夢/とある獣の生活 | ナノ

合同実習前の段


「うん、これで久々知の傷も完治だね」


保健室には五年生が五人集まっていた。
先日の戦場実習で、ケガを負った四人が伊作によって手当てされ、本日全員完治した。
ケガが完治したおかげで、委員会もまともに出れるし、また実習にも行ける。
いいことなのだが、その前に地獄の実習がある。
そう、五六年合同実習。それを思うと素直に喜べない。


「あーあ、とうとう兵助も完治しちゃったか」
「僕、足はもう痛くないけど、なんだか心が痛いよ…」


勘右衛門と雷蔵が呟くと、伊作は不思議そうに首を傾げた。
三郎が二人の気持ちを伊作に伝えると、少しだけ申し訳なさそうに笑う。


「大丈夫、ケガしないような実習だよ。多分…」
「善法寺先輩は今回の実習、何をされるか知ってるのですか?」


兵助が聞くと、実習内容を知りたがっている他の五年生も身を乗り出して伊作の言葉を待った。


「うん、六年生は先に聞かされてたからね」
「どんな内容なんすか?」
「簡単だったよ。二人一組になって印を奪い合うだけ。場所は遠くの山で、丸一日通してやるみたい」
「二人一組ってことは、五年生と六年生が組むってことでしょうか?」
「ごめんね、尾浜。それは僕にも解らないや。五年生同士が組むかもしれないし、六年生同士が組むかもしれない。六年生が五年生に比べて二人ほど多いからね」


救急箱を閉じて棚の上へと戻し、置いてあったお茶を飲んで一休み。


「それを決めるのはクジか何かですか?」
「さあ、それも解らないなぁ。鉢屋は誰かと組みたいの?」
「そうですね、できれば雷蔵、もしくは立花先輩ですかね」
「えー、僕じゃダメ?」
「不運がなければ心強いです」


ハッキリ自分の気持ちを述べる三郎に、伊作はお茶を持ったまま明るく笑った。
それを隣で聞いている五年生は気が気でない。
三郎は大事な仲間だが、先輩相手にも引くことがない。
特に同室の雷蔵が頭を抑えている。


「はっちゃんは誰と組みたい?やっぱり虎徹先輩?」
「そうだなぁ。でもできれば七松先輩とも組みたいかな」
「あれ、竹谷ってそんなに二人が好きだったの?まぁ二人とも竹谷のこと可愛がってるから懐くの解るけど」
「そうではありません。なんていうか、戦いたくないからってのもちょっとあります…」


苦笑して頬をかく八左ヱ門に、雷蔵と三郎は少し顔をしかめた。
実習だから六年生と戦うことは自分の勉強になる。できるなら戦いたいのだが、先日の虎徹と小平太を思い出すと身体が強張ってしまう。


「あんな本気で戦っている二人を見たら、……身体がすくんでしまいます」


未だあのときの二人が脳裏に焼きついている。
最初から諦めているわけではないが、今の自分たちではあの二人に勝てそうない。


「えーっと、あんまり言いたくないし、余計怖がらせるかもしれないけど言っていい?」


暗くなる五年生に、伊作は言いにくそうに言葉を放つ。


「三人が見た二人の本気は本気じゃないよ」


伊作の言葉に、三郎と雷蔵と八左ヱ門は「え?」と声を揃えて目を大きく開いた。
兵助と勘右衛門は二人が戦っている姿を見ていないが、三人の話から大体どんなものか聞いていた。


「二人が本気でキレたら、敵味方見境なくなる。小平太も虎徹も、後輩がいたからギリギリ理性を保ってたんだ。特に小平太は、守るものがなくなると、例え自分の腕を持っていかれようが止まらないよ。そうなったら僕たちでも抑えれることはできない…」


ズッ…とお茶を飲み、ほっと息をつく伊作の前には、息をのんだ五年生。
あれで本気じゃないと言われ、余計実習したくなくなってしまった。


「二人ともやられればやられるほど熱くなる性格なんだよねぇ。殺気にもあてられやすいし…。そんな二人が組んだら最悪だね。お互いが刺激しあって暴走しまくるのが目に浮かぶよ」


アハハ!と笑う伊作だが、話を聞いた五年生は正直笑えない。愛想笑いすらできない。


「ま、そんなことにはならないと思うから安心して。ほら、君たちも委員会に戻らないと」
「あ、やべ!孫兵待たせたままだ!」
「タカ丸さん迎えに行かないと…」
「あー、今日当番代わったんだった!」
「また庄左ヱ門に怒られてしまう…」
「お前はサボりすぎ、不真面目すぎなんだよ。彦ちゃんにも嫌われたらおしまいだよ?」
「じゃあ、今度の実習楽しみにしてるね」


バイバイと手を振る伊作に頭を下げ、虎徹と小平太が組むことがないよう心の中で祈るのだった。





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