首とり合戦 作戦を立てたものの、その通りにいかないのが常である。 結局は目の前にきた敵と戦わないといけない。 「いやぁ…。絶対に文次郎に怒られるな」 「なはは、私も仙蔵に怒られてしまう」 まずは先攻後攻を決め、先攻をとった赤組が裏山へと入り、時間を置いてから白組が裏山に入って最終競技が始まった。 それぞれが戦う相手を見つけようとする白組だったが、そうはさせてくれない赤組。 裏山に入ったと同時に大将の小平太を含む全員に襲撃され、散り散りになってしまう。 六年、五年は自分の身は守れる。うまく立ち回ることができるだろうが、まだ少し未熟な四年はどうだろうか。 彼らを心配をしつつも、白組の大将、虎徹は本能のままに裏山を歩き続ける。 同じような光景が広がる裏山だが、毎日のように遊びに来ている虎徹にとって、ここがどこかなどすぐに解る。 大将だから戦うな、守られろ。と文次郎に言われたものの、戦いたい。 そう思っていたら敵と偶然遭遇。獣の考えは獣にしか解らないから、彼……赤組の獣がどこにいるか解っていたのかもしれない。 苦無を片手に楽しそうに笑っている小平太が虎徹の目の前に現れ、虎徹も持っていた苦無を握りしめた。 「でも会っちまったもんはしょうがねぇよな?」 「そうだな。虎徹の首をとれば仙蔵もきっと許してくれる」 「バーカ。お前は怒られるんだよ」 「え、何で?」 「俺に食われちまうからな」 ハッ!と笑ったあと、小平太に真正面から走り向かう。 それを待ち受ける小平太もニタリと笑って苦無を構えた。 しかし目の前まで来て虎徹はさらに姿勢を落として、両手を地面について水面蹴りを食らわす。 苦無を構えたまま小平太は飛び跳ね、攻撃を回避。だが、回避されることを解っていた虎徹は水面蹴りの勢いのまま一周グルリと回って、もう一度今度は空中にいる小平太の横腹に蹴りを食らわせた。 さすがの小平太も空中では攻撃を受け止めることしかできず、若干声をもらして、後ろに吹っ飛ばされる。 「やっりぃ」 「あはは…油断してた」 「嘘つけ。俺の攻撃が早くて避けれなかっただけだろ?」 「ははっ!それはない」 「可愛くねぇ奴。まぁいいや、俺今回本気だから」 「そうか!それは嬉しいな。いつもみたいにすぐ倒れてくれるなよ、虎徹」 「絶対ェ殺す」 土がついた指を口にくわえ、高い音を出す。 そのあと何事もなかったかのように再び小平太に向かって、今度は苦無と苦無がまじあう。 やはり、六年同士で戦うのは楽しい。 五年生相手にも遠慮しているわけではないが、やはり致命傷を負わせないように…と考えながら戦っているから、本来の力を発揮することができない。どこかで自分をセーブしている。 でも六年相手だとそういうのが全くない。例え死んだとしても文句を言うような男たちじゃないし、そもそも死なないのが彼らだ。 戦えば戦うほど彼らは強くなる。当たり前だけど難しいことだとこの六年間学んできて思った。 小平太と何度も組手をしている虎徹も最初は小平太に一方的にやられていたが、今では何度かやりあっても倒れることはなくなった。 小平太の攻撃パターンを把握したのもあるが、強い者と戦うことによって自分自身もいつの間にか強くなっていたからだ。 それでもやはりあと一歩、あと一歩が届かず、一瞬の隙が生まれてしまった虎徹の首に小平太の苦無がむかう。避けれる体勢でもない。 「っ!」 「っあ…ぶなー…ありがとうな、ハル」 苦無が虎徹の首に刺さる前に小平太は腕を引っ込めた。 二人の間に大きな一匹の獣。先ほどの口笛で呼び寄せた虎徹の大事な狼、ハル。 すぐに手を引っ込めた小平太だったが、微かに狼の爪が当たって手から血が滲む。 小平太が獣のようにペロリと手を舐めて、虎徹の隣に寄り添う二匹の狼を睨みつけた。 「文句言うなよ、これも俺の大事な武器だ」 「ああ、言わないさ。今のは私が油断した。殺れると思って油断していた。まだまだだな、私も」 「ほんとにな。じゃ、また殺るか」 「おー、こい!三匹ともぶっ飛ばしてやる!」 明らかに虎徹のほうが圧倒的有利なはずなのに、小平太の動きが鈍ることはなかった。 寧ろ戦いながら自分の動きをさらに洗礼していく小平太。 動きが早くなる小平太を間近で感じながら、虎徹は舌打ちをした。 「(これが天賦の差かよ…!くそっ!)」 キレを増していく小平太に、どんどん身体が追いつかなくなる虎徹。 悔しいし、小平太の才能が羨ましい。 それが次第に憎しみに変わっていき、微かの憎悪を滲ませると小平太の黒い瞳が細くなって虎徹の胸倉を両手で掴み、クロスにさせて木に押し付けた。 宙に浮いているせいもあるが、首が締まって呼吸ができない。 確実に殺しに来ている小平太に一度意識が飛んだが、すぐに呼び戻す。 同時に理性を呼び戻して、すぐに擦れる声で狼の名前を呼ぶ。 狼二匹はどうすればいいのか解っているのか、唸り声をあげながら小平太を背後から襲いかかる。 理性を取り戻した虎徹を見て、小平太も理性を取り戻して虎徹を離し、攻撃を仕掛けてきた狼二匹を簡単に吹っ飛ばした。 虎徹は咳込みながら小平太から離れる。その横の木に吹き飛ばした狼の一匹、ナツが叩きつけられてキャン!と痛々しい声を出す。 「ナツっ」 「おー、すまんな」 心がこもってない謝罪。だが、小平太は悪くない。ああでもしないと小平太がやられていた。 解っているものの、可愛がってる子のあんな声を聞けば苛立つ。 木に身体を打ち付けたナツはよろよろと起き上がり、虎徹に寄り添ってキューンと鼻を鳴らす。 「痛いよ」「助けて」とでも言っているような仕草と声に虎徹は「ごめんな」と謝って背中や横腹を撫でてあげる。 小平太の攻撃を避けたハルも虎徹に駆け寄る。まるで、「大丈夫だった?」と声をかけているようだ。 「虎徹、今は運動会中だぞ」 「そういうお前こそ、もう少し殺気を抑えたらどうだ?」 「虎徹との戦いは楽しくてなー…」 「あとこれ、この木札を割るのが目的であって、殺すのはダメなんだぜ?」 「解ってるって。でもそれ、虎徹にも言いたい。憎悪を私に向けるな」 「……お前ムカつくんだよ。戦いの中で強くなるなバーカ」 「それは私だって言いたいさ。あんな動き、私にはできない」 「お前に褒められたところで嬉しくねぇけどな」 ナツに目を落として、頭を撫でてあげると微かに尻尾が揺れた。 それにハルが割り込んで、自分も撫でろと言ってきたのでハルも撫でてあと、小平太を睨む。 「ナツ、ハル。殺れ」 狼二匹も息があがっていた。ナツに至ってははまだ打ち付けた場所が痛んでいた。 しかし虎徹は容赦することなく命令をくだす。 甘えていた二匹はただの可愛い犬にしか見えないが、本来は強く、誇り高い狼だ。 すぐに牙を見せて虎徹と同じく小平太を睨みつけたあと、ドッ!と強く土を蹴って小平太に走り向かう。 「そろそろ決着つけてやる!」 「それは私の台詞だ!」 もはや運動会ではなく、ただの戦いになっている二人を突っ込む人間はその場にいなかった。 ( TOPへ △ | ▽ ) |