夢/マフィア後輩 | ナノ

人と野犬


マフィアの世界にも秩序というものがある。
この街は二大のマフィアによって経済などが動いており、その二大マフィアに手を出すことはタブーとされている。
その理由は「強い」という簡単な理由。勿論、経済の力も入る。
しかし、自分たちの組織も大きくしたいから、中小マフィアは中小マフィア同士で小競り合いをして拡大させていく。
いつかこの二大ファミリーに勝てるぐらいの力を…。
中小マフィアとは言え野心だけは大きく、彼らに噛みつく牙を研いでいるのだ。


「ほら写真だ」


だから今回の奴らもそんな小さなファミリーがきゃんきゃん吠えているのだろう。と、最初はそう思っていた。
しかし、彼らの実力は凄まじく、彼らだけでいくつかの弱小ファミリーが消えてしまった。
小競り合いがあるとは言え、それはそれで均衡は保たれていた。それが徐々に崩れ落ちていく。
完全に崩れ落ちたら何が起こるか解らない。もしかしたら一般人も巻き込むかもしれない。
一般人は巻き込まない。それは仙蔵たちが属する「アルモニアファミリー」の信条だ。


「奴らは全員で六人。たった六人だ」


だからそうなる前にこいつらをどうにかしたい。
そう言ったのはアルモニアファミリーの幹部、仙蔵。
邪魔をするなら消せと言ったものの、見過ごすことができないぐらいまで、


「調子に乗りすぎた」


と冷たい声で言い切った。
彼らを撮影した写真を机の上に投げ、それを全員が見下ろす。
写真すぐに拾ったのは小平太。
スーツはボロボロ、シャツもまともに着ておらず、ただの不良にしか見えなかった。
三つほどボタンを外したシャツからは心臓に彫った刺青の昇り竜がチラチラと目に入る。


「私、こいつ殺そうか?」
「まぁ待て小平太。部下にこいつらについて探らせたから聞け。殺るのはそれからだ」


八左ヱ門が写った写真を掴み、犬歯を見せて笑う小平太。
そんな小平太から写真を奪い返した仙蔵は奥深く椅子に座って息を吐き出し、机に両肘をついて目の前の幹部に目を向けた。
仙蔵の目は鋭く、わずかに殺気を飛ばす。機嫌は悪いみたいだ。
まず最初に兵助を指さす。写真の兵助は真顔で、小型銃を胸にしまっている途中だった。


「久々知。こいつがファミリーのボスだ。冷静沈着で何があっても顔色一つ変えない憎たらしいガキだ。得意武器は銃のようだが、足癖もそれなりに悪いらしい」
「はっ、まるで仙蔵じゃねぇか」
「黙れ文次郎。仕事増やされたいのか」


淡々と説明し、次は勘右衛門の写真を指差した。
写真の勘右衛門はそこらへんにいるような青年みたいに明るく笑っており、口には棒キャンディ。
マフィアと言われなければ、マフィアに見えない。


「尾浜。トリッキーな存在で場をかきまわす厄介な奴だ…。こいつのせいでうちの部下も同士討ちをされてしまった。それと、バカなのか大物なのか知らんが殺気がまるできかんと報告を受けた」
「感情が欠落してんじゃねぇの?殺し合いのときにこんな楽しそうに笑う奴いるかよ…」
「留三郎、お前の横にいるだろ」
「……あぁ…」
「え、なに?私の顔に何かついてる?」


全員が呆れて笑い、今度は三郎を指差す。
写真の三郎は不機嫌そうな表情を浮かべ、敵に発砲していた。


「こいつがこのファミリーのブレーンだな。名前は鉢屋。全てこいつの指示らしく、よく一人で喋っている。おそらく連絡をとっているんだろう。久々知と同じぐらい、もしくはそれ以上に優秀で、おまけに記憶力がいい」
「………記憶力がいいのか…?」
「ボイスレコーダーもないのに部下同士の会話を全て記憶したらしい」


眉をしかめる仙蔵と、何かを考えるように黙りこむ長次。
そんな二人を置いて伊作が雷蔵の写真を指差した。
写真の中の雷蔵は勘右衛門同様楽しそうに笑って発砲している。


「ねぇ仙蔵、この二人双子?」
「いや、多分違う。名前は不破らしい。だがもしかしたら双子かもな。混乱させるためにそういってるかもしれんが…。こいつも優秀らしいぞ。体術、銃撃戦、どれも対応できるバランス型だな」
「ふーん…。こんな虫も殺せないような顔してるのにね…」
「それはお前もだ、伊作」
「ふふっ、僕も虫殺すの苦手だよ?」
「その虫は、本物の虫か?それとも?」


クスクスと笑う伊作を置いて次は八左ヱ門を指差す。
その瞬間小平太が目をギラリと光らせ、「早く教えてくれ」と言った眼差しを向けた。
写真の八左ヱ門は舌を出して笑っている。「どこからでもかかってこい!」という声が聞こえるほどの迫力だった。


「竹谷。こいつが主に実行犯だ。バカだと思ったら戦闘に関してのみ天才的だ。しかも、小平太と同じぐらいの怪力、戦闘センスを持つから気をつけろ、だと。さぁ、どうする小平太」
「潰すッ!こいつだけは私が絶対に殺してやる!」
「遊園地に行くような顔でそんなこと言うな。文次郎、留三郎、悔しそうだな」
「俺だってそいつと戦いてぇからな」
「そりゃあ俺もだよ。でも小平太譲りそうにねぇしなぁ…」
「当たり前だ文次郎!こいつはあの時から目をつけていたんだ…。絶対に殺してやる…でもたくさん戦いたい!」
「…で、仙蔵。最後のこいつは…?」


呆れる二人と仙蔵から写真を取り戻した小平太を見て、長次は最後の一人を指差した。
千梅だけサングラスをかけ、銃を両手に持ったまま笑っている。


「吾妻。八左ヱ門と同じく先陣をきって場を乱す奴だ。この中で一番弱いと言っても過言ではないが…」
「…何かあるの?」
「信じがたい話だが、こいつも尾浜と同くじ感情が欠落しているのかもしれん。率先して銃弾に向かいに行っている」
「どういうこと?」
「そこまでは解らん。見ての通りこいつらは敏感だ。自分の手の内を晒してくれんからな」


写真の中の六人は全員カメラ目線だった。
気づかれないように、戦闘中を狙って撮影したつもりだったが、全員にバレていたという。


「にしてもこんなガキがマフィアしてるなんて世も末だな」


仙蔵が簡単に六人の説明をし終わったあと、留三郎が千梅の写真を取って呆れた。
きっと親に捨てられ、マフィアに拾われてマフィアになったんだろう。そのパターンが一番多い。そしてそれは自分もだ。
呆れるような、少し同情するような表情で千梅を見た留三郎だったが、目をゆっくり見開いて仙蔵に視線を戻す。


「こいつ、女か」
「おい留三郎、くだらん嘘はよせ」
「…………文次郎、こいつは女性だ…」
「女の子でしょ?」
「女だ」
「はぁ?」


留三郎に近づき一緒に千梅の写真を見る。
目を細めて見るも、首を傾げるだけ。どうにも女に見れないらしい。
すると、八左ヱ門の写真を持ったままの小平太がひょいっと奪ってジッと見つめる。


「こいつ女だぞ。色気ないし、胸もないけど女だ」
「まぁ…小平太が言うならそうなんだろうな。女がマフィアしてんのか…」
「敵とは言え俺はこいつとやりたくねぇな」
「俺も」
「留三郎も文次郎も変なところで紳士だよねー。じゃあこいつの処理は僕に任せて。殴るのはさすがに僕もできないけど、銃があるしね」
「殴るより銃のほうが危ないだろうが…。伊作、まだあれ根に持ってんのかよ」
「うん。僕に喧嘩を売ったこと、泣いて謝るまで許さない。謝ったとしても許さないけどね!僕だけじゃなく皆もだろ?」


最初はやられてしまった。自分たちを見下したあの目も忘れられない。
喧嘩を売ってきた奴らを思い出すと黒いものがジワジワと生まれてくる。


「それでも俺は吾妻とはやりあわん」
「俺も。伊作、ちゃんと始末しろよ」
「りょーかーい。にしてもこの子、本当に女の子に見えないね」
「……そうか…?顔はちゃんと…女だと思う」
「うーん、そうなんだけどさー…。なんていうか…」
「胸がない!」
「あと雰囲気が女の子じゃない!」


小平太から受け取った写真を見ながら顎に手を添えて呟く伊作と、あまり興味のない長次。
その後ろから顔を出してニコッとマフィアらしからぬ笑顔を浮かべる小平太。


「ちんちくりんだなー」
「小平太の周りにいるのが綺麗な人ばっかだから余計そう見えるんだろうね」
「まぁな!でも私だけじゃなく皆いるじゃないか」
「だが、断トツでお前が多いだろ。とっかえひっかえは止めろ」
「ああ、見てて不快だ。邪魔くせぇ」
「文次郎も留三郎も酷いなー…」
「ほらお前たち。終わったのだから遊んでないで仕事しろ、仕事。文次郎、お前は港へ向かえ。長次は私と来てもらおう。残りの三人は各自判断しろ」


仙蔵の言葉にバラバラに別れる。
仙蔵の机の上には六枚の写真。まだ、余裕の笑みを浮かべていた。


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