夢/とある獣の生活 | ナノ

後輩虐めの段


「お前は黙っていればそれなりに綺麗に見えるんだから、黙ってろ。解ったな?」


女装実習があるから、化粧の得意な仙蔵に頼むと、綺麗に素早くすませてくれた。
さすが作法委員だけあって見事だ。
俺は女装が苦手だから、いつも適当に化粧してそれなりに身なりを整えるだけ。
でも顔立ちのおかげか、適当にしても普通の町娘に見える。伊作曰く、背が高くなければ可愛い系らしい。
だけどちょっと飽きた。だから仙蔵に頼んで、いつもとは違う女装にしてもらった。


「おお…、さすが仙蔵だな。俺が俺じゃねぇ」
「言葉づかいに気をつけんか、アホ」
「よっしゃ、ちょっと外出てくる!」
「話を聞けバカ犬!」


今回は可愛い系から綺麗系へと大変身!
別に女装が好きってわけじゃねぇけど、なんかすっげぇ楽しくなってきので外へと出かけた。
実習まで、まだ時間はある。それまで誰か騙したいなー…。鉢屋あたりに話しかけてみるかな。すぐバレるんだろな。


「お、あれは竹谷くんじゃないですか」


門付近までやってくると、山へと向かおうとしている竹谷を発見!
よしよし…、あいつで遊ぶか。
竹谷より先に塀を飛び越え学園の外へ降り立つ。
うん、やっぱ動きにくい。仙蔵はそんな素振り見せないから凄いよな。
砂を叩いて身なりを整えると、門が開いて竹谷が出てきた。
………俺がいること気づいてない。お前さ、忍びとしてどうなの?ちゃんと気配を感じ取らないと。
って思ったけど、自分が気配を消していることに気づいた。ごめん、竹谷。
気配を消すのを止めた瞬間、竹谷が俺を見て動きを止めた。


「もし?」


バレないよう顔は若干俯き、声も無理やり裏声を出して固まっている竹谷に話しかけると、ビクリと肩を震わせ、「ハイッ!」と大きな声の返事がかえってきた。
やばっ、…今の反応面白すぎる…!笑っちゃダメだ、笑っちゃダメだ…!


「あの、ここの生徒さんですよね?」
「へっ?」


少しずつ近づいて行くと、若干後退する。
こいつ、ほんと面白いな。からかい甲斐があるってなもんよ!


「今ここから出ましたよね?」
「あ、はいッ!そうです、私はこの学園の者ですッ」


話しかけただけなのに真っ赤な竹谷くん。純情そうだと思ってたけど、やっぱりか。
目を丸くさせ、鳩が豆鉄砲くらったような顔で何度も「はい」と答える。もういいよ。


「ここの学生ということは、忍びですよね?」
「え、ええ…まぁ…」
「とても素敵な身体ですね、頼もしそう」
「いえっ、私なんかはまだまだで…」


でもちょっと嬉しそうにはにかみ、目をそらして頬をかく。
別にそういう趣味ねぇけど、こいつ可愛いわ。うん、でも笑いそう。我慢できなくなってきた…!


「あの、あなたは?」
「私、学園長の知り合いでここへ来ました。もし宜しければ案内して頂けませんか?」
「はい、喜んで!」


パッ!と顔を明るくして、再び扉を開けて中に入る。
「どうぞ」と手を差し出してくる竹谷に、とうとう我慢ができなくなってその場で笑ってしまった。
あー、ダメだ!あいつマジで可愛すぎ!単純バカってほんと可愛い!


「えっと…、どうかしましたか?」
「お前なんで気づかねぇんだよっ…!」
「はっ!?」
「俺だよ俺。お前の尊敬する国泰寺虎徹先輩でーっす!」
「……虎徹先輩!?」


こんなに笑ったの生まれて数える程度だぞ!お前はどんだけ俺を笑わせるんだ!
声にならない笑いが続いている間、竹谷は最初のときように固まってその場に立ちつくしている。
顔も今さっき以上に真っ赤で、何か言いたそうに口をパクパクさせていた。
その顔も笑いのツボに入って、呼吸ができなくなった!やべぇ、笑い死ぬ!


「―――っはぁ…!マジ死ぬかと思ったし…。くくくっ…!」
「なにしてんスか、虎徹先輩…」
「いやー、これから六年で女装実習があるんだけど、ほら今日の俺って綺麗系だろ?誰かで遊ぼうと思ったらお前がいてさー」
「俺で遊ばないで下さいよ!俺今から特訓に行くつもりだったのに!」
「あ、そうなの?邪魔してごめんごめん。じゃあ俺行くわ。あ、このことは皆に内緒にしといてやるから!」
「絶対ですよ!」
「先輩を信じなさーい!」


あー、笑った笑った!
たくさん笑ったせいで横腹が痛いけど、そろそろ集合時間。
まだ顔が赤い竹谷に別れを告げ、集合場所へと向かう。


「……危なかった…」


そんな俺の後ろでは、竹谷が手で困ったような顔を抑えて呟いた。
そうだね、あの顔は恋に落ちた瞬間だったな。危なかったね。
仕方ない、今度また仙蔵に頼んで会ってやるよ!





おまけ。

「よー、竹谷」
「あ、立花先輩、食満先輩。どうかされましたか?」
「竹谷、いくら虎徹を尊敬しているからと言って、同性はいかんぞ」
「はい?」
「確かにお前のほうが身体は大きいけどよ、お前は虎徹の犬だからそういった関係にはなれねぇぞ?」
「…あの、何を仰っているのか私には全く理解できないのですが…」
「女装した虎徹を襲ったと聞いた」
「えッ!?だ、誰にですか?!」
「「虎徹」」
「虎徹先輩ィ!誰にも言わないって言ったじゃないですかぁあああ!」
「あっはっはー!つい口が滑っちゃった、ごめんね!」
「しかも立花先輩と食満先輩って…!最低です!」
「虎徹、面白いオモチャをありがとう」
「なに、この間化粧してくれたお礼だ」
「俺は普通に楽しませてもらうぜ」
「どんどん虐めてやってくれ、留三郎!」
「虎徹先輩ッ!」


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