女装実習の段 その五 「―――見ての通り…。私は女だ」 忍術学園に帰った私たちは先に着替えをすませ、今回の実習結果を先生方から教えてもらった。 全員合格で、普段だったら声を揃えて喜ぶところなのだが、今回はそうもいかなかった。 先生方が教室から出て行き、残された私たち。 話すのが遅くなればなるほど気まずくなると思い、すぐに口を開き、真実を述べる。 色々考えたが、やはり言い訳できない状況。素直に真実を話すが、全員何も喋ろうとしない。 「嘘をついていたのと、黙っていたのと、驚かせてしまったのと…全てにおいて申し訳ないと思っている…。言い訳はせんからいくらでも罵倒してくれ」 嘘つきと言われれば素直にそれを認め、謝罪しよう。 辞めろというなら喜んで退学届けを出そう。 友達として見れなくなったのならそれでもいいだろう。黙っていたのは私なのだから。 頭を下げ、罵倒される覚悟を決めて口元を引き締める。 しかし、返ってきた言葉は自分が想像しているものとは違った。 「い、いや…。なんつーか、女だって解った瞬間、妙にしっくりして怒るに怒れないっていうか…、なぁ伊作?」 「うん……」 「そもそも私はそんな細かいことを気にしていないぞ?」 「…まあ、理由は知りたいがな」 留三郎の言葉に伊作が頷き、小平太がいつもと変わらない声で首を傾げた。 驚いて顔をあげると、文次郎が視線を外したまま言ってきたので、一度俯いて事情を話した。 「もう言い訳になってしまうが…。本当は忍たまに編入する前に、くノ一教室に編入したんだ。しかし、くノ一の授業がな…あまり私には合わなくて…。体術の授業も少なければ、実践も少ない。私はくノ一になりたいわけではない。忍者になりたいのだ。それに誰も組手の相手をしてくれなかった…。そこで熱の差を感じ、学園長に無理を言ってここに編入してきたんだ。バレたら即退学の条件でな。先生たちは私が女だということを知っている。以上だ」 「………千秋は鍛錬好きだからな…」 「その…、女の子らしい会話にもついていけなくて…。皆と忍術の話をしているほうが楽しい」 長次の言う通り、私は鍛錬が好きだ。 身体を動かし、汗を流し、ケガを負いながらも己を鍛えることが大好きだ。 だから、くのたま教室にいる子たちとは話しがなかなか合わなかった。向こうが悪いんじゃない。彼女たちは普通だし、責めるつもりなんてない。 「私は別に千秋が女だろうが構わんぞ。細かいことは気にするな!な!?」 小平太が豪快に笑って隣に座っていた文次郎に同意を求めると、彼は何かと葛藤するような表情で「まぁ…」と頭をかきだす。 「多少抵抗があるが、確かに千秋はくノ一教室には向いてないかもな」 「珍しいな、文次郎。頭の固いお前がそんなことを言うなんて」 「短くても千秋とは何度も拳を重ねたし、こいつが本気で忍者を目指しているのは解っている。そのために退学承知で忍たまに編入したのは相当の覚悟があってのことだろう?それを否定できるほど俺も酷くねぇよ」 「気持ち悪いが俺も文次郎と同じ意見だ。女とは言え、お前との組手楽しいしな!」 「んー…まあ多々「女の子っぽいなー」って思ってたしね。素直に話してくれたおかげでスッキリしたよ」 「しかし千秋が女だということは黙っていよう。退学になってしまうからな」 「…そうだな」 文次郎、留三郎、伊作、仙蔵、長次…。 誰もが私を責めることなく受け入れてくれた。 若干戸惑いを残しているものの、彼らは笑っている。 こんなことでいいのだろうか…。だってこれは私の我儘だ。何故こんなにもあっさり受け入れてくれるんだ。 素直に皆の優しさに甘えたいが、あっさりすぎて私が受け入れられない。 「私の我儘に付き合ってくれるのか…!?こんなあっさり受け入れてくれるのか!?」 「千秋、細かいことは気にするな!」 小平太の言葉に、思わず泣き出してしまいそうになったが、グッと堪えて誠心誠意の心をこめて「ありがとう」とお礼を言った。 受け入れてくれるというなら、素直にそれに甘えよう!本当にありがとう! 「それに胸も見たしな!お互い様だ!なっ!?」 「何でそこで俺に振るんだよ…!」 「だっておなごの胸だぞ?文次郎は嬉しくないのか?」 「だからっ…!」 「何だ文次郎、胸が見たいのか?ほら」 「バッ…!?」 「バカ千秋、止めろ!前閉めろおおおお!」 「え?」 「き、君は女の子なんだろ!?恥ずかしくないの!?」 「伊作、私は女とは言え忍者だ。裸の一つや二つ見られて恥ずかしがってどうする。それでは忍者は務まらんぞ!」 「そ、そうだけど…!」 「確かに私は女扱いされるのは嫌いだが、こういったお色気の術はどうしても必要だからな…。それに無駄な鍛え方はしていない!」 「えばって言うことじゃねぇんだよ!いいか、次あんなことしたら退学にしてやるっ…!」 「そ、それは困る!すまん、留三郎!」 「千秋、もっかいもっかい!」 「…小平太は黙っていろっ…!」 「……あの性格のせいで女だということを忘れてしまいそうだな」 「…」 「しかしお前には刺激が強すぎたようだな、文次郎」 「うるせぇ…。何でお前は平気なんだよ」 「これでも十分驚いている方だ」 「顔に出せ、顔に」 今日から新たに彼らと肩を並べた気がした。 ( TOPへ △ | ▽ ) |