プロローグ その日は珍しく幹部全員が大広間に集まっていた。 「ウロボロス?」 「そう、その刺青を入れた奴らが次々にシマを荒らしてんだとよ」 「それで留三郎、何人やられた?」 「………数十人…」 幹部の一人、仙蔵が机に肘をついたまま、目の前に立って報告する留三郎を睨みながら見上げた。 同じく幹部の留三郎は「俺を睨むなよ」と呟いて、目を伏せる。 部屋の中心にある来客用のソファには小平太が横になって、仙蔵から貰ったポンデリングを口に頬張って二人の様子を見ていた。 小平太の前にも二つソファがあり、そこには長次が耳を傾けながら本を読み、伊作はコーヒーを飲みながら聞いてた。 小平太のソファの背もたれに座っていた文次郎は、留三郎に近づいて書類を取り上げる。 「尾を噛んだ蛇、ウロボロス…。今までみたことねぇ刺青だな」 「新参か!どうする仙蔵、さっさと潰すか?」 「…小平太、食べカスがソファに……」 「でも留三郎のとこを殺ったってなると、相当強いんじゃない?留三郎のところ、戦闘員が多いのにさ」 「ああ。出てた奴ら全員殺された。ただ、かろうじて息があった奴から聞いた情報だから、これが真実だとも言えない」 「いや、これは真実だ」 奥深くに座り直した仙蔵が全員に目を向け、喋り出す。 少しだけ冷たい空気が流れ、全員が目を細めて耳を傾ける。 「最近、この街を荒らしている奴らがいると、他のファミリーでも噂になっている。刺青はウロボロス。人数は五人もしくは六人しかおらず、どれも若い男どもだ」 「へー…しょーすーせーえーってやつか?」 「少数精鋭、な…。小平太、……口の周り汚い…」 「そこまで強い奴らなら、何で今まで出てこなかったんだ?」 「うーん…、他の街から来たとか?」 「ちげぇだろ。タイミングを狙ってたんだよ」 「文次郎の言う通りだ。この街に昔から存在する我らアルモニアファミリーと、我らと対立し冷戦状態にあるレゴーラファミリーが再び小競り合いを起こし、それを狙って他のファミリーも活発に動きだしているから、それを狙ってシマを奪っている」 「そうだとしたらよく考えてんな。留三郎より賢いんじゃねぇの?」 「黙れ文次郎!テメェの老けた顔吹っ飛ばすぞ!」 「誰のせいで老けたと思ってやがる!」 「アハハハ!何だ文次郎、老けた自覚があったのか!」 「……ぷ…」 「文次郎、若返りの薬でも作ってあげようか?利くかどうかは解らないけど…」 「う、うるせぇ!」 「……お前たち、少しぐらい静かに、真面目に聞けんのか…」 先ほどの空気から一変し、和気藹々な空気になり、仙蔵は呆れながら頭を垂らす。 でもすぐに顔をあげ、椅子から立ち上がって文次郎から書類を受け取った。 懐に忍ばせてあったジッポを取り出し、火をつけて書類を燃やして、灰皿に捨てる。 「どんな奴であろうと私たちには関係ない。邪魔するなら殺せ、邪魔しないなら放っておけ。ただのガキどもだ」 「了解」 「解った!」 「……了解…」 「はいよ」 「解った!」 「さ、仕事に戻れ」 仙蔵の言葉にそれぞれがやるべきことに向かい、大広間に静寂が訪れた。 ( TOPへ △ | ▽ ) |