相思相愛 ある日、名前が何だか静かだった。 朝から晩まで八左ヱ門に我儘を言ったり、甘えているのに今日はそれが一度もなかった。 勿論彼女の双子の兄であり、過保護である八左ヱ門が心配しないわけがない。 心配そうに声をかけるのに名前は答えようとせず、一人で何かを考えている。 気になって仕方ない八左ヱ門だったが、しつこくすると嫌われるので深く干渉できなかった。 「ごちそうさま」 夕食も八左ヱ門と遊ぶことなく静かに食べ終え、さっさと部屋へとあがっていく。 三杯目をおかわりしていた八左ヱ門は名前の背中を目で見送り、ゴクリと喉にご飯を通した。 「(すっげぇもやもやする…。落ち込んでるっつーか……悩んでんのか?)」 双子は不思議な力を持つと言われているが、多分そうだと思う。 名前が悲しいと思えば、八左ヱ門も悲しいと感じる。 名前が風邪を引けば、八左ヱ門の身体もしんどくなる。 今回もそれだ。気持ちが、胸がもやもやする…。 ご飯を綺麗に食べ終え、食器を片づけて自分も部屋へと向かった。 高校生になっても同じ部屋。一度別々の部屋で寝たことはあったが、二人がゆっくり眠れないということで同じ部屋に戻ったという。 部屋に入ると名前がベットに座って雑誌を見ていた。 「…」 「座っていいよ」 「おう」 八左ヱ門が言いたいことは解るんだろう。 雑誌に目を落としたまま隣をぽんぽんと叩き、無言のまま隣に腰を下ろす。 いつも近くで見ているはずなのに、何だか緊張する。 チラッと名前の横顔を見て、「今日も可愛いなぁ」と心の中だけでシスコンを発揮。(他人にはバレバレなのだが) しかもベットで男女二人。兄妹とは言え、可愛いと思っている妹とベットに座ってるだけで邪な感情が生まれてきそうだ。 「あのね、八左ヱ門」 「お、おう…」 雑誌を見ていた名前はページをめくる手を止め、目を落としたまま静かな口調で八左ヱ門を呼んだ。 「私ね、告白されちゃった」 久しぶりに見た名前の笑顔に二重の意味でドキリとした。 笑顔がとても可愛かった。抱きしめてやりたい。 告白されたと聞いてそいつを殴りたくなった。取られたくないとも思った。 八左ヱ門の気持ちなどいざ知らず、名前は八左ヱ門に寄り掛かってポツリポツリと先日のことを話した。 「幸せそうに…笑うんだな」 「うん、告白されるのはやっぱり嬉しいよ」 「大体解っていたけどな」 「やっぱり?よく解るね」 「解るさ。ずっと……ずっとお前と一緒に生きてきたんだ。俺のほうがお前を愛してる」 真剣な声と顔で告げると、名前の呼吸が止まった気がした。 名前を見ることができない。俯いて、自分の手を見たまま。 気持ち悪いと思われたか?冗談かと思われたか? どっちにしろ名前が喋ってくれないと動けなかった。言って後悔したわけではないが、反応が怖い。 「そう、私も八左ヱ門のこと愛してるよ」 「……」 「だから、告白は断ろうと思う」 「は!?いや、…だってお前…彼氏欲しいって言ってたじゃん!」 「欲しいよ。でも、八左ヱ門みたいに毎日尽くしてくれる人なんていないもん。面倒見もいいし、面白いし、細かいことに気付いてくれるし…。ちょっと不器用なところも好き。だからね、八左ヱ門に彼女ができるまで私は作らないよ」 告白されたと言ったときより明るい笑顔の名前。 名前の言葉に緊張していた身体は解れ、寄り添っていた名前をギュッと抱きしめた。 「そうか、じゃあそれまではお前を守ってやんねぇとな」 「うん!」 じゃあ安心だ。とは言えなかった。何せ八左ヱ門も、名前に彼氏ができるまで彼女を作る気はないからだ。 この考えが悪循環なのは解っているが、まだ可愛い妹を手放す気はさらさらなかったのだった。 ( TOPへ △ | ▽ ) |