夢/とある獣の生活 | ナノ

合流と夜の段


「山犬が二匹に、鷹が一羽。上等、上等!」


仙蔵と長次から逃げた虎徹は、道具となる獣を使役した。
動物が少ない山奥にしては上出来と、隣を一緒に走る山犬の頭を撫で、森の中を進んでいた。
仙蔵と兵助から印を奪うつもりだったが、長次と雷蔵が現れては思うように動けない。ましてやあのときは獣もいなかった。
一旦引いて、小平太と落ち合おうと思い、山犬に小平太の手ぬぐいを匂わせ探させる。


「さすがに四人相手は無理だよなー…」


二人相手ならまだなんとかなるものの、四人相手となるとさすがに無理だ。
逃げるのだって危なかった。でもそのおかげで獣使いとしての腕があがった気がする。
あのときの感覚を忘れまいと、すぐに山犬二匹を使役することができた。
今ならどんな指示を出しても動かすことができる。


「あ、その前に印を鷹に預けとくか」


上空を飛んでついてくる鷹に視線を向けると、視線…殺気に気づいた鷹は虎徹の腕にとまる。
懐に隠していた印を鷹に渡そうとした瞬間、目の前から凄まじい殺気が飛んできて、鷹は上空へと逃げ、山犬は姿勢を低くして唸り声をあげた。


「この殺気…、小平太か」


殺気を肌で感じながら虎徹は足を止め、森の奥からやってくる小平太を待つ。
すぐに現れた小平太の顔は、何に楽しんでるか解らないが笑っていた。


「え、何であいつキレてんの?おーい、こへ「見つけたあああああ!」


声と同時に地を蹴り、拳に力を込めて虎徹に飛びかかる。
「ハァ!?」と驚きながらも小平太からの攻撃を避け、すぐに起き上がり小平太を探す。
しかしその場には既に姿が見えず、同じく攻撃を避けた山犬に「襲え」と命令した。
山犬は姿を消していた小平太をすぐに見つけ、牙を剥いて襲いかかる。


「おっ?山犬を使ってるってことは、お前虎徹か?」
「どっからどう見ても俺だろうが!なんなんだよ、いきなり!」


殺気を飛ばすのを止め、拳をおさめると山犬も唸り声を止め、虎徹の元へと集まる。


「先ほど虎徹に変装した鉢屋に印を奪われてしまった」
「……は?え、……マジで?」
「私は嘘をつかんぞ!」
「えばって言うことじゃねぇよ!お前何してんの!?」
「騙されたんだ、仕方ないだろう?」
「仕方ないって…。何で変装に気づかねぇんだよ…っ。普通解るだろ!?」
「解るわけないだろう?私、虎徹と違って人間だもん」
「俺は人間じゃねぇってか!?俺も人間だよ!」
「え、そうだったの?」
「テメェ!」


小平太の胸倉を掴む虎徹だが、小平太はいつものように楽観的に笑っていた。
そんな小平太を殴ってやりたいが、今は争っている場合ではないと一度間を置いて、手を離した。


「で、盗られたからには留三郎たちのは盗ったんだろうな」
「盗れてない!」
「ッ…こ、へ、い、たぁ…!」
「待った待った!犬使うのは卑怯だぞ!」
「俺奪ってこいって言ったよなぁ!?」
「だから、鉢屋に邪魔されたから奪えなかったんだって」
「あー、もう…。しょうがねぇ、とりあえず休憩しようぜ」
「え、でも鉢屋追わないと」
「バカ!あんな殺気飛ばしながら追いかけたって無駄に決まってんだろ。鉢屋は勘が鋭いし、気配を消すのもうまい。もうどっか遠くに逃げてんよ」
「そっかー…。つい楽しくなりすぎて気配を消すの忘れてた。すまん!」
「もういいよ…」


ハァ…と呆れるような、疲れたような溜息をはいて、その場にしゃがみ込む。
獣たちも虎徹に寄り添い、気を許すように目を瞑った。
小平太はまだ走れる様子だったが、空を見上げると月が昇っていることにようやく気がつき、大人しく座った。


「で、次はどうする?」
「もうちょっと暗くなるまで待つ。夜のほうが俺らに有利だろ?」
「ああ、そうだな!」


月が高く昇るまで、二人と獣は息を潜め、気配を絶つ。
次第に虫の鳴き声が耳に届き、一時の休息で体力の回復を図った。


「小平太が盗られたってことは痛いな…」
「そうか?でも虎徹は盗られてないんだろう?」
「盗られてねぇけど…」
「そう言えば虎徹はどうだった?」
「俺は仙蔵組みと長次組みに狙われ、逃げてきた」
「おー、まさか長次と組むとはな」
「俺もビックリした」
「ではどうする?一人で四人相手をするのは辛いだろう?」
「ああ、だからあんましたくねぇけど、伊作狙う。小平太は?」
「私は鉢屋を狙おうと思ってる!」


奪われたというのに、小平太は嬉々とした笑顔を虎徹に向ける。
「ああ、楽しんでんなぁ」とすぐに解った虎徹は、特に止めることなく、「そうか」と山犬に視線を落とす。
軽く頭を撫でてコミュニケーションをとっていると、小平太から視線が飛んできた。
どうしたのかと思って視線をあげると、彼は山犬を見ている。


「どうかしたか?」
「いや、腹減ったなと思って」
「食ったら殺すぞ、テメェ」
「食うわけないだろ、山犬の肉はうまくないからな!」
「そうじゃねぇだろバーカ!いいから黙って休めよ!」
「はぁ…、肉食いたい…」
「だからって鷹を見ながら呟くなっ!」


せっかく捕まえた可愛い獣たちをそういった目で見られてはたまらない。
山犬と鷹を連れて、小平太から離れた。


「そんなに離れたら危ないぞ」
「お前の近くにいるほうが危ないっつーの」
「冗談だってー…」


離れたまま、二人はそれぞれ木に背中を預け、目を瞑る。
寝るわけではない。ただ目を瞑っているだけ。それだけでも起きてるよりは体力の回復を図ることができる。
それに、目を瞑っていると聴覚が敏感になり、敵の接近にもいち早く気付くことができる。
そのまま二人は喋ることなく、警戒しながら体力を回復させ、月が高く昇ったところで、揃って目を開く。


「虎徹、狩りの時間だ」
「それはお前だけな。ちゃんと取り返してこいよ?」
「おう!」


立ち上がって、身体を軽くほぐす。
小平太は袖をまくり、グルグルと腕を回し戦闘準備完了。
虎徹は口布をあて、その場を数回飛んで姿勢を低くして、構えた。


「次に顔を合わせるのはいつにする?」
「鉢屋から奪い返したら虎徹のとこに行く」
「おーおー、鉢屋から奪う前提かよ」
「いくら天才とは言え、五年生に負けてしまっては六年の威厳がないだろう?」
「それもそうだな。手癖の悪い子にはお仕置きしたれ」
「おーし、任せろ!」


実習が始まったときのように二人は背中を向けたまま会話をし、小平太の言葉を最後にその場から姿を消した。


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