夢/とある獣の生活 | ナノ

好き嫌いの段


「虎徹…」
「何だよ、留三郎」
「汚い」
「え?」


目の前に座って夕食を食べている虎徹を睨みつけて言ってやると、箸をくわえたまま俺を見て小首を傾げる。


「箸をくわえるなッ」
「な、なんだよー…」


六年間こいつと一緒に過ごしてきたが、こいつは行儀が悪い!
箸をくわえたままだったり、箸で皿を寄せたり、ポロポロ落としたり…。とにかく行儀が悪すぎる!
しょっちゅう文次郎や仙蔵、俺が注意するんだが、一向に直らない。もしかしたら直す気がないかもしれない。
あれか。野生児だから手で食う方が楽ってか?例えそうだとしても、ここは人間が生活するとこだ!


「箸の持ち方もおかしいし、お前いい加減にしろよ!?」
「そんなこと言われても…。これが俺にとって普通だし…。今更直るわけねぇだろ?」
「いいや直せ!見てて不快だ!」
「そこまで言うー?……まぁ…不快なら直すよ…」


そう言って箸を正しく持って、ご飯を掴む。
難しそうで眉間にシワが寄っていたが、これも全て虎徹が悪い。俺らは何度も言った!


「イライラしてきた…」
「ダメだなー、虎徹は。無駄な力が入りすぎなんだよ」
「うっせぇ小平太!話しかけんな!」


虎徹の隣に座っていた小平太は、箸の持ち方を指導しようと口を挟んできた。
そう言えば、小平太は行儀いいよな。食べながら喋ったりするけど、虎徹みたいに汚したりしねぇ。


「ああ、お前実家は武家だっけ?」
「おう。だから行儀作法は厳しく躾られたぞ!」
「なるほど…。おい虎徹ー、小平太から色々教えてもらえよ」
「やなこった!」
「虎徹、七松先生って呼んでもいいのだぞ?」
「うっせぇ!」


丁寧に、綺麗に…。を意識して箸を扱っているせいで、いつもみたいに食べれない虎徹。
殺気を滲ませながらブチブチと文句を言っていたが、頑張っているようだった。
時間をかけながら全てを胃に運び、脱力しながら箸を置いて深い溜息を吐く。


「っておい、まだこれ残ってんじゃねぇか」
「虫料理なんか食えるかぁ!俺、虫は好きだけど、食べるのは無理!」
「好き嫌いはダメだろうが!つーかおばちゃんがそれを許してくれると思うか!?」
「小平太ッ、頼む、今日も食ってくれ!代わりに煮豆食ってやるから!」
「おー、構わんぞ」
「おい待て小平太!虎徹をあまり甘やかすな!虎徹、今日は自分で食べろ。いいな!」


せっかく作法を叩きこんでやったんだ。普段の好き嫌いも直してやらぁ!
大体こいつ偏食なんだよ。肉ばっか食いやがって…。しかもいらねぇもんは俺か伊作にこっそり混ぜるし!


「えーっ!?こ、小平太は煮豆より虫のほうがいいよな?」
「んー…、でも私、煮豆嫌いだけど食えんわけじゃないからなぁ…」
「つーわけだ、食うまでそこにいろよ!行くぞ、小平太」
「ご馳走様でした。虎徹、それ食ったらバレーしような!」
「じゃあ食ってくれよぉ!」


大体俺は虎徹を今まで甘やかしすぎてきたんだ。だから何度言っても行儀の悪いまま。
今日から俺は厳しい保護者になる!


「留三郎、すっかり虎徹の保護者らしくなってきたな」
「……って、俺は虎徹の保護者じゃねェ!」


そうだ、俺は虎徹の保護者じゃねぇよ!ただの友達だよ!
あまりに慣れ過ぎて勘違いするとこだったぜ…。


「小平太」
「なんだー?」
「俺はもう虎徹の面倒見ねぇと誓った。だから、もし俺が虎徹の面倒を見ようとしたら教えてくれ」
「解った!」




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