夢/とある子供の我儘 | ナノ

怪しくないぞ!の段


「というわけでこの度六年は組に編入した、小鳥遊千秋だ。宜しくお願いします」


は組の教室に、六年生が全員集合していた。
黒板の前に千秋が一人立ち、丁寧に頭を下げると、髪の毛がサラリと落ちた。


「この時期に、しかも六年に編入してくるなんて珍しいな」


困惑の空気が流れる中、仙蔵だけはいつもと変わらない様子で喋ると、千秋は顔をあげて笑う。
真面目な顔は凛々しいが、笑うと少しだけ幼く…いや、年相応に見えた。


「色々事情があってな。ところで名前を覚えたいから教えてくれるか?」
「私はい組の立花仙蔵だ。こっちが同じ組の潮江文次郎」
「……」


あの学園長が編入を許可したんだ、怪しいものではない。それに、小鳥遊家と言えば忍びの世界では少し有名だ。
つい先日、跡取りが死んだと言うのも耳にした。千秋が言うことに間違いはない。
色々考え、疑っていた仙蔵だったが、「危害を加える人間ではない」と判断しすぐに千秋を受け入れ、簡単に自己紹介をする。しかし、観察するのは止めない。自分の目で見て確かめたい。
だが文次郎は千秋を疑り深く睨みつけ、喋ることはなかった。
千秋は気にする様子もなく、「文次郎か、宜しくな」と笑う。


「こっちはろ組の中在家長次と、七松小平太だ」
「……宜しく」
「宜しくな、千秋!」


文次郎とは対照に、ろ組の二人はあっさり受け入れてくれた。
受け入れたと言うより、長次は他人に興味がないのと、小平太が細かいことを気にしない性格だからだが、千秋は「宜しく!」とやっぱり笑う。


「ところで千秋!質問いいか?」
「ああ、私に答えれることなら何でも構わんぞ。えっと…小平太だったな」
「お前おなごか?」


誰しも気になっていた質問をあっさり聞いた。
小平太の質問に一瞬時間が止まった気がしたが、千秋は笑って小平太を手招く。
立ちあがって千秋に近づくと、手を掴まれ、千秋の胸を触らされた。


「どうだ、小平太。私の胸はツルツルだろう?」
「おー!ないな!では何故女みたいな名前なんだ?」
「見ろ、私を。女みたいな顔をしているだろ。だから両親がつけたのだ」
「そうなのか!いやー、本当にツルツルだな」
「まぁな」


手を上下に動かす小平太と、気にせず笑っている千秋を見て、他のメンバーが複雑そうな表情を浮かべていた。
納得できると言えば納得できる理由。しかし、どうにも女にしか見えないため、目の前の光景を直視することができない。


「女らしい顔をしているから女だと思った」
「それを言うなら仙蔵のほうが綺麗だろう?」
「あ、そうだな。仙蔵ー、お前本当はおなごなのか?」
「アホ、なわけあるか。この六年間一緒に風呂を入ってきただろうが」
「………そうだったな!」


なはは!と小平太の明るい笑い声が響いて、千秋も楽しそうに笑みを浮かべている。
そんな中、今まで黙っていた文次郎が口を開いた。


「―――もし、本当に協調性などを身につけたいのであれば、先が短い六年ではなく、五年もしくは四年に編入すればよかったのではないか?」


文次郎の棘が混じった声に、再び部屋は静かになる。
千秋も真面目な顔になり、文次郎を真っ直ぐ見つめる。


「そうだな、六年より五年や四年に編入したほうがよかったと自分も思う」
「では何故だ」
「先が短いからだ。短いと思うと毎日を大切に過ごそうと思うだろう?それに私は早く家に帰って仕事をしなければならない。早く、でも質のある毎日を送りたいから六年に無理を言って編入させてもらったのだ」


喋っている間、千秋は決して文次郎から視線をそらさなかった。
これは本当のことだし、千秋もそれを望んでいる。だから真っ直ぐ見つめている。


「んー……千秋が嘘ついてるように見えないけどなぁ…」
「つか、文次郎が何でこいつを疑ってるのかわかんねぇけど」
「……やまびこの術…」
「ああ、敵の内側に入って一定の信頼を得たら仲間との打ち合わせどおりに敵側を落とす術か。にしても警戒しすぎだろ」
「逆にお前らは警戒しなさすぎだ、アホのはめ」


なるほどな。と呟く留三郎と全く警戒していないは組の二人に呆れてため息をはく仙蔵。
だが、長次の言葉を聞いて少しだけ殺気を出して千秋を見ると、千秋も留三郎に視線をうつす。


「そんな術をしても私に得などない。と言ったとこで信じてはもらえぬか…。忍び一家の者だしな。ふむ…、難しいものだな。しかし、ここですぐにみなと仲間になればきっと私の為になる…」


眉を寄せ、口元に手を添えてぶつぶつと呟く千秋。
何人かが不思議そうに様子を見ていたが、すぐに顔をあげ、一番近くにいた小平太に身体を向けた。


「小平太、私は怪しくないぞ!だから、友達になろう!」
「明らかに怪しいだろ、それは…」
「いいぞ!」
「小平太ッ!」
「何故拒む必要がある?」


千秋も真っ直ぐなら、小平太も真っ直ぐだ。ド直球。
それとも同じような性格なのか、はたまた野生の勘なのか…。
いや、千秋が敵であろうと勝てる。という自信があるのかもしれない。
千秋が何者であるか解らないが、これから先自分で見極めようと、小平太は千秋と友達になった。
呆れるい組とは組だったが、小平太と仲のいい長次は静かに立ちあがり、二人に近づく。


「…宜しく頼む」
「っああ!こちらこそ世話になるぞ、長次!」


ぼそぼそと聞き取りにくい声だったが、優しい言葉に千秋は少し照れくさそうに笑って頭を下げた。


「小平太に似て嘘をつけるような人間に見えんしな」
「小平太の人を見る目を信じるよ」
「だが、疑わせてもらうぞ」
「ああ、構わん」


続いて仙蔵と伊作が立ちあがって近づく。
座っているのは文次郎と留三郎のみ。
仙蔵が鼻で笑い、「信じるのも大事だぞ」と、自分もまだ信じていないのに、まるで文次郎だけ信じてないように言うと、視線を反らして頭をかく。
その間に留三郎も千秋に近づく。


「まあ俺は元々そんなに疑ってなかったけどな。ただ不思議に思ってただけだし」
「すまんな、留三郎。これから宜しく頼むぞ!」
「文次郎ー、早く挨拶しろよ」


留三郎の言葉に文次郎は眉を寄せたまま目を閉じ、勢いよく立ちあがる。


「…小鳥遊、宜しく頼む」
「ああ、宜しくな、文次郎!」


学園生活最後の年。新しい仲間が入りました。


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