奇襲と勝利 六人組の小さなマフィアは「ハイエナ」と呼ばれていた。 それは、彼らがその名の通りいいところばかりを奪っていくからだ。 先日も、中小マフィア同士の小競り合いに顔を出し、かき乱したあと両方潰したという。 いくつかのファミリーは彼らの居所を探ろうとしたが、見つからず…。 戦うのも、逃げるのも、隠れるのも完璧なハイエナに、次第に苛立ちだけが増していく。 それと同時に彼らの名前も有名になり始まり、彼らもとうとう名前や姿を隠すこと堂々と現れるようになった。 勿論、警戒をしているのはアルモニアファミリーの幹部、仙蔵たちもだ。 とは言っても彼らは他のファミリーに比べてあまり気にしていない。 いや、気にしてはいる。自分たちの邪魔をするというなら全力で潰す。そうでなければ気に掛ける相手ではないというスタンス。 そして仙蔵たちは彼らをハイエナと呼ばず、「野犬」と呼んでいた。 「小平太、あまり突撃するな」 「解ってる。だけど自分の命を守らないとな?」 「はぁ…。お前なら避けることができるだろ…。命令だ」 「ぶー…」 六匹の野犬が現れて、この街の秩序は乱れはじめてきた。 六匹に影響されてか、中小マフィアたちは盛んに動き始め、自分たちアルモニアファミリーにも喧嘩を売ってくるほど。 勿論、彼らに負けるほど弱くないので、こうやって戦ってたまに潰してはいるのだが、こうも多いと身動きがとりにくい。 彼らにだって仕事がある。商業関係の仕事だが、その邪魔をされては街の経済がうまく回らなくなってしまう。 そうなればもう一つの巨大マフィア組織に食われてしまうし、本部にも迷惑をかけてしまう。 何故、襲ってくるのか。それを聞こうと襲ってきた彼ら束縛しようとした。 だが人選を間違えてしまったと、仙蔵は片手に銃を握ったまま頭を抱え、机の陰に身をひそめる。 少し離れた場所で同じく机の陰に身をひそめている小平太は、子供のように頬を膨らましブツブツと文句をこぼす。 「でも何人かは殺っていんだろう?」 「幹部だけは残しておけよ」 「了解」 銃を片手に机の向こう側に神経を集中させる。 机の向こう…部屋の出入口付近に銃を持った敵が待ち構えている。 数は向こうのほうが明らかに多い。この部屋には自分と仙蔵しかおらず、部下たちは全員亡くなってしまった。 襲撃されたのは仕事の最中だった。 不意をつかれ、部下と一緒に近くにあった建物に逃げ込んだのだが、この部屋に追い込まれてしまい、今だけ休戦。 最近襲撃が多かったが今回ばかりは予測できなかった。 だと言うのに二人の顔からは余裕が消えることなく、小平太は仙蔵の言葉に頷いて、机から姿を現し、銃弾を避けながら敵へと立ち向かう。 銃弾で頬や腕などにかすり傷を負ってしまったが、致命傷はなく、銃と拳で敵を容赦なく殺していく。 小平太の援護をする仙蔵は無表情で発砲している。 慣れた手つきで銃弾をこめ、発砲するのに躊躇いはない。 「ようやく捕まえた」 返り血を大量に浴びた小平太は若干興奮気味に一人の男を捕まえた。 小平太の戦いっぷりに腰を抜かしたのか、男は床に座り込んで、銃を持つ手が震えている。 銃を収めた仙蔵が二人に近づき、男を見下す。二人に睨まれる男はさらに震えあがった。 さすがアルモニアファミリーの幹部を務めるだけあって、全てにおいて強い。 「さぁどうして襲撃したか吐いてもらおうか。それとも私たち二人になら勝てると思ったのか?だとしたらバカなファミリーもいたもんだな」 立花仙蔵には人間の血が流れていない。 綺麗な顔とは裏腹に、そう噂されるほど冷酷な人間だ。 実際に彼に情けなどなく、自分の妨げになるものは全て排除してきた。 本部からこの街を任せられただけあって、かなり優秀で彼に頭脳で勝てるものはいない。 「おい。自主的に吐くか、私に吐かされるかどっちがいい?私は遠慮できんぞ?」 七松小平太は全てにおいて人間を超越している。 裏で薬を使っているのではないかと言われるほどの身体能力を持っている。 彼も情けなどない。おまけに戦うのが大好きで、見ての通り拳で人を殺すことができる。 とあるファミリーは、彼の機嫌を損ねてしまっただけで、壊滅させられたほど。 そんな二人に喧嘩を売ってくるなんて、ただの死にたがりか、余程のバカか…。 仙蔵が見下したまま「吐け」と命令すると、男は歯をカチカチと鳴らしながらゆっくり口を開いた。 「―――仙蔵、しゃがめ!」 その瞬間、小平太の顔色が変わって振り返りざまに仙蔵の腰を掴んでそのまま押し倒す。 すると仙蔵の背後にあった窓がパリン!と割れた。 仙蔵を庇ったまま小平太は顔をあげ周囲の様子を探り、安全と解ってから窓の近くに近づいてそっと外を覗く。 「(どこだ。どこから射撃した…)」 小平太は視力も聴力もいい。おまけに気配にも敏感だ。(野生の勘も鋭い) だから遠くからの射撃には大体気づくことができるのだが、今回はギリギリまで解らなかった。 目をこらし極限まで集中力を高めると、かなり離れた位置に見たことある人間がいた。 スナイパーライフルも持っており、その人間と目が合う。(ような気がした) 「仙蔵、あと任せた!」 「ああ。殺してこい」 割れた窓から躊躇うことなく飛び出し、下に置いてあった車に乗り込んで急発進させる。 残った仙蔵は敵だったものに近づき隣に膝をつく。 「……あんな離れた場所から眉間に当てるとは…」 先ほどまで生きていた敵は目を見開いたまま絶命している。 小平太が気づかない距離、おまけに自分たちがいて男がどんな風にしゃがんでいたか見えなかったはず。 それなのに殺すことができるなんて、自分と……いや、自分以上の狙撃の腕を持つ。 「…―――まさか。またあいつらか……」 口元に手を添え、目を細めて一言呟いた。 立ち上がりつつ胸ポケットから携帯を取り出し、相手に現状を伝えて車を持って来るよう頼む。 部屋を出て、階段を下りて行く途中、亡くなった部下たちには一人一人丁寧に頭を下げた。 「(あそこから逃げるとしたらここを通るはずだ…)」 車に乗り込んだ小平太は制限速度なんて関係なく敵の元へとぶっ飛ばした。 信号無視なんて当たり前。それでも事故を起こすことなく敵の逃走経路を考えながら走らせる。 いくら離れていたからとは言え、こんなにぶっ飛ばして来たら見つかるだろうと小平太はニヤリと笑い、ハンドルを切った。 「見つけた!」 遠くてハッキリとは解らないが、あいつだと野生の勘が叫んだ。 運転席にはサングラスをかけた勘右衛門。その隣に兵助。先ほどのスナイパーライフルも持っている。 アクセルをさらに踏み込んで彼らの後ろにつけ、何を言うことなく発砲した。 だが窓ガラスが割れる程度で速度が落ちることはない。 さてどうしたもんか…。と楽しそうに笑っている小平太だったが、勘右衛門たちの車は徐々にスピードを落としていった。 不思議に思いながら自分も速度を落として様子を見る。 「―――あいつだ…!」 天井の窓から姿を現したのは、絶対に自分の手で殺してやると誓った八左ヱ門。 走っている車の上に立ち、ニタニタと下品な笑いをする八左ヱ門に小平太も自然と笑った。 何をするのか楽しみで発砲することなく様子を見ていると、八左ヱ門は車を蹴って自分の車に乗りうつってきた。 速度を落としているとは言え、制限速度以上のスピードで走っている。 やはり、とてつもない身体能力を持っている八左ヱ門に小平太はハンドルをわざと切って振り落そうとする。 だが、彼はボンネットに乗ったまま拳を振り上げた。 「こいつ!」 車を破壊するためにわざわざ危険なことを! と文句をこぼし、発砲したが、フロントガラスが割れるだけで殺すことはできなかった。 車は制御不可能になってフラフラと車道から歩道に乗り上げ、ビルに突っ込む。 強い衝撃にさすがの小平太も眉間にシワを寄せる。 止まった車と意識を飛ばしそうになる小平太に、無傷の八左ヱ門が近づく。 何故、彼は無傷なのか…。 額から血を流した小平太がドアに近づいた八左ヱ門を見上げると、彼は変わらず自分を見て笑っていた。 「残念だったな、七松。お前が強いとは言え、俺には勝てねぇよ」 動けない小平太の耳元で囁いたあと、迎えに来た勘右衛門の車に乗り込んでその場を後にした。 追いかけても追いかけられない。殺したくても殺せない。 凄まじい殺意を覚えたが、身体が動かず、意識もいつの間にか飛んでいった。 ( TOPへ △ | ▽ ) |