夢/とある獣の生活 | ナノ

BL展開の段 その二


!BL注意!
獣主×竹谷でBL要素たっぷり含んでおります。
それでも忠犬竹谷なのは変わりません。
竹谷→→→→→獣主。





「……」
「…」


夜。虎徹の部屋の虎徹の布団の上には、この部屋の主である虎徹があぐらをかいて座っていた。
暑いのか、寝間着ははだけており、ほぼ露出している。あぐらをかいているので、褌もチラチラと視界にうつるほど。
そんな彼の目の前には正座をしている後輩の竹谷八左ヱ門。
動くことも、喋ることもなく、その場で正座をしている。そんな彼を呆れたような顔で見ているのが虎徹。
虎徹が溜息を吐くと、八左ヱ門はビクリと肩を震わせ、「あっ…」とようやく言葉をもらした。


「あのよぉ、喋らねぇと解んないんですけど…」
「………」
「まただんまりかよ…」


虎徹がいくら声をかけても、喋ろうとしない八左ヱ門に、今度は「面倒くせぇ…」と呟いて頭をかく虎徹。
こうなったのは少し前のこと。
今日は町へと遊びにでかけた。と言うか、彼女とのデートがあったので急いで学園を飛び出した。
デートも終え、学園に戻って来ると小平太や文次郎、長次が鍛錬をしていたのでそれに混じって、汗をたくさんかいた。
四人で一緒にお風呂に入って、部屋に戻る前に留三郎と伊作の二人とくだらないことを喋って、日付をまたぐ。
その後、寝ようと部屋に帰ると、部屋の前には八左ヱ門が立って待っていた。
話かけても喋りにくそうな態度を示したので、とりあえず部屋に入れたが、それっきり喋ろうとしない。


「用がねぇなら帰れよ。俺もう寝るぞ」


布団に入ろうと動きだすと、部屋で飼っている猫や犬が虎徹の周りに集まりだす。
八左ヱ門はようやく顔をあげ、「あのっ…!」と声をかけて虎徹の動きを止めた。


「きょ、…今日……、その、町へ…?」
「町?ああ、出たけど?それがどうかした?」
「……っ、あの、人…、彼女、さん…です、か…っ?」


顔をあげたと思ったら、また俯いて絞り出すかのような声で聞いてきた。


「あ、見たの?そうそう、あれが今の彼女ー。めちゃくちゃ可愛いだろー?」
「………」


八左ヱ門は虎徹を尊敬している。それと同時に、恋もしていた。
前に告白して、すっぱり断られたのだって忘れていない。だけど、好きという気持ちは消えることはなく、寧ろ募る一方。
だから、虎徹が他の女性と一緒にいるのを見ると、心がモヤモヤして、嫌な気分になってしまう。


「せ、…せ、接吻、してました…よね…?」
「そこも見たのかよ!まーな、帰り際はやっぱ寂しいしなー」


八左ヱ門も町へと出かけていた。そこで偶然目にしたのが、虎徹と知らない女性が楽しそうに歩いている姿。
虎徹は男をそういった目で見ることができない。女性が大好きだ。だからおかしい光景ではない。
だけど、虎徹を好いている八左ヱ門にとっては、辛い光景でしかなかった。
見たくないけど、目は二人をずっと追っていた。そして最後、接吻するとこまで見届けてしまった。
言いたいことはたくさんある。ありすぎて、何を喋ったらいいか解らない。
喋り出したらきっと感情が高ぶって、泣いてしまうだろう。それだと虎徹を困らせてしまう。
いや、今現時点で困らせている。


「っ…!」
「え、何で泣きそうなの?大丈夫?」


突然泣きだす八左ヱ門を見て、少しだけ焦る虎徹。
寝転ぶつもりだったのを止め、八左ヱ門に近づくと、八左ヱ門が自分へと勢いよく抱きついてきた。
尻持ちをつきつつ、再び布団へと戻る虎徹。
押し倒されるまでとは言わないが、左手を後ろについて右手で八左ヱ門の頭を撫でながら「どうした?」と聞くと、虎徹に抱きついたまま首を横に振った。


「いやね…、言ってくれねぇと解らないじゃん?」


嘘だ。
と八左ヱ門は心の中で呟く。
自分が虎徹のことを好いていることは知っている。だから、その光景を見たってことは、八左ヱ門が今どんな気持ちか、解っているはずだ。
動物の心が読めるなら、人間の心も読めるはず。
でも、優しく撫でてくれる虎徹に胸の動悸が治まらない。


「(好きです。好きです好きです好きです虎徹先輩ッ!)」
「ちょ、苦しいってば…!」
「(他の奴に接吻するとこなんて見たくなかった!何で俺は女じゃないんだ。何で虎徹先輩は男なんだ。何でっ……何で虎徹先輩は俺を好きになってくれないんだよ…っ!)」
「あ、あのさぁ竹谷くん…。そろそろ左手が痺れてきたんだけど…。離れてくれる?」
「……虎徹先輩が接吻してくれたら離れます…」
「ハァ!?」


撫でていた手を止め、驚きの声をあげると、周りにいた犬や猫が首をあげて虎徹を見上げた。
八左ヱ門は依然、虎徹に抱きついたまま離れようとしていない。


「おまっ、なに言ってんの…?」
「ですから、先輩が俺に接吻してくれたら離れますと言ったんです」
「いやいや…、しねぇよ?男相手にしたくねぇし…」
「では離れません」
「いや、離れろよ。寝れねぇじゃん」
「一緒に寝ます」
「断る。野郎と肩並べて寝たくねぇ」
「では接吻してください」
「んだよその究極の選択は…」


離れろ!と八左ヱ門をはがそうとするが、はげそうになかった。
寧ろ、離れまいと力がこめられ、息が苦しくなる。
頭を叩いても彼は離れようとせず、何度か攻防戦を繰り返したが、全ては無に終わった。


「もー…なんなのお前…。バカなこと言ってねぇで離れろよ…。明日だって早いんだぞ?」
「……」
「竹谷くーん…」
「なんで…、あの人には接吻できて、俺にはできないんすか…」
「あの人?………バカか。彼女だからできて当たり前だろ。お前の性別考えろよ」


虎徹の呆れを含んだ言葉に、八左ヱ門はカッとして虎徹から離れて顔をあげる。


「ッ!性別がなんすか!俺のほうがあの人より虎徹先輩とずっと一緒にいます!虎徹先輩のことだってよく知ってます!虎徹先輩のことを………っひく…好きなんす…ッ!」


やはり、思っていたことを言葉にすると感情が高ぶってしまい、涙を流してしまった。
離れたとは言え、先ほどより顔と顔との距離が近くなったことに気が付き、八左ヱ門は思わず目を反らしてグスンと鼻をすする。
頭の中がごちゃごちゃとうるさく、次になんて喋ったらいいか解らなくなった。
困らせるつもりも本当はなかった。ごめんなさい、と心の中で謝りつつも、口では「虎徹先輩が好きなんです」と何度も何度も告白していた。


「も、あんな光景見たく、なかっ…た…!ごめんなさい、あの人が憎いっす…。俺のほうが虎徹先輩のこと好きなのに、っなんで…!」
「……」
「俺が欲しいものを、あとから知った奴にとられるなんて……苦しいんす…ッ。俺が欲しいもの、全部持っていくなんて卑怯だッ…!」
「ッチ」
「―――え…?」


虎徹から離れ、大きな身体を小さくさせて泣いている八左ヱ門。
涙を止めようと必死に腕で涙を拭っているが、止まりそうにない。
そんな彼を見た虎徹は、ちゃんと座って、八左ヱ門に手を伸ばす。
乱暴に、力強く掴んだ腕を自分に引き寄せ、八左ヱ門の唇に自分の唇を重ねる。
重ねるだけの行為。すぐに離れて、指で唇を拭った。


「しょっぺぇ…」
「……虎徹、せんぱい…?」
「たったこれだけのことだろうが」
「え?」
「接吻なんて、これだけのことなんだよ。大したことねぇだろ。だからこれぐらいのことでいちいち泣くな」


一瞬の接吻で、八左ヱ門の目からは涙が止まり、時間も止まっていた。
何をしたか、何をされたか理解した途端、顔が真っ赤に染まって、「だ、えっ…なっ…!?」と意味の解らない言葉をもらす。
虎徹は何食わぬ顔で布団へと戻り、寝転ぶ。すぐに犬や猫が集まってきて、丸くなった寝始めた。


「ほら、もう用がねぇなら帰れ。俺はもう寝るぞー」
「虎徹っ、虎徹先輩!」
「だーもう、うるせぇなぁ!んだよ!」
「も、もう一回!」
「ハァ!?」
「大したことないならもう一回お願いします!」
「断る。俺の接吻は高ぇんだよ!」
「いくら払えばいいですか!?」
「払うなよ!冗談だろ!?なに布団に入って来てんだよ!」
「一緒に寝たいです!」
「俺は寝たくねぇよ!ちょ、ばっ…!抱きつくな!」
「先輩好きっす!やっぱり諦められないです!」
「しつけぇえええ!いいから部屋帰れ!」
「もう一回してくれたら帰ります!」


寝転んだ虎徹の背中に抱きついて離れない八左ヱ門の頭を殴るも、彼は幸せそうに笑っていた。
歴代の彼女でもしたことのない幸せそうな顔。思わず、ほだされそうになった虎徹だが、やはり男は抱けない!と首を横に振った。


「大したことないならいいじゃないですか!嘘なんですか!?虎徹先輩は平気で後輩に嘘をつく最低な先輩なんですか!?」
「んなわけねぇだろ!?」
「ではしてください!」
「きょ、今日はもうしねぇ!」
「では明日ですね。解りました、おやすみなさい」
「部屋へ帰れ!」
「だって虎徹先輩の匂いって安心するんですもん…。いいじゃないっすか」
「調子にのんじゃねぇえええええ!」


ガツンと力いっぱい殴ったあと、部屋にいた犬と猫に「襲え」と命令を下す虎徹を見て、さすがに八左ヱ門は大人しく虎徹に従い、部屋から出て行った。
ようやく寝れると、布団に潜った虎徹だが、とんでもないことをしてしまったと激しく後悔するのだった。



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