唯一の人 「…」 教室にいるのが辛い。 早く授業が終わってほしい。 イジメを受けているわけではないのに、友人から無視をされるようになって何か月経っただろうか…。 声をかけるとあからさまに私を避け、逃げて行く。 あんなに仲が良かった友達も、私に関わってこない。理由を知りたくてメールを送ったら、届かなかった。 怖かったけど電話もかけてみた。留守番にすらならない。 「ハチ…」 もうこんなところにいたくない。 早く放課後になって、ハチに会いたい。ハチに会いたいよ…! 寂しくなって授業中にも関わらず携帯を取り出し、ハチにメールを送る。 ハチだけは私を無視しない。ハチだけはメールの返信をくれる。電話も出てくれる。 受信ボックスも、着信受信歴も全部ハチ。 「会いたい…ハチに会いたい…」 こんな寂しい教室、耐えれないよ…。 いつまで経っても慣れず、涙が溢れてしまって、携帯画面を涙で濡らす。 会いたいとメールを送ると、すぐに「俺もです」と返信。 たったそれだけだったけど、凄く嬉しくなって笑顔に変わった。 あと少し…。あと少ししたらハチが迎えに来てくれる。 私が迎えに行くって言っても、「俺が迎えに行きたいんで」と言って拒否られた。 ちょっと寂しかったけど、絶対に迎えに来てくれるから不安じゃない。 ハチは私に嘘をつかない。 携帯を握りしめ、授業が終わるのを待っていると、チャイムが鳴り響いた。 教科書をすぐに鞄に詰め込み、ハチが来るのを待つ。 「あっ…」 慌ててしまったせいで、消しゴムが落ちてしまった。 拾おうかとしたら仲が良かった友達が拾ってくれて、ドキリと心臓が止まる。 話しかけてくれるの?それともとうとうイジメられるの? ドキドキと早まる心臓で彼女がどうするか待っていると、冷や汗を流しながら私に近づいて消しゴムを机に置いてくれた。 「…ありがとう」 お礼を全部聞く前にスッと離れ、教室から出ていく。 無視されるの…辛いな…。 涙が浮かんで、視界が揺らぎながら拾ってくれた消しゴムに手を伸ばすと、消しゴムの下に小さな紙が置かれていた。 今さっきはなかった…。だからこれはあの子が…? 消しゴムを筆箱に収めたあと、手紙を開くと、 「名前先輩、遅くなりました」 「っわ!は、ハチ…」 「あれ、どうしたんすかそれ?」 「あ…えっと、なんか手紙貰って…」 「え?…ちょっと俺が見ていいですか?もしかしたら酷い内容かもしれないし…」 「……あ………うん…見てもらっていい…?」 ハチが迎えに来てくれて、中身を見ることはできなかった。 でも見なくてよかった。 ハチの言う通り、「死ね」とか酷いことが書かれているかもしれないもんね…。 ハチは私がクラスで浮いていることを知っている。だからこうやって迎えに来てくれる。 時間が許す限り私と一緒にいてくれるハチは彼氏以上によくしてくれる。 今もこうやって甘えてしまって…。はぁ、ハチにはほんとに甘えてばかりだ。 「名前先輩、帰りましょうか!」 「あっ…その、紙は…」 「見ないほうがいいっすよ!それより今日はどこ寄って帰ります?」 「……。クレープ食べたい」 「了解!勘右衛門から聞いたすっげぇうまいクレープ屋さんに行きましょうか!」 渡した紙は握りしめ、ハチの制服ポケットに捨てられた。 そうか…、やっぱり私皆に嫌われてるんだ…。 どんなことを書かれていたか気になるけど、見たらもう学校に来れない…。 忘れるようにして、ハチに笑って答えると明るい笑顔で手をとって連れ出された。 ハチがこうやって笑ってくれるから私は学校に来れるんだ。泣かずにすむんだ。 「ハチ…」 「なんすかー?」 「いつもありがとうね」 「今更なに言ってんすか!俺は名前先輩が大好きなんです!」 「うん、うんっ…」 「大丈夫、俺だけは名前先輩の傍にずっといますからね!」 ごめんね、ありがとう。大好きだよ、ハチ。 ( TOPへ △ | ▽ ) |