夢/とある子供の我儘 | ナノ

い組の二人との段


「お、俺のことは気にせず食え…」


そう、文次郎は甘いものが苦手だったのだ。
勿論、これが忍務となれば話は別だ。無理やりにだって口にいれる。
今はその必要がないため、出されたお茶を持ったまま、首を横に振って断った。


「美味いぞ?」
「あ…その…」


千秋は文次郎が甘いものが苦手なことは知らない。
団子についた棒を持って文次郎の口元に運ぶも、彼は口を固くなに閉じて食べようとしない。
眉間にシワを寄せる千秋と、理由を知って笑っている仙蔵。
仙蔵を睨むも、彼は気づいていないフリをして、出された団子に手を伸ばす。


「どうした、せっかく千秋が食べさせてくれると言うのに…。食わんのか?」
「仙蔵っ」
「食わんなら、そうだな、私が食べさせてやろう。長年一緒にいる私からなら遠慮することなく食べれるだろう?」
「おお、そうだな。文次郎はこういうのが苦手そうだもんな。すまん!」
「ちがっ…!」


ニヤニヤと楽しそうに笑いながら、ズイッと団子を突き出す仙蔵。
身を乗り出し、千秋と密着しているが、千秋も仙蔵も気にしていない。困っている文次郎の反応が面白くて仕方ないようだ。


「お、お前ら止めろッ!」
「そんな大声出さなくてもいいだろう?せっかく千秋と一緒に団子屋に来たというのに…。空気を乱すつもりか?」
「お前は俺で遊んでんだろうが!それを止めろと言っとるんだ!」
「遊ぶ?私は緊張しているお前を和ませようと冗談のつもりでしただけだ。それを………冗談の通じん奴め。千秋、文次郎は頑固者だ。傷つく前に離れたほうがいいぞ。私も何度文次郎の言葉で傷ついたことか…」
「文次郎、仙蔵はお前を思ってしてくれたんだ。あまり仙蔵を怒らないでやってほしい」
「はァ!?お、俺……何で…」
「それとも、私がいるからだろうか…。すまない、私はもうお前たちに話しかけていい人間じゃないのにな…」
「だ、誰もそうは言ってねぇだろうが!俺はっ、…た、確かにお前が女で避けてたが、別に嫌いになったとかそう言うんじゃねぇんだ!ほら、お前が望んだこととは言え、殴ったり蹴ったりしただろ?…その、女性に手をあげるのは俺が許さねぇつーか……」
「そうか…。私の自分勝手な行動で、文次郎を傷つけてしまったな。すまなかった」
「いや…。その…、俺も、すまん…」
「文次郎が気にすることではない!勿論、仙蔵もな。私がしたかったんだ」
「なぁに、お前が気にしてないというなら私ももう気にしてないさ。文次郎は真面目だからグダグダと引っ張るだろうがな」
「うるせぇ…」
「こんな奴だが、…これからも友達でいてくれるだろうか…」


真正面を向いて、少し俯き加減で恥ずかしそうに呟く千秋を見て、仙蔵は目を見開いたあと珍しく素の笑い声をあげた。
文次郎は千秋の言葉に呆気に取られていた。自分と同じぐらい真面目な奴だと…。


「も、勿論もう無理は言わん!お前たちが組み手はできんと言うなら誘ったりせん。だ、だが…私はお前たちと一緒にいると色々と学べることがある。それに…、た、た、楽しいとも…。すまないっ、忍者になる人間がこのような腑抜けた発言をしてしまって!」
「何を言う千秋。私も楽しいことは好きだぞ。だから、………そうだな、こう言ったほうがいいか」
「仙蔵?」
「千秋、今度こそ私と友になってくれ。私もお前から学ぶことが多々あるし、自分の有益となる人間とは繋がっていたい」
「っああ!宜しく頼む!」
「で、文次郎は?」


真面目な千秋にはちゃんと真面目な言葉で返す仙蔵。
友達なんて自然とできるものだし、関係性なんて曖昧なものだ。言葉でわざわざ言わなくてもいいものだが、真面目な千秋にはこれが正解だ。
仙蔵が文次郎を見て、千秋が文次郎を振り返ると、彼も真面目な顔をして千秋を見ていた。


「忍者には友なんて必要ない」
「……」
「―――だが、好意を無下にすることはできない。しかし、俺はもうお前を男としては見れん。だから、俺の行動一つでお前を傷つけるかもしれない。…それでもいいとお前が言うなら、……また、友になってくれ」
「も、勿論だ!」


言いにくそうではあったが、目を反らすことなく千秋に告げると、千秋は喜んで大きく頷いた。
千秋と文次郎が握手をすると、仙蔵は肩を震わせながら声を押し殺して笑っており、それに気付いた文次郎は不思議そうな顔を名前を呼んだ。


「なに笑ってんだ?」
「どうかしたか、仙蔵」
「いや…、お似合いだなと思ってな」
「「は?」」
「くくっ、真面目もいいが、真面目すぎるなよ。疲れるだけだ」
「真面目なことはいいことだろうが。なぁ、千秋?」
「ああ!何事も真面目が一番だ!」
「っ…そ、そうだな…!それがお前たちのいいところだ。いやー、玩具が増えて最高にいい気分だ。すみません、お団子もう一皿ください」


目じりに溜まった涙を拭いながらお店の人を呼ぶ仙蔵を横目で見ながら、二人は揃って首を傾げた。



TOPへ |

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -