夢/とある子供の我儘 | ナノ

苦手と大好きの段


「僕、くノ一と戦うの苦手なんだよねー…」


その日の放課後、は組の教室に私と伊作と留三郎の三人は残って、課題をしていた。
課題も委員会前にはなんとか終わり、少しくだらない話をしていると、伊作は溜息をするようにその言葉をこぼした。
伊作の隣に座っている留三郎も同感するよう頷く。
目の前の二人を交互に見て、首を傾げると伊作は苦笑して、私に謝罪してきた。
女だと明かしてから、少しの間わだかまりがあったが、なんとか前のような関係に戻ることができた。
だけど、やはりこうやって女扱い(この場合、くノ一扱いだな)されるのは好きではない…。


「私と戦うのも嫌だったか?」
「いや、そうじゃなくてね」


今まで、留三郎たちほどではないが伊作にも自主練に付き合ってもらっていた。
だけど、くノ一…女と戦うのが苦手な伊作にとって、私との鍛錬は苦痛しかなかったのだろうか。
それを思うと凄く申し訳ない気持ちになって謝った。
私が強くなりたい。と思うのは勝手だが、私の夢に他人を巻き込んで、迷惑をかけるのは嫌だ。それが友達となればもっとだ。
だけど伊作も留三郎も笑って、頭をぽんぽんと撫でてくれた。


「千秋との鍛錬はいい修行になるよ。ね、留三郎?」
「ああ。実践で鍛えてきた千秋から学ぶことがたくさんあって助かる」
「そ、そうか!それはよかった!」


沈んでいた気持ちが一気に上昇して、私も笑顔を浮かべて机に置いてあった教科書を意味もなく揃えた。
二人にそう言って貰えると嬉しい。優しい二人の言葉にちょっとだけ照れ臭くなった。


「では一体どういう意味だ?」
「んー…。くノ一って色仕掛けしてくるだろ?」
「ああ、対男相手にはそれが効果的だからな。かなり使える」
「それが苦手なんだよー…」


ハァ…。と重たい溜息をもらして机にうつ伏せになる伊作を見て、留三郎は伊作の頭を何度か叩いた。
痛い痛い。という伊作だが、起き上がろうとしない。


「伊作は純粋なんだな」
「慣れてないだけ」
「留三郎は?」
「俺も得意とは言えねぇな。千秋には悪いが、やっぱ気ぃ使ってしまう…」


「色仕掛け」で相手が倒せるならそれに越したことはない。これも忍術の一つだ。
小細工なく、全力で戦ってほしい私からすれば少しもやもやするがな。


「でも慣れとかないとなー…。いつくノ一と戦うか解らないし…」
「ならば伊作!私が協力しよう!」
「え?」
「いつも私の鍛錬ばかり付き合わせて申し訳ない!だから私も伊作の力になろう!」


そうだ。私は女だ。
伊作が苦手というなら、伊作が慣れるように鍛錬に付き合おう!
あまり好きではないが、私の勉強にもなる!一石二鳥だ。


「え、でも千秋そういうの苦手だろう?」
「苦手だからこそ丁度いい!留三郎も一緒にどうだ?」
「ん?あー…そうだな。まあ慣れとくには越したことねェな。よし、やるか!」
「おーっ!」
「え、や、やるの?」


あまり乗る気ではない伊作の腕を引っ張り、立ち上がる。
留三郎と机を後ろにさげて、少しの広場を教室に作った。


「色仕掛け用の服に着替えてくるからちょっと待ってろ!」
「本当にやるの?」
「何度も言わせるな!それとも伊作は忍者になるつもりはないのか?」
「うーん…。そこまで言われたらなぁ…。解った、宜しく頼むよ」
「任せろ!」


教室から飛び出し、長屋へと向かう。
実家から持ってきた女性用の着物へと着替え、鏡で容姿を確認。
ただ着ているだけは意味がない。着物を崩して肩を出し、足も出す。
歩き方や、仕草も気をつけよう。あとは気持ちだけだ!


「私はくノ一。敵を倒すため忍術を使う。女に戻るわけじゃない…。……よし!」


「役」になりきって教室に戻ると、留三郎が伊作と何かを話している途中だった。


「無心でいけ。それしか突破口はねぇ」
「えー!留さんの助言役に立たなさすぎるよ!」
「うるせェ!」
「待たせたな!」


声をかけると二人揃って振り返り、またすぐに戻った。
やはり私がこんな恰好をするのはおかしいのだろうか…。女装実習以来だしな…。
それとも、くノ一らしくなっていないのか?
しかし私にはここまでが限界だ。力になれなくて申し訳ない…!


「留三郎、僕ダメだ…。千秋とは戦えない」
「やりにくい相手と戦うからこそ強くなれる。いけ、伊作」
「じゃあ先に留三郎が戦えよ!」
「無理だ!」
「なんだよそれ!」
「伊作…」
「千秋…」
「すまない。私の色仕掛けは未熟すぎたな…。しかし、精一杯頑張るから!」


そう伝えると、二人は息ぴったりに溜息をもらした。


「そ、そんなにダメか?」
「いや、そんなことねぇけど…。なんつーか……」
「千秋のその姿に見慣れないから驚いて…」
「そう…だよな。では裸で戦うか?」
「ハァア!?」
「な、何言うんだよ千秋!」
「裸で戦うのもそう驚くことではないだろう?それに、こんな恰好より裸のほうが目につかん!」
「つくよ!裸のほうが目につくから!」
「お前なァ!もっと俺らのこと考えろよ!」
「対くノ一の特訓がしたいのだろう?」
「……お前が俺らのことをよォく考えてくれたのは解ったが。解っちゃいねぇ」
「何をだ?」
「男の子の気持ちだよー…」


男の子の気持ちだと?
何だそれは。女の私には理解できないことだな!それは知りたい。知りたいぞ!
もう男にはなれないが、私はできるだけ男のようになりたい!だから教えてくれないか!?


「留さん、任せた」
「ふざけんな。それより千秋、伊作が早く鍛錬したいんだと」
「ちょっと留「そうか!ではいくぞ、伊作!」


そうだな、それは今日の夜、ゆっくり聞かせてもらおう!
伊作の戦う準備がまだできていないが、先手必勝!卑怯ではない。これも勝利の為だ。
着物を脱ぎ捨て、苦無を握って伊作に突撃すると、目の前の伊作が顔を真っ赤にさせて手で顔を隠した。


「何だ、伊作。顔を隠してしまうなんて話にならんぞ?」
「びえええん!留さぁああん!」
「何で脱ぐんだよ!?脱ぐなよ!」
「これもくノ一の戦術だ。どうだ、留三郎。見事な早脱ぎだっただろう?」
「着物着ろコノヤロオオオオ!」


声と同時に着物を投げ付けられ、身体を隠す。
本当につまらない。慣れてないとは言っていたが、ここまでダメだと鍛錬にならない…。


「伊作、もっと修行しろ、修行!」
「お前は羞恥心を持て!伊作、もう大丈夫だ」
「本当?千秋、ちゃんと着物着てる?」
「ああ」


指の隙間から私を覗き、ほっと息をつくとその場に力なくしゃがみこみ、隣に座った留三郎の肩に顔を埋める。
何を泣いているんだ?


「千秋の行動に驚いた…」
「見ていた俺も驚いた」
「伊作ー、鍛錬にならないんだが…」
「もういいよ!」
「何故だ」
「お前よ。裸見られて恥ずかしくねぇのか?」
「裸か?恥ずかしいが、これも仕事だろう?それに、「見られる」という意識を持てば割り切れる」
「…強ェな」
「当分の間、千秋を見れない…」
「それに、見られて困るような鍛え方はしていない!」
「そういう問題じゃないよ!」
「そういう問題じゃねェ!」


二人の揃った怒声が耳の奥まで届き、キーンと耳鳴りがした。
な、何で私が怒られないといけない。今のは伊作がダメだろう?


「留三郎ー!バレーしようぜ!あ、伊作と千秋もいるのか。どうだ一緒に」


不穏な空気が流れる中、その空気を割って入ってきたのはろ組の小平太。
明るい声と雰囲気に教室も明るくなって、伊作と留三郎があからさまにホッと胸をなでおろした。


「お、千秋!どうしたんだその恰好。女に戻るのか?」


私の恰好を見た小平太は声色をあげて、ドシドシと教室に入ってきた。
目の前にしゃがみこみ、ジロジロと身体を見てきたので、私は着物をギュッと握りしめた。
小平太は好きだが、女だと話してからは少し苦手だ…。
別に女扱いしてくるわけでもないし、組み手にも本気で付き合ってくれる。だけど…、何かがおかしい。


「いや、伊作と留三郎と鍛錬をしていた」
「何のだ?」
「色仕掛け」


小平太が理解できるように留三郎と伊作が先ほどのことを教える。
その間に私は着物に腕を通し、ちゃんと着る。…ふむ、やはり女物の着物は動きにくくて苦手だ。


「何だそれ!面白そうだな!私もやりたい!」
「小平太も苦手なのか?」
「いや、好きだ!」
「好きだ?」


目をキラキラさせ、顔を至近距離まで寄せる小平太。やはり苦手だ…。
留三郎に首根っこを掴まれた小平太は私から離れ、文句を言っていたが、私が再度話しかけるとまた目を輝かせた。


「だって、おなごの裸を見れるのだぞ!?」
「………」
「ちょ、ちょっと小平太。さすがに直球すぎるよ…!」
「さすが小平太だな。千秋の奴、固まってら」


……苦手な理由が解った。こいつは女の敵だ!
そう言えばこいつ、隠すことなく春画を真昼間から読んでいたな。そうか、そういう目的か…!


「断る!貴様とはこういったことで戦わん!」
「何故だ。千秋の鍛錬にもなるぞ!」
「ならば裸で戦う必要はないな!」
「ダメだ!私が見たい!」
「春画でも見てろ!」
「生がいい!」
「うわ、小平太ド直球」
「ちょっと羨ましいと思った」
「ふ、ふざけるな!不埒な気持ちで忍者をするなど…!」
「見られて困る身体じゃないのだろう?じゃあ見せろ!」
「みせっ…!?」
「でた、小平太の暴君」
「最低だな。あそこまではいきたくねぇわ」
「伊作と留三郎にだけ見せて、私に見せないとは卑怯だ!」
「文次郎にも仙蔵にも長次にも見せておらぬ!いい加減にしろ!」


殺意をこめて睨みつけてやると、小平太も目を細めて身体中から殺意を飛ばし始めた。こいつ…本気か!
身構え、手にまるめた教科書を装備する。
チラッと視線を伊作に向けてたくさんの武器を投げてもらおうとした瞬間、手裏剣が飛んできたので飛んで避けるも、着物を少し破ってしまった。


「ならば破くまで…」
「貴様…、本気だな?よかろう!私も忍者なら貴様からの攻撃、全て避けてやる!ついでに自分の貞操も守る!」
「どっちかって言うと後者のほうが大切じゃない?」
「小平太、格好いい顔して格好いい台詞言ってっけど、中身は最低だからな」
「「いざ、勝負!」」
「「ダメだこのバカ二人」」


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