかけていると、朝日が次第に昇りはじめている。
六年生だけではなく、五年生もそろそろラストスパートをかけようと気を引き締めた。


「じゃあ、尾浜。あとは任せたよ、しっかりね」
「はい、お任せ下さい」


現在印を多く盗っているのは伊作・勘右衛門組み。
目的地の小高い丘へとやってきた伊作は作った薬を、勘右衛門の周りに設置する。
薬に囲まれている勘右衛門は扇子を片手に笑顔で頷く。


「でも本当に大丈夫なんですか?」
「薬のこと?うん、大丈夫。無臭だからなかなか気付かないと思うよ」
「匂いで睡眠薬だとバレるのもですが、その薬の中に立っとくのは……その、善法寺先輩も眠ったり…」
「ああ、僕?僕は大丈夫。大体どの薬も利かないから」


アハハ!と笑う伊作だが、毒や睡眠薬、痺れ薬も利かない伊作に勘右衛門は若干引き笑いを浮かべた。
伊作と勘右衛門で作った薬は睡眠薬。しかも伊作のオリジナル調合なので無臭。きっと虎徹か小平太にしか気づかない。
その薬を小高い丘の上から森に向かって扇子で扇ぎ、全員を眠らせてしまおうという大雑把な作戦だった。
(しかし大雑把なのは仕方ない。二人ともO型だ)
全員を眠らせることができても、印を盗らないと勝ちにはならない。
その為に伊作が睡眠薬を放つ森に、口布だけをあてて入って行くという。
彼には薬が効かないので問題はない。


「風の向きとかにも十分気をつけて」
「はい。万遍なく扇ぎます」
「じゃあ行ってくるね」


既に睡眠薬を森に向かって扇いでいる。
大量に作っているわけではないため、森全部に行き届くわけではないが、近くに文次郎がいることは解っている。


「(せめて文次郎のだけは盗りたい)」


せっかく順調なんだ。できればこのまま順調に進んで、そのまま終わってほしい。
こういった演習で初めて一位になれるのはきっと今回で最後だ。
自分の悲しい不運を恨みながら、静かに森を駆け抜ける。


「(っと…)」


進み続けていると、人が倒れているのが見えた。
慌てて気配を絶ち、木の陰に隠れて様子を窺うが、動く様子はない。
相手が誰なのかと目を細めてみると、仙蔵と長次だった。


「(何で二人が?戦っていたのかな?)」


文次郎だと思っていた伊作は、二人が寝ていることに疑問を抱く。
きっと賢い二人なら気づいてすぐに逃げたはず。
だけど二人は眠っている。演技でもなんでもない。
クナイを持ち、恐る恐る二人に近づき、様子を窺うも、彼らは目覚めそうになかった。
どうやら睡眠薬の効果は抜群のようだ。


「(ちょっと強すぎたかな…。ま、僕には効かないけど)」


こういったとき、薬に抵抗があってよかったと伊作は苦笑する。
だけどその場に留まっておくわけにもいかないので、二人の懐に手を入れ、印を探る。
長次の懐には何もなく、仙蔵の懐には長次の印が入っていた。しかし、仙蔵自身の印はない。


「(仙蔵のは久々知に持たせているか、どっか隠してるんだろね)」


賢い仙蔵のことだ、きっとそうに違いないと伊作は二人に向かって頭を下げ、再び森を走り出した。
一方、扇子を扇いで睡眠薬を森を送っている勘右衛門は少し暇を持て余していた。
伊作に言われた通り、風向きを考えながら送っているのだが、仕事が簡単なだけに暇で暇で仕方ない。


「ふわああ…。そろそろ演習終わりかぁ…」


その丘からは太陽がよく見え、自分の頬を照らす。
太陽の光りに目を細め風向きを読もうと立ちあがった勘右衛門。
だが、風向きを読もうとはせず、静かに袖から万力鎖を取り出した。


「よくここまで辿りつけましたね」


後ろにいる人物、文次郎に話しかけながら勘右衛門は口布をする。
きっと文次郎と戦うことになれば、睡眠薬を吸ってしまう。


「お前たちがいることは気づいていたからな。仙蔵に裏をかかれたまま終わるのは癪だから、仙蔵の裏の裏をかいたまでだ」


右手で左肩を掴んで、首をゴキンと慣らす。
ピリピリとした緊張感が勘右衛門にも届き、自然と笑みを浮かべていた。


「でも丁度よかったです。暇してたんですよね、相手して下さい」
「ああ、そのつもりだ」

文次郎の返事を聞く前に勘右衛門は不意打ちを狙って万力鎖を放つ。
文次郎の身体に鎖が巻きつき、身動きが取れなくなったが、文次郎は好戦的な顔で笑い、身体で勘右衛門を引き寄せた。
まさか引き寄せられるとは思ってなかった勘右衛門はバランスを崩し、前のめりになって倒れそうになる。
力が弱まったのを狙い、文次郎は鎖から脱出。
勘右衛門の腹部に狙いを定め、力いっぱい蹴り込んだ。
避けることはできなかったが、腹筋に力を込めてなんとか痛みに耐えた勘右衛門だが、反撃はできそうにない。


「もー…、八左ヱ門のときといい、今回といい…。俺あんまり肉弾戦は好きじゃないんですよ…」
「知らん!嫌なら実習終了時間まで逃げてみせろ!」
「っほんとに…。無理に決まってるじゃないですか!」


片膝をついたまま鎖を再び文次郎に向かって投げつける。
両端についた錘が少しでも身体に当たれば、かなりのダメージになる。
どうなるか解っているからこそ、文次郎は鎖の動きに注意し、絶対に当たらないよう避け続ける。
一回も当たらないのがつまらない勘右衛門は、次第にムキになってきたが、最初に言われた伊作の言葉を思い出し、一度動きを止める。


「どうした、諦めたか?」
「自分を落ちつかせてたところです。では、続きいきましょうか」
「ああ、どこからでもかかってこい」


文次郎が手を抜いて自分で遊んでいるのは解っている。だからムキになっていたのだが。
だけどそれは文次郎の策略の一つ。
仙蔵と伊達に六年間同じ部屋だっただけに、他人で遊んだりするのが得意になっていた。


「どうした尾浜、先ほどから同じような攻撃しかしていないぞ!」
「もー…いちいちうるさいんだよなぁ…」
「なんか言ったか!?」
「さっさと倒れて印下さいとは言いました」
「だから、俺に一発でも当てることができたらやると言っとるだろうが」
「それができないから言ってんじゃん…っ」
「ほら、手が止まってるぞ!」
「(ギンギンに忍者してるって言われるだけにすっごいウザい!)」


それでも楽しそうに文次郎と戦う勘右衛門だった。


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