夢/とある獣の生活 | ナノ

雷蔵VS兵助の段


留三郎と虎徹と八左ヱ門と伊作が不運なめにあっている間と、小平太と三郎が警戒し合っている間のとある場所では、長次と雷蔵が文次郎と戦っていた。

因みに、現在の印の奪い合い結果はこうなっている。
伊作・勘右衛門組みは、留三郎と八左ヱ門と虎徹を奪ったので五つ。
留三郎・八左ヱ門組みは、伊作に奪われているので何も持っていない。
文次郎・三郎組みは、文次郎のはあるが三郎のは小平太に奪われてしまい、一つ。
仙蔵・兵助組みは、仙蔵のはあるが、兵助のは雷蔵に奪われてない。代わりに三郎から奪った小平太の印を持っているので二つ。
長次・雷蔵組みは、自分たちのと兵助の印を持っているので三つ。
そして小平太・虎徹組みは、虎徹のを伊作に奪われて持っているのは一つ。


「中在家先輩、罠の数が多すぎて…!」
「ん…。こんなに…いつの間に…」
「お前らが虎徹と戦ってる間ずっとだ!」


三郎と別れた文次郎は虎徹を追いかけていた。
仙蔵同様、印を奪う前に動物を使役されては困る。
だが虎徹は仙蔵・長次の二組に狙われていた。
自分も一緒に混じるかと思ったが、仙蔵がいたため身を引いて別の作戦を立てるのことにした。
長次だけなら加勢していた。仙蔵は裏の裏の裏までかいてくるので、できるだけ関わりたくない。
先の展開を読んで、文次郎は休むことなく簡単な罠を仕掛け続けた。
留三郎や伊作、虎徹に襲いかかった罠は文次郎が作った罠だった。


「先輩、避けてばかりだとキリがありません」
「……できるか?」
「一瞬だけでいいなら…」
「頼む」
「はい!」


文次郎が作った罠は致命傷にならない罠ばかりなのだが、反撃しにくいものばかり。
罠を避けた先から再び罠が襲ってきて、さらに文次郎も襲ってくる。
逃げるばかりの二人だが、雷蔵が長次に提案をした。
文次郎に一瞬の隙さえあれば、縄標で彼を捕えることができる。捕えることができたらあとは簡単だ。
その隙をつくるため、雷蔵は一旦その場から姿を消した。
文次郎が逃がすまいとクナイを放ったのだが、長次がそれを邪魔する。


「なんだ、可愛い後輩を逃がしてやったのか?」
「ああ、そうだ。何も敵は文次郎だけではない…」


空中で手裏剣と手裏剣が交差する。
長次が罠で手傷を負っても、縄標を投げることを止めず、文次郎を攻め続ける。
縄標で頬や腕に傷を負っても、文次郎も一歩も引くことはない。
日々、小平太と自分たちで鍛錬を重ねているので、お互いの動きは大体把握している。
そのため、なかなか決着がつかない。


「―――潮江先輩」


たくさん仕掛けられていた罠も止まり、長次と文次郎が武器を持って戦っていると、文次郎の背後から三郎が現れた。
ボロボロ姿の三郎は、持っていたクナイに力を込めて文次郎に近づく。


「私も助太刀致します」


そう言う三郎だったが、目標は長次ではなく文次郎に向かっていた。
そう、彼は三郎ではなく三郎に変装した雷蔵だった。
三郎だと油断させ、文次郎を捕えるか隙を作るかしようとした雷蔵だったが、文次郎は気づいているのか、殺気を飛ばして睨みつける。
動きを止めるはずだった雷蔵が逆に止められてしまい、文次郎に鳩尾を蹴られ、力強く吹っ飛ばされてしまう。
痛みと衝動で受け身がとれず、木で頭を打ちつけそうになった雷蔵を、長次がかばって受け止めてくれた。


「ガハッ…!」
「大丈夫か?」
「ゴホッ、ゴホッ…。な、なんとか…」
「甘かったな、不破。お前がいつもと違うということは鉢屋から聞いている」
「三郎から?」


三郎から、「雷蔵には油断しないように」と言われていた。
三郎自身、雷蔵を直接見ておらず、兵助からの情報だけなのだが、彼は文次郎に注意を促した。
兵助を騙したとなれば、きっと文次郎と会えば三郎になりきって騙しにくるだろう。
だから、まず自分を見たら疑って下さいと三郎は文次郎に伝えた。
案の定、雷蔵は三郎になりきって襲いかかってきた。解っていたので殺気で彼の動きを止め、蹴りを食らわせることに成功。


「当分の間動けんだろう?さあ、長次、さっきの続きといこうか」
「す、すみま…ゴホッ!」
「いい、休んでいろ…」


雷蔵をその場に座らせ、縄標を構えて文次郎を見据えた瞬間、首筋に冷ややかなものが当たった。
文次郎がクナイでも投げてきたのかと思ったが、彼の手にはまだクナイが握られている。
彼の顔を見るととても嫌そうな顔を浮かべ、舌打ちをした。


「動くなよ、長次」
「……仙蔵か…」


長次の背中には仙蔵が気配を消したまま立っていた。
クナイを長次の首筋にあて、雷蔵にもクナイを向けている。


「ご名答。文次郎、貴様もだ。一歩でもこちらに向かってこようとするなら、火縄銃がお前の頭を打ちぬくぞ」
「…殺しは違反だろう」
「なぁに、奴が勝手に動いてとかなんとか言えば大丈夫だ」
「テメェは…」


勿論本当に殺したりなどしない。これは実習であって、戦場ではない。
だが、六年生はみな、殺すつもり満々だ。その気持ちでしないと演習の意味がない。
文次郎はクナイをおさめ、静かにその場から立ち去って行く。
確かに兵助が文次郎の頭を狙っていた。見なくても匂いで解る。


「長次、殺されたくなければ印を貰おうか?」
「………」
「この状況からの回避は無理だろう?あがくな」
「…はぁ」


構えていた縄標をおろし、大人しく胸から印を取り出した。
印を見た仙蔵は満足そうに笑い、奪って兵助を呼んだ。


「解っていたが、今現れるとはな…」
「気配を消してずっと機会を窺っていた」
「………久々知も気配を消すのがうまいんだな」
「なぁに、コツを教えれば一発だった。ではこれは貰っていこう」


長次の首からクナイを離そうとした仙蔵だったが、下にいる雷蔵が動いたのを横目で捕え、再びクナイを持つ手に力を込めた。


「動くな、不破」
「……」
「その場から攻撃してきても、その前に長次の首が吹っ飛ぶぞ」
「…何故、僕のは奪わないのですか?」


俯いた状態で、ふらりと木にもたれながら立ち上がり、仙蔵に問うと、仙蔵はフッと笑って長次から離れた木の枝へと逃げる。


「お前からは盗らん」
「何故ですか?僕が弱すぎるからですか?」
「そうではない。お前に借りがある奴がお前から盗る気満々なんだ。―――兵助、自分のものは自分で取り返せ」


言い終わったと同時に枝から飛び立つ。
しなる枝を見て、長次も木の枝へと飛んだ。


「不破、常に冷静でいろ」
「中在家先輩…」
「信じてる」


他人には解りにくい笑みを浮かべ、長次は仙蔵を追いかけて行った。
その場に残された雷蔵の元に、草むらを割って向かってくる人物が一人、兵助。
対峙する二人の間には先ほどまでとは違った緊張感が流れている。


「やられたよ、雷蔵。まさか奪われるなんてな…」
「うん、僕もビックリしてる。でも謝ったりはしないよ?」
「勿論だ。これは演習だからな。寧ろ謝ったら殴ってたよ」
「あはは、兵助に殴られるなんて貴重だろなぁ」
「だな!……でも、雷蔵のおかげで俺も三郎から印を盗ることができた」
「三郎から?それは凄いね」
「七松先輩に追いかけられ、精神的にも疲れているとこをな」
「七松先輩相手は厳しかっただろうね…」
「俺もできることなら七松先輩とはやりあいたくないな。あと虎徹先輩とも」
「うん、だね。でも、兵助とならやりあえるよ」
「ああ、俺もだ」


言うや否や、兵助は刀を取り出し、雷蔵はクナイを取り出して地を蹴った。
雷蔵が兵助に向かって取り出したクナイを何本か投げるが、兵助は刀で全てを落とした。
姿勢を低くして接近してくる兵助を、雷蔵はジッと見据え、動きを読む。
首を狙う軌道を読み、紙一重でかわしたあと、兵助の腕を掴み、次に胸倉を掴んで地面に力強く叩きつける。
背中を打ち付け、一瞬息が止まった兵助は表情を歪めるが、反対の手に握られていたクナイを顔めがけて思いっきり刺す。
これも紙一重で避けた雷蔵だったのだが、頬をかすめ、血が溢れて地面へと落ちた。


「うわー…、今の本気だったでしょ、兵助」
「雷蔵こそ思いっきり叩きつけただろ。背中痛い…」
「だってこれは実習だよ?本気でいかないと意味がない」
「先輩たちが俺たちの戦力強化をするためにわざわざ時間を割いてくれたんだ、本気になるに決まっているだろう」
「そうそう。だから、次も本気でいかせてもらうから」


ニコッといつもと変わらない笑みを浮かべる雷蔵だったが、拳の関節を鳴らして今度は素手で兵助に向かっていくのだった。


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