編入してきましたの段 「桜が綺麗だね、留さん」 「お前は呑気だな…。でも、綺麗なのは確かだ」 六年は組の教室でぼんやりと中庭に咲いている桜を見ているのは、善法寺伊作と食満留三郎の二人のみ。 一年のときはたくさんいた同級生たちも、六年経つと二人だけになってしまった。 寂しいと思うが、それは「いなくなって寂しい」のか、「残り一年もなくて寂しい」のかは二人も解らなかった。 「あともうちょっとでお前の不運とおさらばだと思うと少し寂しくなるかもな」 「じゃあ一緒のとこに就職する?」 「それは勘弁してくれ」 留三郎が苦笑をこぼすと、伊作もフフッと笑い、教室を振り返る。 自分たちしかいない教室を見て、この六年間の思い出が浮かんできた。 「六年になったんだから頑張ろうね!」 「当たり前だろ」 「それから、あと少し。宜しく、留三郎」 「ああ、こっちも宜しくな」 ここまで来たなら二人揃って卒業しよう。と言葉に出さなくてもお互い通じ合った。 「失礼する」 そこへ、聞いたことのない声が部屋に響いた。 二人が驚いて出入り口のほうに視線を向けると、自分たちと同じ色の忍び装束を着た小柄な男が立っていた。 気配など感じなかった。そのことに驚き、二人は身構えているが、入って来た男は「敵ではない」と言うように無防備に近づいてくる。 「二人はここの者だよな?」 「そうだが…。テメェは誰だ?」 「は組であっているか?」 「う、うん…」 「そうか!私は小鳥遊千秋だ。今日からこの組に編入することになった。宜しく頼む!」 元気のいい声で自己紹介をする男に、二人は開いた口が塞がらない。 たった今「二人で頑張ろう」って言ったばかりなのに、仲間が増えてしまった。 いや、それより何故今更編入してきたのだ? 自問自答しても答えが出ることはなく、留三郎と伊作が顔を見合わせ、千秋に向き直る。 「ど、どういうことだ…?」 「そのままの意味だ。ところで二人の名前は?」 「け、食満留三郎…」 「僕は善法寺伊作」 「留三郎と伊作な!一年もないが宜しく頼む!」 再び頭を下げる千秋に、二人も慌てて頭を下げたが、なんだか納得いかない。 「詳しく事情を話したほうがいいか?」 「できればそっちのほうが嬉しい、かな?」 「では…。家の忍び組頭になるのだが、今まで他の忍者と関わったことがなかった。それでこの学園で協調性などを学ぶため編入してきた。一応つい最近まで戦場で働いていたので問題なく六年に編入できたのだ。解ったか?」 「簡潔すぎてわかんねぇ…」 「細かいことは気にしなくていいぞ!ともかく今日からお前たちと同じ教室で学ばせてくれ」 「編入してきたんだから…僕たちが断ることもできないしね…?」 「唐突すぎて頭がついていかねぇよ」 「留三郎は真面目な奴だな!仲良くしてくれ」 ニコッ!と素直に笑う千秋に、二人は邪見に扱うことができず、流されるように「ああ」と答えたのだった。 ( TOPへ △ | ▽ ) |