夢/とある獣の生活 | ナノ

首とり合戦


「下級生の部、騎馬戦は大将の次屋くんが富松くんの鉢巻を奪ったので、赤組の勝利です!」


さすが無駄に鍛えられているだけあって、身体能力は三之助が作兵衛を上回り死闘の末、鉢巻を奪い取ることができた。
勿論、一年生も二年生も頑張った。だけど、大将の鉢巻を取られたら負けである。
残っている騎馬は白組が多く、白組所属の一年生が不満そうに文句をこぼすが、


「戦においても、大将の首が飛んだらそれまでじゃ」


の、学園長先生の重たい言葉に誰一人反発することはなかった。
その様子を上級生たちは当たり前のような顔で聞いていたが、悔しそうに泣いている委員会の後輩たちの元へ行って慰めてあげる。
同じ白組所属の虎若、一平、孫次郎が鼻水を垂らしながら泣いているのを虎徹は優しく笑って膝をつき、視線を合わせる。
虎若、一平の肩に手を置いてそのまま三人をまとめて抱きしめた。


「よく頑張ったな!虎若、上に乗ってるお前は勇ましかったぞ。格好いい」
「で、でも…っ、オレ…!」
「負けたとか関係ないって。一平、お前も下だったのに頑張ってたな。知ってたけど、一平は縁の下の力持ちだな。お前も格好よかった」
「…っう…!……虎徹、っぱい…」
「孫次郎、怖かったのによく頑張ってたなー。出会ったときと比べてかなりたくましくなった。立派だ」
「虎徹せんぱいぃ…!」


虎徹の言葉に三人は人目もはばからず泣き始めた。
小さな手で虎徹の制服をぎゅううと掴み、ひたすら悔しく泣き続ける。
その声を聞いた他の一年生もそれぞれの先輩に抱きつき泣き始めた。
他の先輩たちも微笑んで、彼らが泣き止むまで頭を撫でてあげる。
二年生も泣きそうになったがそこは耐える。ただ、四郎兵衛だけは我慢できず、金吾の頭を撫でていた小平太の背中に張り付く。
微かに震える四郎兵衛を横目で見て、「四郎兵衛もよく頑張ったな」と褒めてあげると、ピャッ!と涙腺が緩んで一年生のように泣き始めた。


「一年生たちも落ち着いたみたいですし、上級生の部始めます」


数名、泣き疲れて寝た一年生たちをシートに運んで、静かにその場から離れる。
空気を読んだトモミちゃんがマイクで喋ると、先までと同じ人物に思えないほど酷く楽しそうに笑った。
下級生には見せない顔だ。


「上級生の皆さんには、「首とり合戦」をして頂きます!」


初めて聞いた競技に全員が首を傾げる。特に下級生は予想すらできない。


「最後の競技、しかも上級生の部ですから派手に、というのが学園長先生のお達しです」


ニコリと笑うトモミちゃんの横に立った山田先生と野村先生が、紐の通った木札を上級生に見せた。


「大将の首にこれを巻いてもらい、この木札が破壊されたら失格といった競技です。勿論、奪われても負けになります。ただ、上級生なら破壊して頂けるほうが盛り上がると思います」


わざと挑戦的な発言をするトモミちゃんは度胸があるのか、それとも言わされているのか…。
微笑む彼女の顔からはどちらか解らない。さすがくノ一である。


「こりゃあ楽しいことになってきたな」
「だな!で、大将って誰だ?」


文次郎と虎徹がニタリと笑って赤組のメンバーを見るも、赤組の四人も三人を見ていた。
しかし、虎徹の言葉に全員が再びトモミちゃんに視線を戻すと、山田先生は小平太に、野村先生は虎徹に近づいて何を喋ることなく木札を首に巻いた。


「赤組大将は七松先輩、白組大将は国泰寺先輩です!」
「「おおっ!」」


二人して同じ反応したあと、お互いを睨んで「俺が倒してやるからな!」「いーや、私が勝つ!」と盛り上がる。
そんな彼らを他の六年生は冷静に見て一言。


「先生たち、とうとう犬に首輪をつけたか…」
「放し飼いは危険だからな」
「………よく…似合ってる…」
「ふふっ、首輪で制限できるなんて思えないけど」
「だな。犬ではなく、野生動物だからな二人は」
「因みに、大将がやられた時点で負けですのでお気を付けください」


ということは、全員で敵の大将に襲い掛かれば楽勝。
なんてことはない。先ほども言ったように、首輪をつけたのは六年の獣二匹だ。
いくら首輪をつけたとは言え、自分の欲望に忠実な二人には意味のないもの。
だからと言って好きなよう動かれるのは困る。そこは同期が手綱を握らなければいけない。
白組大将小平太の手綱を握るのは勿論、同室の長次。
赤組大将虎徹の手綱を握るのは、あまり得意ではないが、人を動かすのが得意な文次郎となった。


「いいか虎徹。お前が凄いのは解るが、俺の言う通りにしろ。じゃねぇと次の試験助けてやんねぇからな」
「りょぉかい!まぁ任せろ文次郎。白組の奴ら全員食い尽くしてやるからよぉ」
「文次郎も虎徹も野蛮だなぁ。でも最後の競技だもんね、僕もそろそろ本気出そうかな」


白組の三人がそれぞれ笑って、赤組を睨みつける。


「小平太……お前は私と常に行動しろ」
「解った!あとは暴れていいんだろ?全部潰していんだろ?」
「まぁ待てよ小平太。お前が潰していいのは虎徹だけだ。あとは俺らにも回せ」
「文次郎の相手なら私がしよう。あいつの弱点はよく知っている」


赤組も笑って白組を睨みつけた。


「……勝手に盛り上がっているが、下級生たちの借りは返させてもらおうか」
「庄左ヱ門も彦四郎も負けちゃったからね。二人に格好いいところ見せたいし」
「そっちは強敵だけど、俺らも負けねぇぞ」
「ああ。潮江先輩、善法寺先輩、虎徹先輩は強敵だが、俺らも本気を出そう」
「こっちには頼りになる先輩が多いことだしね。勿論、僕たちだって本気だよ。最後ぐらい不満こぼさず戦うから」


最後ということで、五年生も文句を言わずお互いを見て、ニヤリと笑う。
覚悟を決めた五年生たちもそれなりに好戦的だ。
六年生、五年生を見た四年生は何を喋ることなく彼らを見ていた。
きっと彼ら同士の戦いになる。自分たちがあそこに入れるなんて到底思えない。
だが組別対抗戦だ。嫌でも戦わないといけない。せめて、同学年で戦わせてくれと願うばかりだった。


「今回もまた裏山で競技してもらいます」
「トモミさん、すみません。武器の使用は可能でしょうか?」
「国泰寺先輩、ご質問ありがとうございます。はい、使用可能です。でも致命傷を負わせないでくださいね?」


また難しいことを言う…。と六年の数人が呟く。
致命傷を負わせないこと。と言われたものの、木札を破壊する場所は喉だ。
一つ間違えれば致命傷どころか即死だ。避ける方も気を使わないといけない。
簡単に見えて難しい「首とり合戦」。
十分な作戦あ必要だと、数分の作戦タイムが設けられた。


「虎徹、裏山ならお前の動物が使えるな」
「使えるどころか庭だっつーの」
「それは小平太もだろ?どうする、文次郎。あ、五年と四年も何かいい案があったら言ってね」
「では先に私からお願いがあります。四年生には四年生、五年生には五年生を戦わせてほしいです」
「ああ、解ってるよ。そうするようにするが、遭遇したときは各自で対応してくれ」
「というわけでー、綾部にタカ丸さん。田村と平の相手宜しくねー」
「……おい綾部、お前話聞いてるか?何で立花先輩見てんだよ…」
「いえ、作戦を立ててる立花先輩の顔を見てたら何か解るかなと思いまして」
「竹谷、綾部は放っておけ。それよりお前気を付けろよ」
「へっ?」
「小平太がお前狙ってくるかもしれねぇだろ?まぁ高確率で俺だろうけど、遭遇したらこの間の実習みたいになるかもな」
「……先輩方、できるだけ早く七松先輩の討伐をお願いします」
「その為の作戦会議だよ、竹谷」
「とりあえず虎徹。お前は木札を守ることに専念しろ。戦うな」
「えー!」
「バカタレ。何のための大将だ」
「戦ってお前らを守るため?」
「君が今守られる立場だよ!もー…。文次郎、留三郎か仙蔵は僕に任せて。だから文次郎は小平太と長次を頼む」
「ああ、解った。虎徹はひたすら逃げてろ」
「ちぇー…」
「……。あの、鉢屋くん。ちょっといいかな…」
「なんですか、タカ丸さん」
「何で全員で七松くんに襲い掛からないの?そっちのほうが簡単じゃない?」
「あはは、解ってませんねぇタカ丸さん。ねぇ、八左ヱ門?」
「おう、解っちゃいねぇ」
「え?ど、どういう意味…?」
「タカ丸さん、その質問を三人にどうぞ」
「う、うん…。あの善法寺くん、潮江くん、国泰寺くんちょっといいかな」
「なんだ」
「なに?」
「俺の髪の毛切るなよ!?今日ぐらいは許してくれ!」
「国泰寺くんの髪の毛は明日刈るから安心して。あのね、何で全員で七松くんを襲わないの?」
「「「そんなの楽しくないだろ?」」」
「折角なんだ、たくさん暴れてやろうぜ!」
「ギンギンに動き回ってやる!」
「僕も楽しくなってきちゃった!なんの薬使おうかなー…新作いちゃうおうかな」
「というわけだ。諦めて私たちは私たちで作戦を立てるぞ」


ある程度の作戦、話し合いが終わった両組は立ち上がり、大将二人が一歩前に出た。
その後ろのメンバーはウズウズしており、気持ちは既に戦闘モードに切り替わっている。


「森で俺に勝てると思うなよ」
「戦いで私に勝てると思うなよ」
「テメェのその首に食いちぎってやるから覚悟しとけ!」
「貴様の喉笛を潰してやるから覚悟しとくんだな!」


最後の競技、首とり合戦の開幕である。


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