獣の段 忍者のドロドロした展開あり。 暴力・流血表現あります。 苦手な方は進まないようお気を付け下さい。 「ガフッ…!」 「おい、それぐらいにしておけ」 男の言葉に、部下は八左ヱ門を手放した。 抵抗する気力を失っている八左ヱ門は重力に逆らうことなく、雷蔵、三郎と同じく地面に倒れこむ。 たくさんの敵に囲まれた三人は力を合わせて抵抗したが、数には勝てなかった。 三人が咳き込むと血が地面に飛び散る。 「あいつらの後輩だっただけに残念だったな」 「ぐ、あ…!」 「って言ってやりたいが、お前らの無駄な抵抗のせいで部下が何人か傷ついた。死より苦しい思いさせてやるよ」 何度も暴行を重ね、手裏剣や刀でできた傷口を踏みにじる。 鋭い痛みに三人が声をあげるも、敵は止めようとしない。 しかし、殴られても、蹴らるても、傷つけられても、悲鳴をあげても。三人は決して睨むことを止めない。 それが気に食わない敵はさらに力を加える。 とうとう叫ぶ元気さえなくなった三人を見て、息を荒げながら蹴るのを止めた。 「っはぁ…。おい、命乞いするなら今のうちだぞ」 「……は、誰が…するかよバーカ…!」 「命乞いなんてする…、ひ、つようない…」 「そう、だね…。忍びになった時点で命なんて捨ててるし…」 「そうか。なら死ね」 三人の頭に足を乗せ、首に刀を合わせる。 「ここまでか」と三人が諦めた瞬間、 「ギャッ!」 「うわあああ!」 敵が悲鳴をあげながら次々と倒れていった。 男が八左ヱ門から離れ、周囲を警戒するが、気配を感じとることができない。 森は変わりなく静かだ。誰もいない。だけど誰かがいる。 「誰だ…」 男を筆頭に見えない敵に向かって武器を構える敵たち。 「いいところばかり持っていくな」 「そういうなよ、三郎。そのおかげで助かったんだから」 「言葉通り、本当に危なかったね」 見えない敵の正体に、三人はフッと笑う。 痛む身体に鞭を打って身体を起こし、身を寄せ合う。 極力邪魔をしないよう小さくなって、 「あとは任せました、虎徹先輩」 と、八左ヱ門が笑った瞬間、空から二人の忍びが三人の前に落ちてきた。 お互い背中を預け、手にはクナイ一本。 「貴様ら、どこに忍んでいた…!」 「おー、私こいつ見たことあるぞ。あのとき負わせた傷は大丈夫か?」 「貴様はあのときの…!よくも仲間を、部下を、私を…ッ!」 場に似合わない声を放つのは小平太。 小平太の顔を見た男は先ほどに比べて冷静さを失っていた。 「こりゃまた派手にやられたなぁ、三人とも」 「男前がさがりましたかね」 「鉢屋、その顔雷蔵のだろう?」 「じゃあ、僕の男前下がりましたか?」 「雷蔵は性格が男前だからな。でもそっちんも似合ってるぜ。勿論、八左ヱ門もな」 「でも痛いのはイヤですねぇ」 「じゃああとは俺らに任せな」 「ええ、お任せします」 八左ヱ門が伸ばした手をパンと叩き、姿勢を低く構えた。 後ろの小平太も指をボキボキと鳴らし、戦闘準備を整える。 「(そう言えば…)」 八左ヱ門は痛みに耐えながら心で呟く。 虎徹や小平太と組手をしたり、実習で一緒に組んで戦うことはあるものの、本気で怒っている二人を見るのは初めてだった。 二人とも超接近戦タイプで、クナイを持っていてもその手で人を殴り殺している。 それに加え、人並み外れた身体能力と力(これは小平太のみだが)を持つ。 絶対にかわせない状態からでもかわしてみせる。 クナイで攻撃をするときは確実に急所をついて、一発で殺している。 手や足だけじゃなく、口にクナイをくわえて攻撃をしている二人はまるで獣だ。 「……不破、鉢屋、竹谷…」 「おい、大丈夫か?」 「中在家先輩!食満先輩も!」 二人が敵と戦っている間に、やっと追いついた留三郎と長次が三人に近づいた。 敵陣のど真ん中にいるというのに彼らにクナイや手裏剣といったものが飛んでくることはない。 全て虎徹と小平太が打ち落としている。 「大丈夫か…?」 「ここはあいつらに任せて俺たちは逃げるぞ。長次は不破、俺は竹谷と鉢屋を背負う」 「私は大丈夫です。あまり殴られませんでしたし」 「そうか?ならしっかり俺らについてこい」 「解りました」 長次が雷蔵を担ぎ、留三郎が八左ヱ門を担ぐ。三郎は痛む腹部を抑えながら立ち上がり、その場を逃げ出そうとする。 しかし、それに気付いた男が部下に指示をだし、邪魔をした。 八左ヱ門が指笛を吹いて進路を妨害するのだが、数が足りなかった。 「ハッ!それだけの獣で俺らを止めようなんて早い!」 それを聞いた虎徹は小平太に「引く」と矢羽根を飛ばし、小平太は素直に頷いて長次たちの援護に回る。 虎徹も小平太と一緒になって彼らを援護し、忍術学園へと走り出す。 「逃げていいのか?学園の場所がバレてしまえばお前らを皆殺しにするのだぞ?」 「な、中在家先輩…。敵の言う通りです。このまま帰ってしまえば…」 「安心しろ…。虎徹に考えがあるみたいだ…」 攻防戦をしながら山を駆け抜け、ある開けた場所へとたどり着いた。 その場所に凄く見覚えがあるのは八左ヱ門。生物委員でよく遊びに来る場所だ。 六年生は足を止め、五年三人を安全そうな大きな岩の前に下ろし、武器を構える。 その前には小平太と虎徹が仁王立ちで敵を見据えている。 敵はまだまだ残っていた。 「お前、今さっき「それだけの獣」って言ったよな?」 ゆらりと一歩前へ出る虎徹。隣の小平太は舌舐めずりをしながら敵を睨んでいる。 暴れたくて仕方がないといった雰囲気が、後ろにいる八左ヱ門たちにも伝わってきた。 「なら、これはどうだい?」 そう言って指笛を吹いた。 八左ヱ門とは違う高い音が森と空に響き渡る。 「安易に俺の縄張りに入ったのが愚かだったな。俺の可愛い後輩たちに手を出したことを後悔して地獄に落ちな」 すぐに姿を現わしたのは山犬のハルとナツは虎徹の後ろ、大きな岩の上で敵を威嚇する。 その次に現れたのは鷹のミナト。隼や、鷲も姿を現わした。 (因みに鳥目は鶏だけに当てはまり、大体の鳥は夜でも目がきく) 「特別にこいつも見せてやるよ」 ハルとナツの後ろから現れた一匹の山犬は、誰よりも血に飢えていた。 忍術学園で飼育している人食い狼、ナナシ。 ナナシの登場に、「食われる」と本能で感じた敵は一歩、二歩と後退する。 「それとさ、空にいるイヌワシって狼も食べちゃうぐらい狂暴な鳥らしいよ。じゃあ―――、バイバイ」 言うや否や虎徹も小平太も獣たちも一斉に襲いかかった。 動きやすい場所のおかげで、二人とも先ほどより動きにきれがある。 虎徹が敵に吹っ飛ばされても、狼のように両手足を地面につき、倒れないよう耐える。 そのまま両手足に力を集中させ、地を蹴って飛びつき、殺していく。 小平太は本能のままに戦う獣らしい人間だが、虎徹は完全に獣だった。 「食満先輩…」 「どうした、竹谷。あんま声出すなよ。俺たちも狙われる」 「…あれが、二人の本気ですか?」 「……まぁ…」 戦っている二人の瞳孔は完璧に開ききっていた。 もしかしたら自我を失っているんじゃないかと思うほど、血を流し続けている。 山犬のハル、ナツは虎徹を援護するように敵を倒し、人食い狼は人間のみを食い殺していた。 猛禽類は虎徹や小平太の手となり足となり、援護をしている。 「………そろそろ」 「ああ、だな」 敵はあらかた片付き始めた。 息を引き取った人間を、血の匂いで集まってきた野生動物たちが闇へと持ち帰って行く。 敵の頭を務める男も、小平太の手によって呆気なく殺され、森にいつもの静寂が戻っていった。 「虎徹せん「今のあいつらに近寄るなよ」 八左ヱ門が声をかけきる前に、留三郎によって阻止された。 背中を向けて立っている二人からは抑えきれないほど殺気が溢れている。 「あいつらは少し放っておけ。先に帰るぞ。立てるか?」 「あ、はい」 「不破、鉢屋」 長次が声をかけると、二人は肩を貸してもらい立ち上がり、二人を山に残したまま忍術学園へと戻って行った。 ( TOPへ △ | ▽ ) |