それから…の段 「兵助、勘右衛門!」 「よかった、二人とも無事だったんだね…」 「兵助、傷は大丈夫か?」 「八左ヱ門、雷蔵、三郎!よかった、お前らも無事だったんだな!」 「三人ともすまない…。俺がケガしたせいで…」 「気にすんなよ兵助!ほら、俺らのケガも見た目ほど大したことねぇし!」 「はいはい、とりあえず保健室で騒ぐのは止めてね」 保健室には兵助が寝ており、勘右衛門が伊作の手伝いをしていた。 そこへ、ケガだらけの三人が帰宅し、伊作が増えた怪我人の治療にあたる。 一緒に帰宅した長次と留三郎も伊作を手伝い、学園に待機していた文次郎と仙蔵に先ほどのことを説明した。 「ふむ、そいつらは暗殺者だよな」 「見た感じな。城のもんじゃねぇのは確かだと思うぜ」 「だが、奴らを雇っていた城がいたはずだ。報復に来るかもしれねぇ」 「……そうだとしても、あいつらは全て小平太と虎徹が殺した…」 「油断はできんということだ。俺はこのことを学園長先生に報告してくる」 「私も行こう。伊作、五人をよく見張ってろよ」 「任せて」 文次郎と仙蔵が保健室をあとにし、伊作が三人の治療を続ける。 兵助以上にケガが酷い三人に、伊作も真剣な顔になった。 「中在家先輩。虎徹先輩と七松先輩はあのままでよかったのですか?」 最初に治療を終えた雷蔵が伊作の手伝いをしている長次に話しかけると、手を止めた。 いつものように聞き取り辛い声でもそもそと呟くのを雷蔵が聞き取り、他の四人に伝える。 「大丈夫だ。もう少ししたら帰ってくる」 「…。また先輩方にご迷惑をおかけしました」 「竹谷、そんなこと気にすんなって。それよりこれから油断すんなよ」 「警戒もしないとね」 「警戒は体育委員と虎徹の動物たちが行うが…」 「ぼ、僕たちも…!」 「君たちはまずケガを直すことだね」 そう言って留三郎と長次が持ってきた布団を保健室に広げる。 部屋に戻ってもらってはバラバラになって治療するのに手間がかかる。できれば一ヶ所に固まっていてほしい。 今日、明日は保健室で大人しくするようきつく注意され、六年生は部屋へと戻って行った。 「そう言えば五人揃って寝るなんて珍しいな」 しん…と静まりかえる学園。 身体中が痛くてしんどいはずなのに、八左ヱ門は今ワクワクしている。 仲間を守ることができた。誰も死なずに帰れた。またこうやって皆で話すことができた。 それを思うだけで目が冴えてしまって、寝れそうにない。 今日の反省から会話が始まり、他愛のないことを話している間に夜は深まる。それでもまだ眠たくない。 「そう言えば虎徹先輩と七松先輩の本気を見たんだって?」 勘右衛門の言葉に、三郎と雷蔵と八左ヱ門はピクリと反応した。 「ねえどうだった?やっぱり怖かった?」 「いつも見る以上だったよ。あの二人は人間ではない」 「言い方は悪いけど、僕もそう思った…」 「へー…。どんな感じだったの?兵助も気になるよね?」 「ああ、できれば参考にしたい」 「それは…無理だな」 「どういうこと?」 「もうさ、バネが違うんだよ。僕たちにあんな動きはできない。あれは……うん、狼の動きに近いかな…」 「国泰寺先輩の戦い方は狼に近い。人間を止めてるって言ったほうが解りやすいか?俺たちは飛ぶのに足しか使わないが、国泰寺先輩は両手足を使って飛ぶ」 「…なるほど、全身を使っているわけだ」 「七松先輩は人の皮をかぶった狼だったな。型にはまってない戦い方をしてる。殺気に敏感で、襲ってくるものは全てなぎ倒す…。二人とも楽しそうだったよ」 八左ヱ門の言葉を最後に、保健室は静まりかえった。 小平太には学園にいる間は絶対に勝てないと、なんとなく感じていた。 だけど虎徹には頑張れば追いつけると思っていたのだが、今回の本気を見て、また壁を感じてしまった。 とても薄い壁なのに、高くて越えることができない。 「たった一年の差がここまで高いなんてな」 三郎が自嘲気味に笑うと、隣の雷蔵も苦笑した。 「それでも俺は虎徹先輩に頑張って追い付こうと思う。勿論、七松先輩にもな!」 「んー…八っちゃんならやれそうな感じがするかも。ほら、七松先輩と同じ感じするし」 「え、そうか?」 「八左ヱ門も素手で戦うの強いからね」 「雷蔵、八左ヱ門はただの力バカだ」 「八左ヱ門、頭も必要だぞ」 「三郎も兵助もうるせぇ!」 「―――何だ、お前ら元気だな!」 突然の訪問者に五人は息を止めた。 気配を全く感じなかった訪問者は、血で汚れた小平太と、虎徹。 保健室にズカズカとあがりこみ、適当に棚を開けて消毒液と包帯を取り出す。 解らないものはポイッと床に投げ捨てるのを見て、「絶対あとから善法寺先輩に怒られる」と五人は思った。 「ほら小平太、ジッとしてろって」 「だって虎徹がやると痛いもん」 「もん。とか言ってんじゃねぇよ。あと包帯巻くだけだから」 「虎徹ー、雑ー…」 「テメェに言われたかぁねぇな。つか利き手を痛めてっからうまく巻けねぇんだ」 「あのー、俺四人に比べて大したケガしてないので治療のお手伝いしましょうか?」 「おお、是非頼む!」 「すまんな、尾浜!」 ギャーギャーと騒ぐ二人を見るに耐えかね、布団から起き上がる。 兵助が蝋燭を近くに持っていき、小平太の傷口に照らすと、手裏剣が刺さっていた。 思わず息を飲んだ兵助に、「大丈夫だよ」と虎徹は笑って乱暴に抜いた。 「いったぁあああ!」 「うるせぇぞ、小平太。皆が起きる」 「もっと丁寧に抜け!」 「一瞬のほうが痛くねぇだろう?」 「………」 怒った小平太が、頭巾を巻いて止血している虎徹の傷口をガッと力強く掴んで、消毒液をぶっかけた。 「―――っがぁああ…テメェ…!」 「なんだ、やるかぁ!?」 「やらいでか!」 「ちょ、ちょっと先輩方、落ちついて下さい…!兵助、俺は虎徹先輩やるから兵助は七松先輩をお願い」 「解った」 「僕らも手伝おうか」 「そっちの三人は大人しくしてて。俺と兵助より重症なんだから」 虎徹と小平太を宥め、勘右衛門と兵助は二人を丁寧に治療してあげる。 身体中いたるところを切っては血を滲ませている二人だったが、致命傷となる傷は一つもなかった。 「勘ちゃんありがとうな!」 「いえ、ご迷惑をおかけしたお礼です」 「迷惑だなんて思ってねぇし。な、小平太」 「後輩を守るのが私たちの役目だからな!」 「竹谷たちも無事でよかった。間に合わなかったらどうしようかと思ってたんだぜ」 「お二人のおかげで助かりました。本当にありがとうございます」 「ありがとうございます!」 「……が…う……います」 「なんだ、鉢屋。声が聞きとれんぞ!」 「ありがとーございます」 「心込めろっての」 笑って二人は保健室を出ようとする。 よく見ると背中も傷だらけだった。 「あ、ちょっと待っ「そうだ、伝えることがあった」 勘右衛門が背中も治療しようと声をかけた瞬間、かぶせるように虎徹が振りかえった。 その顔はとても楽しそうで、ニヤニヤと五年の顔を見る。 「今回のこともあり、お前たちの戦力強化をするために、ケガが完治したら五年と六年による合同実習を行うらしい」 「詳しいことは私たちも知らんが、楽しいことになるぞ!だから早く完治してくれ!」 「よーし、小平太。食堂に侵入してなんか食おうぜ!」 「おう!じゃあ虎徹囮な」 「お前がやれよ!」 最後の最後まで騒々しかった二人を見送った五年生だったが、虎徹の言葉に愕然としていた。 そう、今日より辛いことが起きるかもしれないのだ。 「おい、八左ヱ門。私がお前を殴って悪化させてやる」 「いやいや、俺が三郎殴って悪化させてやるから」 「ぼ、僕当分の間治らなくていいかなー……」 「兵助、お願いだから一日でも遅く完治して!」 「ああ、そうするよ…」 ( TOPへ △ | ▽ ) |