夢/とある獣の生活 | ナノ

大運動会終了


静かな森の中四匹の獣。
小平太は目の前で腰を落とし、息切れをしている虎徹を見下ろし、ニヤリと笑った。
笑われた虎徹は悔しそうに下から小平太を睨みあげ、次はどう動くか頭で考える。
しかし、頭で考えるのが苦手な虎徹は口を結んで、息を止めた。


「う、おおお…!?」
「長次、ナーイス!」
「小平太……遊びすぎだ」


再び真正面から攻撃をしかけようとした虎徹を、森から現れた長次の縄標によって囚われてしまった。
虎徹が操る狼、ハルとナツが「誰かいる」と虎徹に訴えていたのだが、頭に血が昇っていた虎徹には届いてなかった。
身体に縄が巻きついた虎徹はバランスを崩したが倒れることなく、狼に自分を守るよう命令する。
しかし、狼が駆けつける前に小平太が虎徹に向かって走りだし、


「どんどーん!」


明るい口調で虎徹の背中にドロップキックを食らわし、避けることもできなかった虎徹は直撃を食らい、地面に倒れる。
ゴキンと骨がずれるような音が響いて、虎徹は止めていた息を吐き出した。


「―――ってぇええええ!」
「なはは、いい音が響いたな!」


地面に倒れた虎徹の背中に腰をおろし、苦無を構えてから狼を警戒するよう睨む。
少しでも動いたり、牙を剥いたら殺すぞと目で訴えると、賢い狼はその場に伏せる。しかし、目は小平太に向けたままだ。


「狼は長次の気配に気づいていたぞ」
「くそ、やっちまった…」
「小平太、話すのは首をとってからにしろ。油断するな」
「おお、そうだな」


虎徹の髪の毛を掴んで、頭を持ち上げ首元を露わにしたあと、クッと苦無を木札に当てる。
切っ先が木に刺さった瞬間、虎徹は口角をあげて腹筋と背筋に力をこめ、勢いよく小平太に(後頭部で)頭突きを食らわせた。
油断していたわけではないが、至近距離に避けることができなかった小平太は顔面を強打し、のけ反って鼻血を散らす。
長次が小平太を呼んで虎徹を逃がさないように縄標を引っ張ると、虎徹の動きが止まる。


「ばーかばーか!小平太のばーか!」
「うあー……」
「だから言ったんだ…」


虎徹の上から降りて、鼻を抑える小平太と、身体を使って立ち上がり、縄を解く虎徹。そして、構える長次。
コンビネーション抜群、加えて攻守ともに優れているこの二人を相手にどう戦うか…。
伏せをしていた狼も立ち上がり、虎徹に駆け寄って二人を警戒した。


「さぁ、二回戦始めようか。次は負けん」


次は先ほどの反省も踏まえてやってやると狼と虎徹の目が光った。
鼻血が止まらない小平太はザリッと砂を噛んで、顔をあげる。
「そうでなきゃあ!」と言った表情でキラキラとし目を虎徹に向けて、親指で片方の鼻を抑えて詰まっていた血を反対の鼻から出す。
それでも流れる血を舌で舐めたあと、拳を合わせて腕まくりをする。


「ちょーじ、「フォーメーション、ろ」でいくぞ!」
「…………どんな作戦だ…」
「ボコる!」


ニッと笑う小平太は噛んだ土を蹴って、虎徹に向かった。


「―――で、結局虎徹の首をとることができなかったんだな」
「……」
「長次、お前もいてこの有様か」
「す、すまん…」


運動会だと言うことをすっかり忘れて、自分たちが満足するまで戦っていた三人組は、目の前に立っている六年生たちの前で正座をしている。
結局あれから、終わりの鐘が鳴るまでどっちの木札を奪うことも壊すこともできず、終了。
四年生や五年生は勿論、大将を守るために頑張っていた六年生たちも目的を忘れて楽しんだ三人に怒り心頭である。
代表して仙蔵が青筋を浮かべて説教すると、体格のいい三人は身を寄せ合って小さくなった。
これで上級生の部は決着がつかなかった。楽しかったけど、勝負事には白黒つけたかった上級生、いや…六年生。
片付けが行われている中、文次郎、仙蔵、留三郎、伊作の四人は武器を取り出し、小平太、長次、虎徹に向ける。
三人も黙って立ち上がったあと、武器を構えて対峙した。


「小平太、虎徹。遠慮することなく動け」
「「了解!」」
「文次郎、留三郎。喧嘩する相手を間違えるなよ」
「「解ってるっつーの!」」
「仙蔵、虎徹は僕に任せてね」
「相手は獣だぞ」
「手負いなら簡単だよ」


何故か運動場で始まる六年生同士によるバトル。
片付けをしていた五年生、四年生はいい迷惑と言わんばかりに溜息をはき、その場から撤退。
どうせ片付けても暴れる彼らが汚すんだ。ならもう知らん、勝手にしろと言って長屋へと戻って行った。
残った六年生は、先ほどまで暴れていたにも関わらず、派手に動き回っている。
やはり彼らは化け物なのだと最後に振り返った五年生たちは呟き、完全に姿を消す。


「留三郎テメェ!今俺を狙っただろ!」
「テメェこそ俺を狙っただろうが!まずはテメェから倒してやる!」
「伊作、お前…っ。何故味方である私を狙ってきた…!」
「違うんだ仙蔵!うっかり躓いてしまって…!」
「だーくそ小平太のバカ!大ばかっ。やっぱりお前俺のこと嫌いだろ!長次だって今さっきの恨みとばかり邪魔してくるし!」
「違うぞ虎徹、お前の動きが遅いのだ。な、長次?」
「遅い…」
「死ね留三郎!」
「バーカ、死ぬのはテメェだ文次郎!」
「この薬馬鹿が!毒だったらどうする!」
「だからゴメンって言ってるだろー!仙蔵は少し短気すぎるよ!」
「よーし、その喧嘩買った!買ってやるから俺に食われろ!」
「それは私の台詞だ!今さっきの続き、ここで決着つけてやる!」
「小平太、手を貸そう」


しかし結局は全員が敵となり、運動場を半壊して、七人全員揃って先生に正座させられるのだった。
こうして、長かった運動会が終了した。


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