ときめき竹谷くん! | ナノ

おとまりにきました


「さて、はっちゃん。なにしようか」
「はいはい!おれ、ぶきもってきた!」
「武器?あ、私と戦うって?」
「ちがうっ。名前おねえちゃんはおひめさまなの!おれがまもるの!」


ませてやがる。
と、普通思うところだが、私はひたすら胸を鳴らしていた。
ほんっと可愛い。意味が解らないほど可愛い。
舎弟のクマを適当に置いて、犬のバックから折り紙で作られた手裏剣を取り出した。


「名前ひめ、あやしいやつがいます!おれがみてくるので、そこでおまちを!」
「ふふっ。では八左ヱ門に全てをお任せします」
「ぎょい!」


朝から元気なはっちゃんに付き合ってあげると、楽しそうに遊んでくれる。
私は何も動かず、言葉だけで付き合ってあげることしかできなかったけど、はっちゃんは満足そうだ。
お昼は一緒にパスタを食べて、はっちゃんお勧めだと言うヒーローものの映画を見る。
お母さんから聞いた話によると、はっちゃんが全部企画をしたらしい。
私に見せたいものを見せ、私が楽しんでくれるような遊びを考えた、と。
どんだけいい子なのこの子は…!きっと小学校にあがったら人気者になるんだろうね。そしたら私のことなんて忘れるんだろう。
それは……ちょっと寂しいね。いつまでも「お姉ちゃん」って呼んでほしいなぁ。


「名前おねえちゃん、たのしくない?」
「え?」


膝の上に乗せてテレビを見ていると、悲しそうな声で聞いてきた。
考えごとをしていただけだよと言うと、「ほんとに?」と上目使い。
ちょっとだけ泣きそうだったので抱きしめて「ほんと」と答えてあげる。ついでに身体をくすぐってあげると暴れはじめた。
適度に遊んであげると、息を切らせ、涙を流しながら私を睨んでくる。


「名前おねえちゃんのえっち…」
「そういう言葉、どこで覚えてくるんだろうね。それよりレッドの人格好いいね」


あんまり悪戯すると怒られるので話題をテレビに逸らすと、床に寝転んだままテレビを見上げた。
テレビには赤い服をまとったヒーローが活躍している。
最近のヒーローものはお母さんたちにも人気らしい。うん、確かにイケメンばかりだ。


「熱血漢だけど、いい人」
「……」
「あっ!な、なんで消したの?」
「ダメ!みちゃダメ!」
「なんで?」
「うー…!ダメたったらダメなの!名前おねえちゃんはおれのなの!」


叫んだあと勢いよく抱きついてきたので受け止めると、服を強く握ってくる。
あれか、嫉妬か。ふむ、はっちゃんはそろそろ私を殺す気らしい。


「あんた、そんな子供をたらしこんでるのかい」
「うるさいなぁ…」


それを見ていたお母さんがお茶をすすりながら笑ってきたので、照れながら答えた。
嬉しいけど、ストレートな感情はちょっと恥ずかしいよ、はっちゃん。
上映会はそれで終わり、ちょっと早めの三時のおやつを食べてからお昼寝をした。


「お母さん、天使がいるよ…」
「やっぱり子供は可愛いねぇ」


持ってきたクマのぬいぐるみはこう使うのか…。
どうやらクマのぬいぐるみがないと寝れないらしい。
ぎゅっと抱きしめたまますやすやと寝息を立てるはっちゃんは本当の天使だ。これで何回天使だと呟いたか…。
膝小僧に絆創膏が張ってたり、たまに顔にも傷作ってる元気っこなのに、ぬいぐるみがないと寝れないとか…。
気持ちよさそうに寝ているはっちゃんを見ていると、私も眠くなったので隣に寝転んで久しぶりに昼寝をした。


「名前おねえちゃんっ、かいものいくんだって!」
「ふえ…?」


身体を揺さぶられ、目を覚ますとはっちゃん。
寝癖がついていたけど、寝顔を見られたことに恥ずかしくなって慌てて身体を起こした。
はっちゃんは私を起こして満足そうな顔をしたあと、犬のリュックを背負い、クマのぬいぐるみをソファに置いて「ちゃんとるすばんしてろよ」と命令。
そのあと私の手をとって「はやくー」と引っ張る。


「じゃあ、夕飯の買い物頼むよ」
「あ……そうか。はっちゃんと買い物に行くのか…」
「まだ寝ぼけてんの?事故らないように気を付けてよ?」
「はーい。はっちゃん、ちょっと服とってくるから待ってて」
「うん!」


部屋に行って服を羽織ったあと、玄関に向かうと準備万端なはっちゃんが待っててくれた。
手を繋いで一緒に「行ってきます」をして家を出る。
夕飯の買い物と言っても、簡単なもの。本当はもう揃っている。
ただ、家にずっといるのも暇だと言うことで、はっちゃんのお母さんに許可を貰って買い物へとでかけた。


「はっちゃん、お菓子一つだけなら買ってあげる」
「ほんと!?じゃあおれ、これがほしい!」
「…動物クッキー?」
「すっげぇうまい!」


どこまで動物好きなんだ、この子は…。
他にも、虫や恐竜の食玩をチラチラと物欲しそうな顔で見ていた。やっぱりブレないね。
簡単な材料とはっちゃんのお菓子を買って帰宅すると、満足そうな顔で「おれもてつだった」とお母さんに報告していた。


「あら、はっちゃんは名前より偉いね」
「ちょっと」
「だって名前おねえちゃんをまもるのはおれなんだもん!」
「うん、偉い偉い。じゃあお風呂入ってきてくれる?」
「はーい!名前おねえちゃん、はやくー!」


ちょっと会話がずれていたけど、はっちゃんが言いたいのはそういうことだろう。
はっちゃんに連れて行かれ、お風呂に向かうと恥ずかしがることなく服を脱ぎ始めて少し焦る。
いや、相手は園児ですけど…。脱ぎっぷりが男前すぎて……。


「私は自分の服持ってくるから先に入っててね」
「あ、そうだ!しゃてーもってくるのわすれてた!」
「クマのぬいぐるみは一緒に入れないよ?」
「せきにんもってめんどうみないと、ダメだっていわれた!」
「えっと…。それは怒られないと思うけど…」
「めんどーみないとダメなの!」
「あ!」


ふるちんでリビングへと走りだし、ソファに置いていたクマのぬいぐるみを持ってくる。
ぬいぐるみをお風呂になんていれられないよ!ぬいぐるみを洗うとしたら風呂じゃなく洗濯機だ!
だけどあの固い決意をどう説得する…。悩んでいると、お母さんがはっちゃんに話しかけていた。


「クマさんは先にお風呂入れちゃったの。勝手にごめんね」
「え…でも…」
「それに、クマさんには夕飯を作るおばちゃんを守るという使命があるの。だから、置いておいてくれる?」
「おばちゃんだれかにねらわれてんの?」
「そう。だからクマさんがいたら助かるんだけどなー」
「…わかった!しゃてーはここにいるんだぞ!おばちゃんをしっかりまもれ!」


おおっ、さすが。
ソファにクマを戻して追いかけてきた私に駆け寄って、先にお風呂へと向かった。
「さすがお母さん」と言うと親指を立ててきたので笑って部屋へ向かう。
服をとって、お風呂に向かうと一人で楽しそうに遊んでいる声が聞こえてきた。


「はっちゃん、入って大丈夫?」
「いいよー!」


タオルを巻くかどうか悩んだけど、幼稚園児相手に巻くなんておかしいよね…。
ちょっと恥ずかしかったけどそのまま入ると、家から持ってきたであろう水鉄砲で遊んでいた。本当に用意周到だ…。


「これ名前おねえちゃんのな!」
「ありがとう。これではっちゃん倒したらいいの?」
「ちがうよ、これおいてどっちがたくさんたおせるかしょーぶすんの」


というわけで湯船に浸かったまま射的が始まった。
何度か遊んだあと、頭と身体を洗ってあげてから、最後にゆっくり湯船に浸かる。


「……」
「どうしたの?」
「名前おねえちゃんのおっぱい、おかあさんとちがう」
「…」


幼稚園児だから言える言葉ですね。反応に困るけど。
いや、困るようなことじゃないよ。適当に答えておけばいいんだ。


「そう?」
「うん。名前おねえちゃんのほうがやわらかいし、おっきい!」


純粋無垢な笑顔で胸を触れ、揉まれた…。
恥ずかしいし、反応に困るし、くすぐったい。
この子は将来有望になるでぇ。


「ありがとう。でも、女の子の胸に勝手に触ったらダメだよ」
「なんで?」
「うーん、痛いから?」
「い、いたいの!?ごめんなさい!」
「そこまでじゃないけど…。まぁいいや、そろそろあがろうか」


一緒にあがって、身体を拭いてあげていると、「まだ痛い?」と聞いてあげるので笑って答えてあげる。
まさか…彼氏に揉まれる前に子供に揉まれるとは…。彼氏なんていないけど。
ほかほかになった状態でリビングに向かうと夕食はできており、一緒に食べる。
テレビでははっちゃんが見たいと言ったアニメが流れていた。アニメなんて久しぶりに見たなぁ…。
夜はお父さんに玩具にされ、お母さんの肩を叩いてあげるはっちゃん。
家族も楽しそうだ…。勿論私も楽しい。


「お兄ちゃんがいなくてよかった…」
「名前おねえちゃん、おれねむい…」
「じゃあ一緒に寝ようか」
「うん」


クマのぬいぐるみを持ったはっちゃんがパジャマを引っ張ってきた。
しぱしぱと瞬いて、足に抱きついてきたはっちゃんを抱っこして部屋へと連れて行く。
私のベットに寝かせてあげると、すぐに寝落ちしそうになった。
電気を消して、私もベットに潜り込み、風邪をひかないように布団をしっかりかけてあげる。


「今日はありがとうね。ゆっくりお休み」
「名前おねえちゃん…たのしかった…?」
「うん、すっごく楽しかった」
「じゃあおれも……」


親指をくわえて、私に寄ってくる。
今日だけで色々な顔が見れたなぁ…。すっごく可愛かった!
温かい体温のおかげで私もすぐに眠気に襲われ、はっちゃんを抱きしめたまま夢の中に旅立った。


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