夢/マフィア後輩 | ナノ

宣戦布告の挨拶


この街には昔からマフィアが存在していた。
そのマフィアたちは、一般人に危害を加えることもなく、表に滅多に出てくることもないので、あまり疎まれていない存在だった。
もう一つの疎まれていない理由として、二つの大きな組織(マフィア)による社会的貢献の影響があるからだ。
アルモニアファミリー。表では主に商業系に出資しており、外国との繋がりも深く、社会(街)に大きく貢献している。
レゴーラファミリー。表では主に医療系に出資しており、たくさんの優秀な医者や学者などを育てている。他にも、慈善事業や教育にも貢献している。
この二つのファミリーの他にもたくさんのマフィアが存在し、小さな抗争を起こすものの均衡を保っていた。

一つの若い組織が現れるまでは。

突如として現れたその組織は緻密な作戦で、まるで手のひらの上で遊んでいるかのようにマフィアたちを翻弄する。
見たものは殺されるほどの徹底ぶり。戦闘能力も凄まじく、肉弾戦、銃弾戦、どれもどのマフィアより上。
それでも、生き残ったものから情報が漏れ、彼らの存在はあっという間に裏世界に知れ渡った。
勿論、この街の重鎮であるアルモニアファミリーをまとめる仙蔵たちの耳にも入っていた。
パッと出の弱小ファミリー、所詮は若造と見向きしなかった小さな存在だったのだが、


「全く持って情けない!」
「まぁそう言うな仙蔵。情報がうまいこと伝達できなかったんだ…」
「どいつもこいつも弱いくせに…。長次、ちょっと苦しい」
「…すまん…。私も窮屈なんだ…」
「これ完全に電波ジャックされてんぞ。じゃなかったらこんなこと起きるか!」
「うわっ、ちょっと…!僕に向かって撃たないでよ!」


アルモニアファミリー幹部の六人を追い詰めていた。
追い詰めていた。と言っても、例の新参マフィアではなく、他の中小マフィアたちが彼らを挟み打ちにし、銃撃戦を始めていた。
大きな組織に手を出してはいけない。それが暗黙の了解だが、彼らは遠慮することなく撃ってくる。
何故こうなったかは自分たちにも解らない。
ただ、情報の伝達がうまくいかず、仲間に呼ばれてやってきたのがここ、古びた建物と建物の間。
それなりに広い通りだが、身を隠す場所が少なく、六人がゴミ箱とゴミ箱の間に身体を寄せ合って銃弾を凌いでいた。


「ともかく脱出するぞ。小平太、派手に暴れろ」
「りょーかい!」


仙蔵の命令を聞いて小平太は羽織っていたジャケットを上へと投げ捨てる。
すぐに銃弾がジャケットを蜂の巣にし、一旦銃音が止んだ。


「(よーい…どんっ!)」


まずは人数が少ないほうに向かって走り出すと、銃音が再び鳴り響く。
ペロリと唇を舐めて、襲ってくる銃弾を紙一重でかわす小平太に、仲間たちは「はぁ…」とため息に似た息をもらした。


「相変わらず化け物だな…」
「文次郎……、そっちは任せたぞ…」
「おうよ。留三郎、仙蔵、しっかり援護してくれよ」
「誰に命令してるバカ」
「うっせぇよ!俺に命令すんな!」
「長次、僕も援護するから暴れてきなよ。さっさとこんなとこから脱出しないと他の奴らが来ちゃう」
「…解った」


小平太が壁を蹴って敵の背後をとり、次々と殴り殺していく。
銃口を向ける奴はあとから来た長次が銃弾で弾き、応戦。
伊作は周囲の様子を見ながら、二人の邪魔となる人間を撃ち殺していく。
反対側は文次郎が前線に立ち、留三郎と仙蔵が援護をしている。
後ろの心配がなくなったので遠慮なく銃をぶっ放すことができ、すぐに全滅することができた。
銃を持ったままの文次郎と留三郎が完全に死んでいるか確認している最中、仙蔵が携帯を取り出してどこかへと連絡する。


「弱かったな!」
「もう小平太…、また頬に傷作ってるよ」
「かわしそれた…。むー…私もまだまだだな!」
「ところで長次、こいつらどこのファミリー?」
「………北の…中堅ファミリーだったと思う…」
「ふーん…。何でいきなり僕たちに喧嘩売ってきたんだろうね?」
「―――あいつらの手引きじゃないのか?」
「え?」
「仙蔵、文次郎、留三郎!」


頬に負った傷口を親指で拭ったあと、ニヤリと笑って上を指さして三人を呼んだ。
小平太の行動と声に全員が建物の上、屋上を見上げると、見たことのないマフィアらしき人間たちが自分たちを見降ろしていた。
一人はポケットに手を入れたまま冷静に自分たちを見降ろしている。
一人は鼻歌を歌いながら楽しそうに自分たちを見降ろしている。
一人は仲間に身体を向けたまま、目だけで自分たちを見降ろしている。
一人は同じく仲間に身体を向けたまま、笑顔で自分たちを見降ろしている。
一人は身を乗り出し、ニヤニヤとバカにした笑いを浮かべ自分たちを見降ろしている。
一人はサングラスをかけ、口元に手を添えたまま自分たちを見降ろしている。
彼らは横一列になって六人を見降ろしていた。


「ほう……こいつらか…」


仙蔵が口を開き、別段焦った様子を見せることなく呟くと、座っていた青年、勘右衛門が立ち上がり身を乗り出す。相変わらず笑顔のままだった。


「仙蔵?」
「こいつらが例の噂のハイエナだ」


隣に立つ文次郎が聞けば、仙蔵が六人に聞こえる声が教えてやる。バカにした口調だった。


「で、お前ら今更何の用だ?そこにいたくせに何もしなかったということは、お前らのような子供にはいささか強烈すぎたか?」


仙蔵が少しばかり声を張って嫌味を言うと、兵助を除く全員が笑いだす。
文次郎が目を細めて銃を握る手に力を込めると、仙蔵に制された。


「えー、あれで強烈なんですかぁ?あはっ、ないない!三郎ー、お前ならもっとエゲつないことできるよねぇ?」
「ああ、目を覆いたくなるほどのな。八左ヱ門、お前ならもっと派手に暴れただろ?」
「あったり前ぇだろ!つかあれで暴れたって言うのか?俺らの準備運動じゃねぇか」
「もう八左ヱ門…。ちょっと言いすぎだよ。準備運動にもならないって」
「あはは!雷蔵、突っ込みどころ違うし!」
「……で、重鎮と言われ、この街を支配している貴方たちのどこが強いんですか?」


最後の兵助の言葉を聞いたあと、全員が銃口を彼らに向け、すぐに発砲した。
しかし、解っていたのか、しゃがんで銃弾を避ける。


「うっわ、超怖い。好戦的すぎっしょ!」
「しかも眉間か心臓を狙っていたな」
「おまけに誰が誰を、なんて言わずに…。凄いねー」
「ま、当たらねぇと意味ねぇけどな!」
「いや、でも怖いし…。当たらないと意味ないけど」
「バカ、同じこと言うなよ」
「あはは、ごめんハチ!」
「ご不快にさせてしまったようですね。申し訳ありません」


兵助が頭を下げると、留三郎と文次郎は舌打ちをして再び銃口を向ける。
その横では、瞳孔が開ききった小平太を長次が止めていた。


「貴様らがこれを仕組んだな」
「さすがアルモニアファミリーの幹部様っ。その通りでーす!」
「勘右衛門、あまり喋るな。お前はいらんことまで教える」
「ごめん三郎!じゃあ兵助に全部任せるよ」
「うん。仕組んだことは正直に言います。俺たちです」


兵助が一歩前に出て、仙蔵を見降ろす。
その目には、仙蔵への興味や関心などが一切ない、冷たいものだった。
それに不快感を覚えたが、挑発には決して乗らず、冷静に質問をした。


「何が目的だ?」
「それを教える必要はありません」
「ならば何故こんなことをした」
「それも教える必要はありません」
「言い方が悪かったな。答えろ、命令だ」
「俺らは貴方の部下ではありませんし、この街の秩序やルールなど知ったことではありません」
「お前らが知っていようがいまいが、これがこの街のルールであり秩序だ」
「ならばどうしますか?」
「殺す」
「そうですか、ならば俺たちも俺たちの命を守るために貴方たちを殺します」


兵助が喋りきると、その場にいた全員が敵に向かって銃口を向けた。
数秒お互いを狙ったまま微動だにしなかったが、最初に銃を下ろしたのは兵助たち六人。仙蔵たちは依然として銃口を向けている。


「今日は挨拶だけです。では失礼します」


頭を下げ、全員が立ち上がって兵助の近くに集まり、六人を見降ろす。
そして背中を見せる前に、兵助は仙蔵に、勘右衛門は留三郎に、三郎は文次郎に、雷蔵は長次に、八左ヱ門は小平太に、千梅は伊作に中指を立て、手の甲を見せた。


「―――殺す…!」
「…っ小平太、逃げるぞ…!」
「伊作、全力で走れ!でも転ぶなよ!」
「う、うんっ。頑張るよ!」
「仙蔵ッ、どこに向かう!?」
「あのクソガキどもが…!」


笑顔の勘右衛門が小型の爆弾を屋上から落とし、背中を見せて消えていく。
仙蔵たちは慌ててその場から立ち去り、少し離れた場所に避難したあと、先ほどまでいた場所がドカン!と爆発した。


「いやー、それにしても強かったね、あの人たち!やっぱり重鎮って言われてるファミリーの幹部だよ」
「私たちと変わらない年齢なのに凄いもんだ」
「ふふっ、三郎が言うと嫌味にしか聞こえないね」
「俺、あいつ嫌いだわ。ずっと俺のこと睨んでたし、なんか喧嘩売ってる」
「私、あの男か女か解らない奴嫌い。あいつ絶対腹黒いよ!性格も粘着系っぽいし。ああいう男大きらーい!」
「ともかく宣戦布告は完了できた。さあ、次はどうしようか」


ハイエナと呼ばれる彼らの宣戦布告、これにて完了。


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