夢/とある獣の生活 | ナノ

色んな不運の段


六年は組は不運である。
とは言っても、不運なのは善法寺伊作であって、食満留三郎と国泰寺虎徹は不運ではない。しかし不運だ。


「さて、あとは薬草を煎じるだけ…」


大量の薬草をカゴに入れて、保健室をあとにした伊作は自室へと向かった。
今日も一日たくさんの不運に見舞われたが、今日もあと少しで終わり。
一日の疲れを癒すお風呂に入る前に、部屋に帰って薬草を煎じようと思った瞬間、前から同じ組の留三郎が現れた。


「あ、留さん。これからお風呂かい?」
「ああ。伊作も早く入れよ」
「うん、これ部屋で煎じてから入るよ」
「またか…。あのなぁ、煎ずるのはいいが部屋を臭くするなって何度言ったら―――い、伊作!」
「え?―――うひゃあああ!」


会話の途中にどこからか飛んできたバレーボールが伊作の頭に当たり、助けようと近づいた留三郎の顔面に薬草が入ったカゴが当たった。
バランスを崩した伊作が中庭のほうに倒れ、倒れまいと腕を伸ばしたのが留三郎の服。
そのまま掴んで二人揃って中庭へと倒れこむ。
しかし倒れた場所が悪かった。そこには4年い組の綾部喜八郎が掘った落とし穴があり、お約束のごとく落ちたのだった。


「いっ……てて…」
「と、留さーん…重たいよー…!」
「あ、悪い伊作!」


落とし穴はそれなりに広かったが、伊作は留三郎に踏まれていた。
急いで離れ、伊作に手を貸す。
痛む場所を擦りながら上を見上げると、星が遠かった。


「いつも以上に深い…」
「はぁ…。まぁこれぐらいの深さなら大丈夫だろ。俺が先にあがるぞ」
「あ、うん」


いくら深かろうが、六年生。
のぼろうとする留三郎だったが、上から聞きなれた声がした。


「ばっか、小平太。もっと力加減しろよなー」
「いやー、すまんすまん!」
「壊したらまた文次郎に怒られるんだぞ?予算ねぇくせに何でも壊すな、なくすな」
「そのときは生物委員会からもらさ!」
「ふざけんな!こっちも餌代足りてねぇんだよ!」


二人の会話を聞いて、落とし穴に落ちることになった原因のバレーボールは、小平太が打ったものだと解った。
留三郎は怒鳴りたい気持ちをおさえ、「おーい」と二人を呼ぶ。


「お、なんだなんだ?」
「落とし穴?あ、伊作と留じゃん。え、もしかしてあのバレーボールで?」
「そうだよ!お前らのせいでこうなったんだ!」
「小平太ー、お願いだから僕のほうに飛ばさないでよ」
「なはは、すまんすまん!」
「まぁいい。虎徹、悪いが縄を持って来てくれないか?」
「………この穴、いつもより深いな…」
「…おい、虎徹。バカなことは止めろ…」
「俺も混ぜてーっ!」
「虎徹!」
「うわああああ!」


伊作(もしくは伊作と留三郎)が穴に落ちることなんて不思議ではない。寧ろ日常茶飯事だ。
だけど今日の落とし穴は異様に深かった。
それのどこに刺激されたのか解らないが、「楽しそう!」と思った虎徹は自(みずか)ら落とし穴に落ちた。
留三郎は避けたが、伊作は避けることができず、再び踏まれてしまった。


「何考えてやがる、バカ虎徹!」
「だって二人だけ楽しそうだったし」
「楽しいわけあるか!俺は縄を持って来いって言ったんだ。なんで降りてくんだよ!」
「大丈夫!小平太ー、縄持ってきてくれるかー?」
「おー、任せろ!」
「な?」
「な?じゃねェよ!仕事増やすな!」
「ど、どうでもいいけど僕を踏んだままケンカしないでくれる?」
「「あ」」


小平太が縄を持ってくるまで、三人は仲良く落とし穴の中で待つことに。


「いやー、穴から見る星もおつなもんですなぁ」
「うるせぇ」
「僕はもう見飽きたかな…」
「なんだよ。じゃあ…、ごほん。お前らと肩を並べて星を見るのもおつなものですなぁ」
「…うるせぇよ」
「あはは、そうだね。痛いのはイヤだけど、二人と一緒にいられるのは嬉しいな」
「だろ?ほら、留三郎も素直になれって!」
「だー!触んじゃねぇ!」
「留さんが照れてるー!」
「伊作もうるせぇぞ!もう助けてやんねぇからな!」
「とか言いつつ助けてあげる留三郎が好きだぜ!」
「僕も好きだよ!」
「なっ……!」
「「俺は嫌いだよ」って言えばいいのに言えない留三郎も好きだぜ」
「同じくー!」
「う、うるせぇ!…………き、嫌いじゃねぇのに言えるか…」
「「アハハ!」」
「虎徹ー、縄と長次を持ってきたぞ!」
「お、小平太が来たな!ってか何で長次まで?」
「縄と言えば縄標だ!」
「なんか間違ってるけどまあいいや。長次、頼んだ!」
「任せろ…」


長次と小平太によって三人は落とし穴から引きあげてもらい、なんとか脱出することができた。
そのまま長次は小平太を連れて長屋へと戻り、留三郎と虎徹は散らばった薬草を集めることにした。


「これでようやく風呂に入れるぜ」
「ごめんよ、留三郎、虎徹」
「二人とも本当不運だよな。気をつけろよ」
「俺は違ぇよ」
「僕が不運で、留三郎が巻き込まれ型不運、虎徹が巻きこみ型不運って仙蔵が言ってたっけ」
「俺お前らを巻き込んでるか?」
「不運があるとこにあえて巻き込んで行く。って意味だよ。そのせいで痛い思いしたけど…」
「なるほど!」
「納得してどうする」
「でもお前らと一緒なら何でも楽しいから気にしてねぇ!じゃ、俺もうちょっと鍛錬してくるから!」
「うん、おやすみ虎徹」
「物壊すなよ」
「解ってるって」


そこで三人は別れる。
六年は組は不運だが、それなりに楽しく毎日を過ごしているのだった。





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