過保護が増す 「終わったー!八左ヱ門、アイスっ。アイス食べに行こう!」 「解ったからちょっとは落ち着けよ…」 名前が八左ヱ門の机に近づき、腕を掴んで誘うとあからさまに面倒な顔をする。 だが、机を片付ける手はテキパキとしており、名前を待たせまいと急ぐ。 帰る支度も終わり、椅子から立ち上がると名前が腕を絡めてくるので、「離せよ!」と反射的に拒絶した。 「いつものお店でいいよね?」 「何でお前はいちいちくっついてくるんだよ。歩きにくいだろ!」 「だって八左ヱ門は頼っていいんでしょ?」 「だからって腕を絡めるのは違うっ。恋人と勘違いされるだろ!」 「え、私はいいよ?八左ヱ門好きだもん」 「お、お前がいいなら俺もいいよ!」 ツンデレというか、照れくさいのを口の悪さで誤魔化しているようだった。 本当は名前がくっついてくれて嬉しいし、恋人と勘違いされるのも嬉しい。 頼ってると言われたら「もっと」と言いたくなるのも実は我慢している。 妹の名前が可愛くて可愛くて…。でも周囲の目や、恥ずかしさがあるから酷いことばかり言ってしまう。 いつか名前に嫌われるんじゃないかと思うと、「明日から優しくしよう」と決意する。が、大体同じことを繰り返している。 だが、名前はそんな不器用な八左ヱ門をちゃんと理解している。しているので離れようとしない。 八左ヱ門がどうなろうが、名前にとっては頼りになる可愛い兄なのだ。 「アイス美味しいねぇ」 「俺、シャーベットのほうが好き」 「八左ヱ門のも美味しそう。一口頂戴!くれるって言ったよね」 「しょうがねぇなぁ…。ほら、あーん」 「ありがとー」 アイス屋さんでそれぞれ好みのアイスを購入し、適当なベンチに座って仲良く食べる。 座っている距離は相変わらず近く、二人を双子と知らない人は「仲のいいカップル」だと思うだろう。 八左ヱ門と名前の顔が似てないから双子だと気付く人もいない。 これまでの経緯から、「あーん」なんてできないと思っていたらとんでもない。 名前は小さいころから八左ヱ門のものをねだるので、この行為には慣れている。 「美味しいね」 「あんまり食べ過ぎんなよ」 「八左ヱ門のほうがたくさん食べてるじゃん」 「俺は食べても太らねぇし、晩御飯も食えるからいいの」 「ずるいよねぇ…。やっぱり私も部活入ろうかな」 「それはダメ。お前どんくさいだろ」 「そんなことないよ!あと私、気遣い上手だしー。マネージャーにならない?って誘われたんだよ」 「はぁ!?」 「耳痛い…」 「はっ、それどういうことだよ…!いつだよ!」 「アイス飛び散るから…。ちょっと前だよ。断ったけど」 「あ、あったり前だろ!お前…………」 「八左ヱ門、顔怖いよ。そんなに怒った?」 「何部?」 「え?あー…野球部」 「解った」 「何が解ったの?」 「お前には関係ない。ほら、食べたか?ゴミ捨ててくるから貸せよ」 「わーい、ありがとう!八左ヱ門やさしー!」 アイスが入っていたカップを名前から受け取り、少し離れた場所にあったゴミ箱へと向かう。 ブツブツと何かを呟きながらゴミを捨て、名前の元に戻ろうとしたら名前の隣に知らない男が座っていた。 だから名前と外に出たくないんだ。 声をかけやすい雰囲気なのか、可愛いのか…。いや多分両方だろう。 そのせいで名前はよく声をかけられる。おばあちゃんや子供なら別に文句はない。だが、男に声をかけられるのは許されない。 「あのっ、俺の女に何か用ですか?」 「あれ、彼氏いたの?」 「いえ、八左ヱ門は「彼氏です。ほら行くぞ!」 名前を無理やり立たせて、その場から離れる。 名前の鞄も自分の鞄も手に持って、ずかずかと街を歩く。 名前が声をかけても反応することなく進み、自転車置き場に到着するとようやく手を離してくれた。 「……」 「ありがとう、八左ヱ門?」 「街に出るときは俺のこと彼氏って言っとけよ…」 「そうだったね、ごめんごめん」 「はぁ…。お前から少しでも離れるなってことだよな、うん。そうだ、名前は俺が守ってやらねぇとな…兄貴だもんな…」 「八左ヱ門?」 「よしっ、ともかく帰るぞ!腹減った!」 カゴに鞄をいれて自転車に跨る。 今でも十分過保護で妹にべったりな八左ヱ門だったが、先ほどのおかげでより強固となるのだった。 ( TOPへ △ | ▽ ) |