予算を取れ!の段 「虎徹先輩、今期も予算が足りません…」 今日の生物委員会はとても平和だった。 毒虫や毒蛇などが学園を散歩することなく、ただ静かに時間が過ぎていく。 餌やりも終わり、散歩も終わらせた生物委員の委員長である虎徹は飼育小屋の近くの忍たま長屋の廊下に座って、犬や猫と一緒にのんびり空を眺めていた。 委員会が終わったのなら近々ある試験の勉強をすればいいのだが、勉強がそこまで好きではないのでするわけがない。 寝転んでいるお腹の上に丸まって寝ている猫の頭を撫でていると次第に眠くなり、昼寝をしようとしたら、フッと顔に影が差した。 目を開けると、暗い表情を浮かべている後輩、竹谷八左ヱ門が立っていた。 「誰かが散歩したのかと思ったら、そんなことか」 「そんなことではありませんよ、先輩。予算が足りないとこいつらの餌代が…」 動物好きの虎徹と、毒虫、毒蛇などが好きな孫兵が色々な生物を拾ってきたりするから生物委員は大所帯。 増えれば増えるほど餌代はかさみ、その分予算の減りも早くなる。 足りない分は虎徹や八左ヱ門がバイトで稼いだお金で賄っているが、それでも足りない。 「じゃあバイト増やしてもっと稼ぐかなー…」 ゆっくりと上半身を起こして頭をかく。 欠伸をしながら猫や犬を撫でてあげると、誰もが気持ち良さそうに目を細めた。 しかし八左ヱ門は不機嫌そうな表情で虎徹の隣に腰を落とし、一枚の紙をバンッ!とつきだす。 「いえ、明後日予算会議があるのですから、潮江先輩に言いましょうよ!俺が代理だったころは強くて何も言えませんでしたが、今は同学年の虎徹先輩がいます!だからお願いします!」 虎徹がいないころは八左ヱ門が委員長代理として予算会議に参加していた。 しかし、五年の自分が六年の先輩に対して強く主張することができず、満足な予算をもらうことができなかった。 だが虎徹がいるなら話は別だ。 しかも留三郎に続く武闘派で、小平太の相手を務めるほどの実力をもつ。 性格もそれなりに好戦的で、文次郎相手にも引くことはない。 八左ヱ門が切実に頭をさげるのだったが、虎徹はあまりいい表情を浮かべなかった。 「でも文次郎がくれるなんて到底思えないし…。なにより俺のやる気が全くありません」 予算会議で予算をもらえた委員会はほとんどいない。 文次郎が予算を却下するのも納得のいく内容ばかりだ。 それにバイトは嫌いではない。(動物を使っての芸を披露するため) 「ダメなものはダメ」。解りきった答えを前に、虎徹は再び廊下に寝転んだ。 しかし虎徹の行動パターンを読んでいた八左ヱ門は振り返り、「虎若、三治郎」とは組の二人を呼ぶ。 虎徹は不思議に思って顔を八左ヱ門のほうに向けると、笑顔の虎若と三治郎が八左ヱ門の目の前に座って虎徹を見る。 「え、なになに?何でそこで二人が出てくんの?」 「僕、虎徹先輩の格好いいとこ見たいです!」 「俺も俺も!」 「だから虎徹先輩頑張って下さい!」 「きっと虎徹先輩なら潮江先輩から予算をもぎとれるって信じてます!」 キラキラした目と元気のある声でこんなことを言われてしまえば、動かない委員長はいないはず。(特に生物委員長と用具委員長は後輩に甘い) 虎徹はフッ…と口元で笑い、猫を抱えたまま立ちあがる。 「ええ、可愛い後輩のためならやりましょうとも。格好いいとこ見せてやんよ!」 ズビシッ!と効果音がつくほど勢いよく、二人を指さしウインクを一つ。おまけによく解らないポーズをとって格好をつける虎徹。 八左ヱ門は苦笑しかできなかったが、同じは組の虎若、三治郎は「わーっ!」と何だか楽しそうだった。 「よし、文次郎から予算をたっぷり奪ってやる!八左ヱ門、今から予算案作るぞ!」 「はいっ!じゃあありがとうな、二人とも」 八左ヱ門が持ってきた紙を乱暴にとり、猫を虎若に渡してから廊下を駆け出す。 虎若と三治郎の頭を撫でながらお礼を言って、八左ヱ門も虎徹の後を追ったのだった。 ( TOPへ △ | ▽ ) |