夢/とある子供の我儘 | ナノ

女装実習の段 その二


「伊作は可愛いな!」
「う、うん、ありがとう」


文次郎たちを待っている間、私は目の前に座っている伊作を眺めていた。
うん、やはり女装した伊作は可愛い!
仙蔵と留三郎は綺麗だから近寄りがたいが、伊作は可愛らしくて近寄りやすい。それに見ていて何だか楽しい!
何度も何度も褒めていると次第に赤くなる伊作。
照れる伊作は本物の女にしか見えない。実は女なのでは?と疑ってしまうほど可愛い。


「もはや女にしか見えんな…」
「あ、あのね千秋…」
「ん?どうかしたか?」
「褒めてくれるのは嬉しいんだけど、あんまり顔近づけないでくれる?」


いつの間にか顔を近づけていた私の両肩を掴んで、引き離す。
見るのに夢中で、近づきすぎていたな…。


「あ、すまん。あまりの可愛さに見惚れていた」
「そんなに褒められると照れちゃうよ」


そう言って苦笑しながら頬をかく伊作は妙に女の子らしく、思わず仙蔵に振り返って「今の伊作、すっごく女の子らしかった!」と報告すると、仙蔵は鼻で笑い「男のヘタレは女々しくもあるからな」と答えてくれた。
普段伊作はドジだ。よく穴に落っこちてる。
それを助けるのは留三郎と私。他にも転んでご飯をこぼしたりする。
男として見れば情けないが、女として見ればドジっ子で可愛いのではないかと思う…。
だけど伊作は怒ったような声で「ちょっと!」と仙蔵に抗議した。


「確かに褒められるのが恥ずかしかったのもあるけど、千秋の顔が近いことに照れてたんだってば」
「そんなに近かったか?」
「う、うん。凄く女の子っぽくてちょっと……」
「ふむ、褒め言葉として受け取っておこう」


今は女装の時間だからな。女と言われてもおかしいことではない。
だからと言って女扱いはされたくない。うん、褒められのはやっぱり気持ち悪いし、早く着替えたい。


「千秋は可愛い系だな。俺らに比べたら身長が低いのもあるけどよ」
「留三郎は綺麗系だな!仙蔵と一緒だ」
「私と留三郎を一緒にするでない。私のほうが綺麗だ」
「うっせぇよ。お前に女装で勝つつもりねぇし」
「あ、文次郎たちも来たぞ!」


今まで笑って聞いていた留三郎も会話に参加すると、忍たま長屋のほうから文次郎、長次、小平太がやって来た。
三人とも身体が大きいから難儀したようで、あまりいい表情を浮かべてはいない。
留三郎が「気持ち悪ぃ…」と言えば、文次郎が怒って「貴様も俺と変わらんではないか!」とお約束な展開を繰り広げる。


「俺のほうがまだマシだろうが!」
「いいや、俺のほうがマシだな!」
「………」


女装しているのに胸倉を掴み合う二人の横で、小平太が私をジッと見つめていた。
不思議に思って声をかけると、小平太はハッとした顔になってすぐに笑う。


「おおっ、千秋か!本物の女みたいだな!なかなか可愛いぞ!」
「小平太も可愛い系だな。胸もでかい!」
「詰め込んできた。ほら、触ってみろ」
「おー…」


小平太も伊作ほどではないが可愛かった!(後ろで仙蔵は「は!?」と驚いていたが)
私の両手を掴んで、たくさん詰め込んだ胸を触らせてもらい、柔らかい感触に私も揉み続ける。これは癖になるな…。
だけど伊作によって止められた。若干彼の顔が赤いが、何故だ?
小平太は手から私を離し、今度は伊作の手を掴んで、胸を触らせる。
真っ赤になって固まる伊作は可愛いなぁ…。本当に男なのか?


「長次も仙蔵と同じく綺麗系だな!なんだか不思議な雰囲気で素敵だ!」
「……千秋は、女だな」
「うう、苦手だがこれは女装の授業だからな。褒め言葉として受け取っておく。だが女扱いは止めろ」
「なかなか可愛いぞ」
「お、おお…。長次に褒められるとなんだか照れてしまうな。世辞を言う性格ではないからだろうか」


長次は真面目だ。嘘をついたり、軽い世辞を言ったりする性格ではない。
だから素直にその言葉を受け取り、照れてしまった。
いやいや、照れてはダメだ。私は今男なんだぞ!いくら女装しているからとは言え、喜んでしまってはダメだ!


「ほう、今の千秋はどこからどう見ても町娘だな」
「文次郎も綺麗系だな!黙っていればなかなかいいと思うぞ!」
「それはお前もだよ。女装してんのにそんな口調はおかしいだろうが」
「文次郎、貴様もだ」


留三郎との口論を終え、衣服が乱れた文次郎も私を褒めてくれた。
隈を綺麗に隠し、(今は乱れているが)衣服をきちんと整えているから留三郎が言うような酷さはない。
ただ口調が残念だったので指摘すると、「お前もだ」と逆に指摘されてしまった…。
そ、そうか…そうだな、気をつけねば…。
仙蔵に突っ込みを入れられた文次郎は押し黙り、衣類を整え始める。


「い、伊作…」
「どうしたの千秋?」
「口調も気を付けたほうがいいよな?」
「そうだね、せっかく可愛くなってるのにいつもの口調だとちょっとおかしいかな?」


だよな…。だが今まで女として生活したことがない…。
女だと舐められないようにこんな口調で喋ってきたのだが、ここへきて足枷になるとはっ…。
仕方ない。ここは伊作に素直に聞こう!


「伊作、女らしい喋り方とはどんなだ!?」
「そこからなの!?」
「え?」
「あ、いや、何でもない。うーん、僕も男だからよく解らないから僕の好みで答えていい?」
「それはいいな!宜しく頼む!」


ゴホン。と咳払いをして、私の顔をジッを見る。
何を言われるのか大人しく待っているのだが、一向に喋る気配がない。


「あはは、言葉にするのって難しいね。えーっと、とりあえず柔らかい口調がいいかな?」
「柔らかい口調?」
「人に威圧感を与えないような口調のこと」
「ほうほう…」
「あと敬語と謙虚な姿勢を持っていれば町娘っぽくなるかな?それと、大事なのは笑顔!」
「え、笑顔?」
「女の子は愛嬌だよ。ニッコリと笑うより、微笑む感じがいい!」
「解った…、意識的にやってみる!」


人に威圧感を与えない、敬語、謙虚な姿勢、笑顔…。
頭の中で与えられた知識を持って想像する。よし、なんとかなりそうだ!


「伊作、何だか私できそうな気がする!」
「そう?じゃあちょっと試してみてよ」
「ああ!……何を話せばいいのだ?」
「じゃあ僕のことどう思ってるか教えてくれる?」
「解った!」


私の中の伊作は六年生の中でとても優しい人だ。
知識だって豊富だし、細かい作業が得意。後輩に優しいし、指導も丁寧だ。
でも自分のことになると大雑把。自分より人を優先してしまうのは、忍者に向いてないと思う。だけど私はそんな伊作が大好きだ。


「私、伊作くんのことをお慕いしております。いつもあなたの優しい笑顔に、私の心は休まるのです。できればずっとあなたの傍にいたい…と言っては失礼でしょうか?」


それらをまとめ、女らしい口調で言うと、伊作は時間を置いて顔を真っ赤に染め上げた。
私もつられて顔を赤く染めると、そろそろ出発しようと呼びに来てくれた留三郎におかしな目を向けられてしまった。
このことはお互いの胸の中にしまっておこう…。
伊作と無言で頷き、実習を行う町へと向かった。


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