夢/とある獣の生活 | ナノ

大運動会開催


学園長の突然の思いつきは今日もやってきた。
しかし今回は珍しく、下級生は喜びの声をあげた。
上級生…主に五年生と四年生は嫌な予感に既に意気消沈。
そして、最上級生である六年生は一年生以上に喜び、全員がニヤリと怪しく笑った。


「まずは準備だな」


六年生の元に届いた文を折りたたみ、仙蔵は六年生に指示を出すと、全員黙々と準備を進める。
本来、司会を務める学級委員長委員会が指示を出すか、先生の指示を待つかなのだが、今回ばかりは六年生が積極的に動いた。
しかもあの小平太が静かに、だ。それほど楽しみなのだろう。
そんな彼らが楽しみにしているのは、


「「運動会だーっ!」」


運動会である。
学園にある運動場に簡素に作ったそれらは、この日のためのものだった。
朝早く、まだ下級生たちが寝ている時間帯に最初についたのは、六年生の獣コンビこと、七松小平太と国泰寺虎徹の二人。
朝霧が徐々に晴れていくなか、身体をほぐすように簡単に組手をしたあと、最後の準備に取り掛かる。
最後の準備は簡単なもので、下級生たちが座る場所に遠足などで使うシートを敷いて、留三郎が作った「一年は組」と書かれた立札を解りやすい場所に差す。
一年生から順番に三年生まで。運動場を挟んだ場所は上級生スペース。


「五年と四年は自分たちで準備しろよー」


留三郎がそう言いながら、もう疲れた様子の四年滝夜叉丸と、五年三郎に立札を渡した。
六年の立札は小平太が「どんどーん!」と早朝なのにも関わらずバカでかい掛け声とともに突き刺している。


「鉢屋先輩…」
「なんだ、滝夜叉丸」
「私……いえ、私たち。運動会をすると学園長先生から矢文を頂いてから嫌な予感しかしないのですが…」
「奇遇だな。私たち五年もだ」


運動会…。それは日頃の成果を発揮できる日。
忍者をしている為、全員身体を動かすのが好きで、上級生なのにも関わらず楽しみにしているのも確かだ。
しかし、それはこの最上級生たちがいない場合であり、いるなら絶対によからぬことが起きると解っている。
これまでの経験、そして彼らの性格……。
きっと恐ろしい運動会になること間違いなしだと、四年生と五年生は深い溜息をもらした。(しかし、喜八郎は除く)


「ところで、小平太。お前競技内容聞いた?」
「いや、聞いてない。虎徹は?」
「俺も聞いてねぇなぁ…。留三郎、お前は?」
「あん?あー………そういえば聞いてねぇな」


驚いたことに六年も、五年も、四年さえも競技内容を聞いてないという。
「じゃあどうすんだよ」と文次郎がこぼせば、いつもの静かな朝の空気が流れた。
山から顔を出した太陽の光りが顔を照らし、徐々に気温をあげていく。


「先生方が決めているだろう。そろそろ下級生たちが来るから説明と案内の準備に回るぞ」


仙蔵の的確な指示のもと、それぞれがまた動き出す。
仙蔵の言葉通り、眠たそうな顔をした下級生たちが運動場に集まり始め、各組みのシートは盛り上がっていく。
文次郎と小平太が山田先生のもとへ向かい、競技内容が決まってないというと、「いいから座ってなさい」と言われた。


「山田先生なんて?」
「座ってろと言われた」
「先生方が考えているみたいだ。安心して運動会に集中できるぞ!」
「おおっ、それはいいな!やっぱり楽しみたいもんなっ」


いえーい!と小平太と虎徹がパァン!と手を叩いて落ち着かないテンションを身体で示したあと、六年生シートへと腰を下ろす。
六年生の隣には五年生、五年生の隣には四年生とこちらも順番に座っている。
運動場を挟んだ向こうの下級生たちは、既に眠気なんて飛んでおり、きゃっきゃと楽しそうに笑っていた。


「えー、ではこれから運動会を始めます」


ごほん!と山田先生の咳払いを聞いた生徒たちは静まり、上級生と下級生たちの間、コーナリングに設置されている教師陣兼審判席に視線を向ける。
学園長先生が仁王立ちをして、運動会の簡単な説明を始めた。


「全学年を白組、赤組の二つに分け、戦ってもらう」


その言葉のあと、他の先生たちが中身の見えない箱をそれぞれの学年の元へと持っていく。
六年生のところに来たのは山田先生。


「この中に白と赤の玉が入っている。それでどっちか決めるから引いてくれ」
「俺いちばーん!」
「待て虎徹!私が一番だ!」
「落ち着けバカ犬二匹!俺が一番だ!」
「黙れ留三郎!俺が一番だ!」
「………赤…」
「私も長次と同じく赤だな」
「あ、僕は白だ」
「「「「あーっ!」」」」
「いいから引きなさい!」


六年生だというのにこのテンションである。


「おっ、俺も伊作と一緒の白!」
「虎徹と一緒か…。伊作がいる時点で嫌な予感しかしねぇが、ギンギンに優勝してやる!」
「よっしゃ!伊作と文次郎と別れた!俺も赤ー」
「私も赤だ。虎徹、別れたな…」
「小平太…。ぎったんぎたんの、めっためたにしてやんよ!」
「なにをー!?じゃあ私はお前をぐしゃぐしゃのぐちゃぐちゃにしてやる!」
「なにその表現。超怖い」


六年生は奇数なので、四人と三人に別れた。
白組は、伊作と文次郎と虎徹の三人。
赤組は、長次と仙蔵、留三郎と小平太の四人。
その横のシートでは五年生も玉を引いていた。
できれば七松先輩と同じ組になりたい…。だからって立花先輩の敵にはなりたくない…。あと、善法寺先輩の味方だけにはなりたくない!
などと、胸中はさまざま。


『……』


引いた玉を見て、自分がどちらに所属するのか把握したあと、六年生たちを見る。
白組になったのは、勘右衛門と三郎と八左ヱ門。
赤組になったのは、兵助と雷蔵。
バランスよく別れることができたのはいいが、少し複雑な感情が渦巻く。
結局、どっちになっても不満はあるのだ。六年がいる限り。
因みに四年生は、白組、喜八郎とタカ丸。赤組は滝夜叉丸と三木ヱ門となっている。


「組別対抗戦だが、上級生の部と下級生の部に別れて競技を行うことになった。各学年、協力し合いながら遠慮なく戦うよーに!」


全学年が敵となれば、必然的に六年生が有利となる。当たり前の話だ。
それをなくすべく、できるだけ皆が楽しんで戦えるように、学年や組を混合させたと、学園長先生は告げた。


「それとは別に、学年別対抗戦もあるからこれにも励むように」


とは言っても学年別対抗戦は「お遊び」らしく、これには実技の授業内容が入っているらしい。
わざわざ口には出さないが、教科担当の先生たちはそれぞれ胃を押えぶつぶつと文句を言っているのが見えた。
学年別対抗戦もあると聞いた一年生は「打倒、二年生と三年生!」と一致団結し燃え上がっている。
二年生は「一年生に負けず、三年生に下剋上!」と上下に目を光らし、三年生は「先輩としてのプライドを見せてやる」と意気込んだ。
そんな三学年を見た先生(実技の先生)たちは嬉しそうに笑っている。
対抗意識が芽生えることはいいことだ。お互い刺激しあって強くなってほしいと見守っている。
しかし、力の差は歴然。寧ろ勝つなんて無理です。と最初っから諦めている五年生と四年生は絶望的な雰囲気をかもし出していた。


「学年別もあるのか!楽しそうだな!」


小平太が楽しそうに立ち上がり、拳をボキボキと鳴らしたあと、五年生と四年生を見る。
勿論、小平太だけじゃなく他の六年全員だ。
すぐに目を逸らす五年生と、愛想笑いを浮かべながらぎこちなく視線を逸らす四年生。
そうしている間にも学園長先生のお言葉と説明が終わり、山田先生が火縄銃を取り出し、空へと向かって発砲。

大運動会の始まりである。


「学園長先生、四年生は学年別競技、降参します」
「何故じゃ。理由を述べよ、滝夜叉丸」
「私たちも先輩たちの胸をお借りしたのは山々なのですが、やはりまだ四年…。勝てないのは解っております。ならば、もう見る側に徹して、先輩方の技術を盗みたいと思っております」
「気に食わないけど滝夜叉丸の言う通りです!私も久々知先輩や立花先輩が火縄銃を使うところを生で見たいのです!」
「僕はどっちでもいいんだけどねぇ…」
「喜八郎くんはちょっと黙っててねぇ」
「見るのも勉強だとは思いませんか?それに、組別対抗戦に学年別対抗戦…両方戦えるだけの体力はまだ作れていませんし…。なにより、五年生の邪魔をしたくないのです!」
「ふむ……そうじゃのう…。確かに見るのも勉強じゃが…。まぁ、学年別は点数に入らんからいいが、補習になるぞい?」
「「構いません!」」
「え、僕は「喜八郎くーん!」
「ならばそれでよい。上級生組に限り、五年生対六年生とする!」
「「ありがとうございます、学園長先生!」

「まじふざけるなよ四年あいつら…!確実に死んだじゃねぇか…!」
「あはは………わ、笑えないね…」
「え、でもさ。この間の合同実習の借りを返すってことで考えたらよくない?あれも結局俺らの負けじゃん?」
「…確かに」
「だからと言って今戦う必要はないし、何より先輩方の得意な実習で借りを返さなくてもいいだろ。勘右衛門、お前は発言するな」
「俺まじやだ…。無理…怖い…!ほらもう今さっきから視線が背中に刺さってんだよ…っ」
「あー…七松先輩と虎徹先輩が八左ヱ門のこと見てるね。楽しそうに笑ってるよ」
「言うな雷蔵!解ってんだから!」
「八左ヱ門も三郎も諦めなよ。俺らがいくら言ったってもう覆すことできないだろうし、先輩たちは逃がさないと思うよ?」
「………獲物を見つけたような目をしているな」
「はぁ…。だから嫌だったんだ。大体予想はできていた!いつもいつも私たちで遊びやがって…っ」
「組別もさぁ…。何で虎徹先輩と七松先輩別れたんだよ!そこは一緒にしてくれ!それで一緒の組だったらまだマシだった!」
「そう言えば七松先輩が引くとき「あ、これじゃない。えーっと、赤玉はっと…」って言ってたね…」
「アハハ!なにそれ雷蔵!それマジなの!?解っていたけど七松先輩って化け物じゃん!」
「勘ちゃん、声が大きいのだ。でもそれが本当だとすると、七松先輩は中を見なくても好きなものを引けるんだな…。恐ろしい」
「こうなったら仕方ない。さっさとこの運動会を終わらせるぞ!」

「……組別は…いい感じに別れることができたな…」
「虎徹と離れて、私寂しいっ」
「俺も小平太と別れて寂しいっ」
「小平太は故意的に虎徹と別れたのだろう?ぶつぶつ言っていたからな」
「まぁな。虎徹と別れたほうが楽しそうだったし、何より白のほうが仙蔵と長次がいるからな!」
「俺も文次郎と別れてまじよかったわ。伊作もいねぇしきっと大丈夫!」
「僕の不運で留さんも呪ってやる…」
「止めろ!」
「はぁ……。伊作と虎徹なのは少し心細いが、これはこれで鍛錬になる。お前ら、俺の指示には従ってもらおう」
「おーよ。文次郎は賢いい組様だからな!なんでも言ってくれ。俺ぁお前ら二人の指示に従うぜぇ」
「僕も文次郎の指示に従うよ。知恵が必要だったらいつでも言って。不運なだけで頭はこれでも賢いんだからね」
「なははっ、楽しみだなぁ!―――それから…五年の奴らを食うぞ」
『あぁ』


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