夢/とある獣の生活 | ナノ

不運のは組の段


「捕えたか!?」


声とともに姿を現わしたのは虎徹だった。
先ほど飛び出してきたのは虎徹の山犬で、留三郎を押し倒していた。少しでも動こうものなら剥いている牙で襲いかかる気満々。


「虎徹先輩ッ!?」
「竹谷?…つーかまた四人かよ!」


小平太と別れた虎徹は気配を頼りに伊作と勘右衛門を探していた。
きっと不運でケガをしているだろう。そう思って血の匂いを辿っていくと、ここに辿り着いてしまった。
しかもケガをしているのは伊作ではなく、留三郎と八左ヱ門。
間違えたと頭を抱え、どうしようかと考えていると、留三郎に名前を呼ばれた。


「虎徹、言っとくが俺と竹谷は印持ってねぇぞ」
「え、そうなの?でも小平太お前らから奪ってねぇって…」
「俺たち七松先輩と戦って、崖から落ちたんです。で、勘右衛門と善法寺先輩に助けられたんですが…」
「はーん、そういうことな」


八左ヱ門が途中まで話すと、全てを読みとった虎徹が留三郎を押し倒していた山犬を呼ぶ。
木に寄りかかり、座りこんでいた伊作は嫌な予感がして、勘右衛門に顎で合図を飛ばす。
勘右衛門は伊作の指示通り、八左ヱ門から離れ森の中へと逃げ出し、伊作も木の上へ登って逃げ出す。


「留、ここは協力するぜ!但し、盗ったもん勝ちな!」
「ああ、解った!行くぞ、竹谷!」
「はい!」


虎徹は二人と同盟を組んで、伊作と勘右衛門を追いかける。
しかし二人は虎徹が使う山犬に捕まらないために、枝から枝を移動している。
木から木への移動は地面を走るより速度が落ちてしまうので、そう簡単に捕まえることができない。
いくら不運とは言え、六年間頑張ってきた伊作の囁かな抵抗だった。


「おい虎徹。どうにかしろよ」
「解ってるっつーの!もう手は打ってある」


チラリと上空を見ると、鷹が頭上を過ぎて伊作たちに向かっていた。
いつの間に指示を飛ばしたのか八左ヱ門には解らなかった。
いくら留三郎に「自信を持て」と言われても、やはり虎徹を前にすると自分はまだまだだと感じてしまう。


「いっけえええ!」


鷹は虎徹の声と同時に伊作を正面から襲った。
驚いた伊作は足を滑らせ、地面へと落ちそうになったが、勘右衛門が鎖で足を捕えてくれた。その下には山犬が伊作が落ちてくるのを待ち構えている。
避けた鷹は、後ろを追いかけてきていた留三郎にぶつかり、地面へと落ちる。


「食満先輩!」
「アハハハハ!何してんだよ、留三郎!」
「笑ってんじゃねぇよ虎徹!」
「だ、だって間抜けすぎて…っ!」


八左ヱ門は留三郎を追いかけ、虎徹は枝の上で笑い続けた。
そうしている間にも勘右衛門が伊作を引っ張り上げ、逃げ出そうとする。


「伊作が逃げるぞ!」
「っと、笑ってる場合じゃねぇよな」


涙を拭って伊作と勘右衛門を追いかけようと足に力を入れて飛ぶと、何かが身体に当たってプツリと切れた。
と同時に嫌な予感がした虎徹は顔をしかめる。
予想通り、飛び移った枝に足をつけると頭上から丸太が落ちてきた。
クナイを構えて避ける準備をしていたので簡単に避けることができたが、避けた場所に伊作と勘右衛門がおり、二人にぶつかって地面へと真っ逆さま。


「虎徹先輩!」
「この罠誰が…?」


留三郎は疑問に思いつつ警戒する。気配は感じない。罠だけが仕掛けられている。


「いてて…」
「善法寺先輩、すみません。大丈夫ですか?」
「う、うん…っうひゃああ!」
「先輩!」


勘右衛門の下敷きになった伊作が打った場所を擦りながら起き上がり、一歩後ろに下がると、何かに足をとられ吊りあげられてしまった。


「一本釣り式輪なわが何で…」
「ひえええ!」
「お、丁度いいな。留三郎、伊作と勘ちゃんから印盗ろうぜ」
「おう!」
「そうはさせません!」


ラッキーと言わんばかりに二人は笑い、吊りあげられた伊作に近づくと、勘右衛門が立ちふさがる。
しかし六年を二人相手にできるほど体力が残っていない。
ダメかと諦めかける勘右衛門の後ろでは、伊作が自力で罠から脱出し、地面へと再び頭を打ちつけた。
フラフラしながらも逃げようと起き上がるのだが、目が回っていて、真っすぐ立てない。
木に手をつき、よろけながら足を動かすと、また何かがプツンと切れた。


「え?」


前から丸太が自分めがけて落下してきて、腹部を強打。そのまま後ろへと吹っ飛ばされてしまった。


「さ、さすが伊作…。不運の一言じゃあすまされない不運だな」
「って、虎徹!ぼーっとしてる場合じゃない!こっちからも丸太が落ちてきやがった!」
「ええええ!?」


伊作が発動させた罠は、留三郎と虎徹、八左ヱ門にも降り注いだ。
避ければ避けるだけ罠が発動し、虎徹は吹っ飛ばされ、留三郎と八左ヱ門は深い落とし穴に落ちてしまった。
その場には無傷な勘右衛門しかおらず、不運の展開に呆然としていた。


「凄い不運の連続…」


不運の元凶である伊作はともかく、伊作と同室の留三郎と、同じ組の虎徹まで巻き込まれてしまった。
八左ヱ門は伊作とは無関係なはずなのに、どうして同じようなめにあうのか考える。


「……委員会で虎徹先輩と一緒。今回は食満先輩と一緒。だから?」


プチ不運の二人と関係をもっていれば不運がうつるようだ。
あまり二人と、そして八左ヱ門とも関わらないほうがいいかもと呟きつつ、吹っ飛ばされた伊作に近づいて頬を軽く叩く。


「先輩、善法寺先輩」
「うう……」
「起きて下さい。今が絶好の機会ですよ」
「…ど、どういうこと…?」


気絶から目を覚まし、伊作とともに吹っ飛ばされた虎徹へと向かう。
山犬と鷹は罠から逃げるため今は姿がない。
その隙をつき、虎徹の懐から印を奪い取った。


「これで三つ目ですね」
「まさか不運なめにあっても印を盗れるなんて…。今回は最下位脱出できそうな気がするよ!」


いつもだったらこうはいかないのに、今回はいいことばかり。
目を潤ませ喜んでいる伊作に苦笑しつつ、勘右衛門と伊作はその場から離れる。
本当はケガをしている虎徹の治療をしてあげたいが、早く離れなければ山犬と鷹に見つかってしまう。
それに、留三郎と八左ヱ門が穴から脱出してくる。
そうなれば今度こそ印を奪われてしまう。


「じゃあ、行こうか」
「はい!」


少しでもこの場から離れるよう、痛む身体に鞭を打って再び丘を目指した。



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