夢/とある子供の我儘 | ナノ

一歩進んでの段


女だと明かしてからも変わらないと思っていたが、やはり変わった。
小平太以外の六年生が私を女として見てくる。
それに対して怒ったり、拗ねたりなどしない。やはり当然の反応なんだ。
受け入れてくれただけでも十分嬉しいことなのだから、これぐらいは我慢しようと思っていたが、ここ最近ろくに会話もしていない。
寂しい感情だけが私にのしかかる。
伊作の笑顔が見たい。留三郎と笑いあいたい。長次と本の話がしたい。仙蔵に呆れられたい。文次郎と鍛錬について語り合いたい。


「隙ありだ、千秋!」
「ぐッ…!」
「勝負あったな!また私の勝ちだ!」
「っはぁ…。また負けてしまった…」


そんな沈んだ気持ちで小平太と鍛錬しているせいか、ここ最近まるで勝てない。
この間まで紙一重で勝てたりしていたのだが、最近はまったくだ。
倒れ込んでいる私に手を差し伸べてきたので、手を握ると勢いよく起こされる。
ついた砂や埃を手で軽く払い、近くの廊下に腰を落とす。
小平太に殴られ、蹴られたところは青くなっていた。


「最近の千秋は隙だらけだな。あまり楽しくないぞ?」
「すまない…。考えないようにしてるのだが、どうしても…」
「何を?」
「……」


小平太だけだ、私と本気で殴り合いの組み手をしてくれるのは。
前までは文次郎と留三郎もしてくれたのだが、今は断られる始末…。
長次は私との接触を少し避けるようになり、鍛錬も一緒にしてくれなくなった。
仙蔵と留三郎は言い訳をつけては私から離れていく。
伊作に至っては私と顔を合わせるたび戸惑っている。女として見ているのが手にとるように解る…。
膝を抱え、小平太に弱音を吐くと彼は後ろに手をついて空を見上げた。


「皆私とは違うからなー」
「小平太と?」
「私は千秋が女だろうと気にしていない。寧ろ女なのに私とやりあえるなんて凄いことだ!」
「…喜んでいいのか迷うな」
「だけど皆は違う。解っているけど前みたいには戻れないんだ。特に留三郎と文次郎は繊細だからな!」
「仙蔵や長次じゃなくか?」


すると彼は一瞬目をまんまるにさせ、すぐに笑い出した。何かおかしなことでも言っただろうか?


「仙蔵と長次はゆっくりだけど千秋を受け入れ始めてるぞ!伊作は千秋に慣れようとしている!」
「……そうは見えなかったがな」
「ああ見えてあの三人は結構神経が図太いからな!」
「小平太に言われてもなぁ…」
「だが留三郎と文次郎は違う。ずっと戸惑ってるままだ」
「……だな…」


解っているが、改めて他の人に言われると悲しくなった。
泣きはしないが、苦笑して膝に顔を埋めると背中を強く叩かれる。


「何だ、千秋は結構女々しいんだな!」
「違う。彼らに申し訳ないと思ってるんだ」
「どうして?」
「どうしてって…。男だと偽っていたからに決まっているだろう?」
「それに関しては千秋がちゃんと謝った。そのうえで私たちは千秋を受け入れたんだ。なのにいつまでもその場に留まっているのはあの二人だ。千秋が気にする必要はない」
「小平太……」


真面目な顔でそう言ったあと、ニィっと笑って自分の頭に手を回す。
笑うと犬歯が見え、好戦的な彼に似合ってると思ってしまった。


「なぁに、すぐ元に戻るさ!なんとかなる!細かいことは気にするな!」
「そうか…、ありがとう小平太」


大きな手で頭を撫でられ、思わず頬が緩んで笑うと、ピタリと止まった。
小平太を見上げると、彼は眉間にシワを寄せて私を見ている。
ど、どうかしたんだろうか。彼の真剣な顔なんて初めて見たぞ。


「千秋、お前やっぱりおなごなんだな…」
「は?」
「いや、男らしいからつい忘れてしまう。今の笑顔、可愛かったぞ!」
「っそうやって女扱いされるのは好かん!」


乗っていた手を払い、部屋へと戻る。
後ろでは小平太が謝っていたが、私は無視をし続けた。
せっかく励ましてもらったのに、最後があんなんだと締まりが悪い!


「……なるべく気にせず、前みたいに話しかけていこう」


きっと元に戻れる。
彼らの近くにいるのはとても居心地がいいから、早く前のように戻りたいな。


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