夢/とある獣の生活 | ナノ

再び現れた敵の段


「あー、よく働いた」


頭巾を脱ぎ、のんびり身体を伸ばしながら六年長屋を歩いている虎徹。
今日の委員会は少しだけ忙しかった。
自分のフォローをしてくれる八左ヱ門が、五年の実習で朝からおらず、下級生に負担をかけないよう働き続けた。
自分は委員長なのだが、上に立って指示を出したりするのが苦手。
後輩は可愛いが、指導するのは下手。(というより、甘すぎてダメ)
いつもだったらもっと早く終わることができたのだが、今日は遅くなってしまった。
委員会の後輩たちと一緒に食事を取り、それぞれの部屋へと送って、最後に自分も部屋へと戻ろうとした。


「―――騒がしい…?」


忍たま長屋は静かだ。しかし、学園の外がなんだか騒々しい。
よくよく耳を澄ませば、裏山と裏裏山に住んでいる動物が鳴いている。
もし怪しい人や、侵入者だったらハルとナツがすぐに駆けこんでくるのだが、来ない。


「他の山主が来たとか?」


もしそうなら、ハルやナツたちに任せて大丈夫だろう。
勝手に一人で納得して、部屋の戸に手をかけた瞬間、後ろから気配を感じた。
振りかえると忍び装束の兵助と勘右衛門。
塀から飛び降り、地面に二人揃って倒れ込む。


「勘ちゃん、兵助!」


勘右衛門が兵助の腕を担ぎ、無理やり立たせようとするのを虎徹は止めた。
兵助は右手で腹部を抑えて、息を乱している。
今日、五年生が実習で行ったのは知っていたが、まさかケガをして帰ってくるとは思っていなかった。


「だ、大丈夫か!しっかりしろ!すぐ伊作を「虎徹先輩!八左ヱ門たちが危ないんです!」


楽観的で明るい勘右衛門の表情は珍しく暗く、今にも泣いてしまいそうな顔だった。
何かあったと察した虎徹は目を細め、


「簡潔に頼む」


勘右衛門から事情を聞いた。
虎徹の心配する声を聞いた留三郎と伊作も中庭に集まり、他の六年生を集め出す。


「実習先にこの間の暗殺者が来たんです!三人は俺と兵助を助けるために残ってます!」
「場所は?」


この間の暗殺者というのは、前に八左ヱ門の腹部に返り刃の弓を放った暗殺者たちのこと。
小平太と長次が片づけたと言っていたが、残っていたらしい。
あの一件から忍術学園に逆恨みをするようになり、機を待っていた。
今回の実習が終わって、疲れ果てているところを狙ってきたらしい。
五人で一組の兵助たちが狙われ(八左ヱ門たちの顔を覚えていたらしい)、応戦したが人数が違いすぎた。
戦闘能力が高い八左ヱ門と、双忍と言われる雷蔵、三郎が残って、兵助と勘右衛門に助けを求めるよう逃がした。
場所を聞いた虎徹は持っていた頭巾を頭に巻き直し、塀を飛び越えて走り出した。


「おい虎徹!チッ、あのバカが…!」
「久々知、尾浜。とりあえず治療するかこっちへ」
「私も行ってくる!」
「あ!」


飛び出した虎徹を追いかけ、小平太も塀を飛び越えた。
留三郎が青筋を浮かべ、「バカ野郎!」と罵るも、二人ともすでに目的地へと走っている。


「あ、い、つ、らぁ…!」
「……私も行こう」
「長次…」
「留三郎、お前も行くぞ…」
「…ったく、伊作の面倒だけでもしんどいのに…」
「ちょ、ちょっと留さん!それどういう意味だよ!」
「仙蔵、文次郎。あとは任せた…」
「長次、お前だけが頼りだ。私たちもあとから向かえたら向かおう」
「おい留三郎、長次。しっかりバカ犬どもを見張れよ」
「うるせぇ文次郎!言われなくても解ってるっつうの!」


長次と留三郎はそれぞれ得意とする武器を持ち、虎徹と小平太を追いかけた。
いくら相手がプロの暗殺者だとしても、虎徹と小平太がいればきっと大丈夫だろう。
それに小平太と長次は一度暗殺者と戦っている。
でも、残っている八左ヱ門たちを助けられるかは解らない。
勘右衛門の話し曰く、三人がいるのはここから離れた場所なのだ。


「八、雷蔵、三郎っ…!」


木から木へ飛び移りながら虎徹は三人の名前を呼んだ。
無事でいてくれと何度も願い、全力で駆け出す。


「虎徹、そう心配するな。三人が優秀なのは知っているだろう?」
「でも相手はプロの暗殺者だ。しかも前回のことがあって相当俺たちを憎んでいる」
「それはすまない。私が全部殺った」
「いや、それを責めているつもりはねぇ。殺さねぇとこっちが危ないからな」
「じゃあ今回も?」
「場合によるな」


犬歯を見せて笑う虎徹に、小平太も楽しそうに笑った。


「八左ヱ門たちが無事なら殺さない。殺されていたら殺す。向こうが殺る気でも殺す」
「……私、ずっと思ってたけど、虎徹は忍びに向いてないな!」
「それはお前もだろ。戦いたがる忍びがどこにいるんだよ…」
「アハハ!細かいことは気にするな!」


山を駆け、地を蹴る。
八左ヱ門たちが残っている場所まであと少し。


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