玉入れ合戦 「下級生の部、第一競技は玉入れ合戦です」 学園長先生による突然の思いつきにより、大運動会が開かれた。 赤組、白組と二つの組に分かれたものの、さらに下級生の部と上級生の部に別れて戦うという特別ルールつき。 最初の競技は下級生たちによる玉入れ合戦が行われ、上級生たちはシートの上で彼らの戦いを温かい目で見守っていた。 一応組別に分かれているが、応援するのは我が委員会の可愛い後輩たちばかり。 上級生にとって、後輩たちを前にしたら組なんて関係ないのだ。 結局、下級生の玉入れ合戦は赤組が勝ち、赤組所属の上級生と、赤組所属の後輩たちの喜ぶ姿に白組所属の先輩たちはデレデレした。 つまり、下級生は可愛いのである。 「上級生の部、第一競技も玉入れ合戦です」 さぁ、次は上級生、自分たちの出番だと顔を引き締め準備を始める。 今回審判を行ってくれるのは、くノ一教室の子と先生方で、ユキちゃんがマイクを持って玉入れについて説明を始めた。 そう、上級生の部と下級生の部とでは同じ競技でも、ルールが少し変わるのだ。 「各組から一名、こちらの籠を背負ってもらい、その籠を背負った相手チームに自分たちの玉を入れてもらいまーす!」 なるほど、上級生らしい。と、六年生全員が頷いた。 籠を背負った者は玉を入れられないように逃げなけれならない。ということは、足が速く、反射神経がいい人物が好ましい。 だからと言って、玉を入れる役も重要だ。 組別に分かれ、誰が籠役になるかの作戦タイムに入る。 「満場一致で伊作だろ」 「伊作だよなー」 「だと思ったよ…」 白組はすぐに決まった。 不運の大魔王である伊作が背負えば、きっと何か起こるに決まっている。 文次郎の言葉に虎徹も伊作も、そして五年生と四年生も黙って頷く。 一方赤組は、 「向こうはどうせ伊作だろ。そこで、留三郎」 「………」 「背負え。巻き込まれ不運のお前がいけば何かしら起こるだろう」 「わーったよ…」 こちらも、巻き込まれ不運……というより、最近ただのプチ不運となってきた留三郎を籠役に決めた。 他のメンバーも何も言うことなく、両チームとも早々に籠役を決めることができたのだった。 「上級生に限り、玉は一人二つとさせて頂きます。運動場から出たら失格となります」 先生方がそれぞれに玉を渡し、ユキちゃんがルールの説明を続ける。 「玉を投げる人に攻撃は勿論ありですが、致命傷を負わせるのは禁止になりますので気を付けてください」 その言葉に六年生は目を光らせ、五年生は溜息をもらし、四年生は身体を固めた。 しかしユキちゃんの容赦ないルール説明は続く。 「籠役も攻撃可能ですので、頑張ってくださいね!あ、でも武器は苦無だけになりまーす!」 眩しく笑ってルール説明を終わらせたユキちゃんと、暗い表情を浮かべる五年生、四年生に容赦なる鳴り響く開始の発砲音。 瞬間、どこからか飛んできた苦無により、白組のタカ丸と喜八郎の玉は破壊された。 投げてきたのは赤組の仙蔵。だが、姿はその場になく、今度は五年生に襲い掛かっていた。 それを阻止しようと動き回っているのが速度、攻撃ともに優れた虎徹。 仙蔵だけじゃなく、長次や雷蔵たちが投げつけてくる苦無を獣のような動きで弾き飛ばす。 「竹谷ァ!ぼーっとしてねぇでテメェも守れ!」 「は、はいっ!」 「玉は文次郎か三郎に渡しとけよ!」 「わっ、はっ…!えっと、頼んだ三郎!」 「作戦もなにもないのかよ…」 「三郎、勘ちゃん、文次郎!ちゃんと玉全部ぶっこんでこいよな!」 「お任せくださーい!」 いつの間にか、文次郎、三郎、勘右衛門が玉を投げる役となり、それを守るのが虎徹と八左ヱ門になっていた。 そんな作戦を話したことなかったのに…。と三郎はぐちぐちと文句を言っていたが、言われた通り八左ヱ門から玉を預かり、籠を背負った留三郎に向かう。 「攻撃を仕掛けてくるのは仙蔵と長次、雷蔵か…」 容赦のない攻撃の向こうには、涼しい顔をした仙蔵と長次。 確かに投げることが得意なこの二人に攻撃役は向いているだろう。 それをフォローするのが大雑把だけど優秀な雷蔵。見事なバランスだった。 「ちょ、ちょっと小平太ぁ!僕に攻撃はダメだからね!」 「細かいことは気にするな、伊作!」 「いや、そうじゃなくて!」 「七松先輩、それだと負けてしまうので少し落ち着いて下さい」 「久々知ぃ!その調子で小平太の手綱握っててね!斉藤、綾部!君たちもっと頑張って僕を守ってよ!」 「ぼ、僕には無理ですよぉ…」 「玉を壊されたのでやる気が湧きませーん」 「綾部はいつもだろぉ!」 小平太と兵助に追われている伊作は今にも泣きそうだが、さすが六年生。 玉を握りしめて籠を殴ろう……いや、手ごと突っ込んで玉を入れようとする小平太の攻撃をぎりぎりでかわしている。 兵助も隙を狙っているのが、なかなか入らない。 攻防戦を続けるものの、小平太に体力で勝てるわけがなく、速度が落ちてきたところを狙われ、大量の玉が籠に入っていった。 「留三郎ぉおおおお!いい加減止まれ!」 「誰が止まるか文次郎!テメェこそ諦めろバーカ!それか倒れろ!」 「こっちがテメェ(籠役)を攻撃できねぇからって…!鉢屋、尾浜!俺が動きを止めるから入れろ!」 「はいはい、言われなくてもやりますよ」 「了解でーす!」 「五年二人に負けるわけねぇだろ!」 左右から飛びかかる学級コンビ。 横目でそれを見たあと、地面に自ら近づいて両手を地につける。 腕立て伏せをするような体勢のまま両足を浮かせて二人に蹴りを食らわせた。 二人とも腕でガードをしたものの、ビリビリと鈍い痛みが走る。 因みに攻撃ではなく、足止めである。ただの屁理屈だが、なんとか審判の先生から、「セーフ」の合図を頂けた。 「―――隙だらけだな」 「抜かせ!」 二人を囮に文次郎が玉を籠に入れようとしたが、解っていた留三郎は腕に力を込めて地面を蹴って籠を守る。 「バカが。うちにいるのは学級コンビだぞ」 体勢を戻した留三郎に再度攻撃を食らわせる三郎と勘右衛門。 攻撃を受け止めた反対の手に玉が握られており、留三郎の籠めがけて玉を投げつけた。 と同時に空気を割く音が響き、ぱぁんと玉が破裂してしまった。 「バカが!うちにいるのは四年の優秀どもだぜ」 「輪子じゃないので難しいですが、優秀な私が苦無を操れないわけがない!」 「黙れ滝夜叉丸!僕のほうが早かっただろ!」 「三木ヱ門こそ黙れ!私のほうが早かった!」 「いいや僕だ!」 伊作たちとは反対に、忍者の一面を見せる戦い。 そんな上級生たちを見た下級生たちはポカンと口を開けながらも真面目に競技を見ていた。 普段あまり見ることのない先輩たちの真面目な姿に感動するものもいれば、少しの恐怖を抱く生徒もいた。 三年生に至っては犬猿の四年生を見て、拳を握りしめる。 嫌いな先輩だけどやはり強いんだと自覚し、認めざるを得ない。でもやっぱり認めたくないから、「四年負けろー!」と全員が口を揃えて叫んだ。勿論、同じ組にも関わらず…。 「だー!キリねぇ!竹谷、お前は雷蔵を頼む!」 「え!?」 「力加減できねぇんだよ!」 一本の苦無を口にくわえたあと、両手に苦無を握る。 何をするのか全く分からなかった八左ヱ門だが、虎徹がまとう空気を感じたあと、逃げるようにその場から離れ、雷蔵へと向かって行った。 虎徹が睨むのは仙蔵と長次の二人。 二人も虎徹の変化にすぐに気づき、顔を見合わせてコクリと頷く。 その瞬間、下級生の目に追えないぐらいの速さで二人に接近し、飛び上がってまずは仙蔵に襲い掛かる。 仙蔵は苦無を構えたまま動こうとせず、瞳孔の開いた虎徹をジッと睨んでいた。 「甘い…!」 そうしたら勿論長次がフリーとなり、飛び上がった虎徹の脇腹に蹴りを食らわせた。 それを上腕二頭筋で受け止めたあと、反対の手で握っている苦無を長次の足に突き立てる。 突き立てるも、長次はさっさと足を引っ込め、苦無を虎徹の頭に投げつけた。 キィンと音をたてて弾き飛ばしながら、ガードしていた腕を仙蔵に振り下ろす。 全て一瞬のできごとに、下級生たちは全く見えていないが、先生たちは見えているので身を構えた。 「たわけ」 「(それはテメェだよ仙蔵)」 虎徹の攻撃を苦無で受け止め、カチカチと苦無が交わる音が鳴り響く中、仙蔵は笑い虎徹も目の中で笑った。 グッと身体を近づいけたあとくわえていた苦無で仙蔵の首を狙うが、仙蔵の顔から余裕が消えることはない。 「だから言っただろ、甘いと…」 「さすが長次だ」 「……」 長次が隠し持っていたであろう苦無を投げてきて、くわえていた苦無は弾かれ、その衝撃で虎徹の顔も軽くのけ反った。 仙蔵から離れ、親指で口端についた血を拭ったあと、ペッと吐き出して両手に持っていた苦無を一度地面に投げつける。 トスッと刺さったあと、「あー…」と首を擦って一休憩。 「まぁ露骨すぎたもんなぁ。でも次は絶対に殺す」 「それができたらいいのだがなぁ?」 「させん…!」 まだ隠し持っている苦無を再びくわえたあと、地面に差した苦無を取って再び二人に向かって行った。 それを見ていた八左ヱ門と雷蔵は、 「雷蔵…これってただの運動会だよな…?」 「そ、そうなんだけど…。なんか本来の目的も忘れてるね…」 戦いながら困惑の声をもらすのだった。 ( TOPへ △ | ▽ ) |