ときめき竹谷くん! | ナノ

大好きな子


「名前!」
「…」


下校時間が近づくと身体が震える。
金縛りにあったかのように身体は固まり、外に出たくないと手が震えた。
でも早く校門に向かわないと、あとが怖い。凄く怖い。
不謹慎だけど、階段から落ちて、気絶して、救急車で運ばれたいなんて思ってしまった。
行きたくない。でも行かないと怖い。
ゆっくりだけど確実に校門に足を運び、持っている鞄に力を込める。
到着したくないのに校門に到着すると、車が停まっていた。誰かは知っている…。


「今日はちょっと遅かったな。何かあった?」
「う、ううん…」


車にすがっていたのは、昔近所に住んでた竹谷お兄ちゃん。今は竹谷先輩と呼んでいる。
昔と変わりない眩しい笑顔。なのにその笑顔が怖くてたまらない。身体の震えが止まらない…。
気遣って声をかけてくれるのも怖い。その言葉の裏を読んでしまって、なんて答えていいか解らない…!
立ち尽くしていると、竹谷先輩が近づいて来て目線を合わせるように屈んだ。


「少し……顔色が悪いように見えるぞ…」
「違うんです…。何でもありません…」
「―――学校で何かあったか?」


優しかった声が一瞬にして低くなり、空気が変わった。
慌てて顔をあげると目が据わっている竹谷先輩。


「違うんです竹谷先輩!わ、私ちょっと…お腹空いて……!」
「ほんとか?」
「本当です!だ、だから……だからっ早く帰りましょう…」


屈むのを止め、学校を睨む竹谷先輩の服を掴んで止める。
怖くて先輩に触れたくない。だけど…、止めないと何をするか解らない。
涙が溢れそうになるのを堪え、適当な理由をつけると、冷たい目のまま私を見下ろして首を傾げる。
私たちの横をたくさんの生徒たちが通り過ぎ、楽しそうに帰宅していた。
諦めるような声で「帰りましょう」と言うと、肩に手を回して「解った」と答えてくれる。
ホッとしたけど、それと同時に別の恐怖がまた襲ってきた。


「俺さぁ、名前に喜んで欲しいから夕食作っちゃったんだよねぇ」
「え……。竹谷先輩が…?」
「おー。そりゃあ名前みたいに上手に作れねぇけど、一緒に食おうな!」


先ほどとは打って変わって楽しそうな顔。
助手席に座り、先輩が運転席に座ったあと、車を発進させて竹谷先輩の家へと向かった。
実家とは正反対の先輩の家…。
竹谷先輩が実家を出て、一人暮らしをしながら大学へ通っていると聞いたのはつい最近のこと。
私が心配だから、高校と大学の中間にマンションを借りたって言われたとき、意味がよくわからなかった。
竹谷先輩は昔から心配性だ。本当の兄以上に過保護で、少しだけ……思い込みが強い。
それから今までずっとこれだ…。極力私と一緒にいようとするし、メールや電話も貰う。
「大丈夫だよ」と言っても「心配だから」と言われて、止めようとしてくれない。
最初は「鬱陶しいなぁ」って思っていたけど、今はもう怖いとしか思わなくなってしまった。


「明日学校休みだろ?数学の宿題出てたな。俺あんまり得意じゃねぇけど見てやろうか?」
「……何で、出たの知ってるの…」
「ん?どうした?ほら、早く入れって」


笑顔の竹谷先輩。それが余計恐怖を煽る。
先輩が住むマンションに到着して、部屋にあがる前に知るはずのないことを言われて足が止まった。
数学の宿題が出たのは(多分)私のクラスだけ。クラスメイトに聞いたとしたら説明がつくけど、前々から竹谷先輩は私が隠していることを何でも知っている。
重たい足で玄関に入ると、重たい扉が閉まって、ガチャリと鍵をかけられる音が耳に届く。


「パスタならゆでるだけだから簡単って言われてよー…。でもまだ早いよな。一緒にテレビでも見ようぜ」


早くと手招きされ、言われるがままに部屋にあがって竹谷先輩の横に座る。
それが嬉しかったようで、恥ずかしそうに笑ったあと抱きしめられた。
これだけなら私も好きだ。あんなことしたり、言ったりしなければ、私は竹谷先輩が大好きだっ…!


「なぁ…、何で泣いてんの?やっぱり学校で何かあったのか?誰かお前を傷つけたのか?どいつだ?」
「違う…違うんです、竹谷先輩」
「それと、下の名前で呼べって言ったよな。何でそのままなの?」
「だって、…だって竹谷先輩は…っ、彼氏じゃないもん…っ」


怖いはずなのに感情が溢れて言ってしまった。
どうなるか解っているはずなのに、何で言ってしまったんだろうか。
震える身体をガシッ!と掴まれ、ついさっきまで優しかった竹谷先輩が声をあげた。


「はぁ!?なに言ってんだよ名前。俺とお前は恋人同士だろ!?だからこうやって部屋にあげてるし、一緒にご飯食ってるし、ヤってんじゃん!お前、好きじゃねぇ男とヤれんの!?そんな女じゃねぇだろ!」
「ち、違う…。違う…違いますっ…」
「それに名前言ったじゃん。大きくなった俺のお嫁さんになりたいって…。私を守ってくれるお兄ちゃんと結婚したいって!」
「あれはっ…!何で……もう、やだ…っ。竹谷お兄ちゃん、がっ…怖い…よッ」
「ッ!どうして解ってくれねぇんだよ!俺はこんなにお前のこと愛してんのに!お前を傷つけたやつは昔みたいにやっつけたし、何でも知ってるから助けてあげられる…!なのに…何で!なぁ、何でだよ!」


殴られることはないけど、竹谷お兄ちゃんの怒鳴り声はとても恐ろしく、泣くことしかできない。
色々言いたいことはあるのに、パニックになって小さくなるだけ。
竹谷お兄ちゃんは私の腕を乱暴に掴んで、傍のベットに投げ捨てる。
何をされるか解っているのに、身体は硬直して動かない。鍵を閉められているから逃げることはできない。
ギシリとベットが揺らぎ、上にのしかかってきた竹谷お兄ちゃん…。
首を横に振って拒絶しても、歪んだ表情で笑うお兄ちゃんには届かなかった。


「なぁ名前…。俺わかんねぇよ……。お前が幸せになれるように頑張ってんのに、何でそんなこと言うんだ…。俺、名前が大事なんだ。すっげぇ大事なんだ…!」
「う、あ…っ。や、やだ…!」
「なのにお前に伝わらねぇんだな…。どうしたらいい?もう名前のこと殺せばいいのか?殺して、俺も死んで…そしたらお前は幸せになれるか?」
「やだ、やだやだっ…!」
「俺だってやだよ、俺名前のこと大好きだもん。愛してる。手離すことなんてできねぇ…。名前が他の男のところにいったと想像するだけで殺したくなるッ…。それに、こうやってお前を胸に閉じ込めないと不安になるんだ…」
「おに、ちゃ…っ…」
「名前、愛してる。本当にお前だけしかいらねぇ…。大丈夫、もう怒ってねぇから。だから泣かなくていいぞ?驚かせてごめん」
「ちがっ…違うっ…違う…」
「そうだよな、名前は優しいお兄ちゃんが好きだもんな。うん、今日も優しくするから安心しろって」


涙を拭ったお兄ちゃんが上半身を脱いで、頬にキスをする。
スルリと太ももに手を伸ばしてきて、私は目を強く閉じた。


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