夢/マフィア後輩 | ナノ

白と赤


「断る」
「では任せたぞ」
「断るって言ってんじゃん!」


今日は自分たちの部屋でのんびり過ごしていた。
仕事は昨日終わらせたし、忌々しい上司たちもいない。
パソコンを触っている三郎の膝を枕にし、中在家さんから借りた漫画を読む。
竹谷たちは他の仕事で当分の間帰ってきてない。寂しかったけど、三郎がいるからまだマシ。
ゴロゴロと過ごしているときに、ノックもなしに入ってきたのが立花。
嫌な予感は既にしつつ、用件を聞くと、「仕事だ」と言われて断った。


「…吾妻、悪いとは思っているんだが、お前しか適役がおらんのだ」
「そ、そんな胡散臭い顔したって知らない!今日の私は休みなんだ!漫画の続きが気になるの!」
「吾妻、頼む。うちで一番強く、安心して任せることができる女はお前しかいない。お前しか頼めない」


今日の夜、とあるマフィアファミリーに呼ばれたパーティに出席してほしいと言われた。
相手ファミリーは元レゴーラの傘下。きっと何かあるに違いない。だからと言って、「参加しない」と言えばいい笑いものになる。それだけはプライドが許さないんだろう。


「でも…女の私じゃなくてもいいだろ…」
「女のほうがあいつらも油断して、潰しやすいだろう?」


潰す気満々なのか…。
仲間になってから解ったが、この男は本当に恐ろしい。
怖いわけではないが、あまり敵に回したくないと思う…。


「これが終わったらお前らに一週間の休みをやろう。ついでに旅行でもしてくるといい」
「え、ほんと!?本当ですか!?」
「おい千梅。あまりこの人の言うことを鵜呑みにするな」
「嘘はつかんさ」
「大丈夫だって!あ、ところで一緒に行く相手の男は三郎?それとも立花さん?」


皆で旅行!そんな…最高すぎる!きっと皆も喜ぶ。
「千梅、ありがとう!」って笑って抱きしめてくれるに違いない!
喜んで承諾すると、立花も私とは違う笑みを浮かべた。
正直、悪い予感しかせず、やっぱりすぐに断ろうかと思ったが、


「相手は小平太だ。断ることはできん」
「………詐欺だーっ!」
「目先の欲望につられて安易に承諾するからだ、バカめ」
「だから言ったんだ…。バカ…」

いくら泣いて喚いても、どうすることもできず、あっという間に夕方まで時間が過ぎていった。


「私もな、お前とハチの単純バカっぷりはどうしようかと思っていたんだ。だが、お前たちはどう頑張ってもバカだから…」
「ううっ…行きたくないよぉ…。三郎の手先が器用すぎて今日も凄いよー」
「…私だって、あいつと千梅を二人きりにさせたくない…。……」
「ないんだったら止めてよぉ!それかひっそり三郎もついてきて!」
「…………旅行…」
「……おまっ、私を犠牲にまでして旅行に行きたいのか!」
「安心しろ。旅行先のピックアップは今晩中に完璧にしておく」
「ちょ!立花と一緒に仕事しすぎて、冷たくなってない!?影響されてない!?」


真っ白のドレスに身を包み、髪と化粧を三郎にしてもらう。
鏡にうつる自分は、いつもより大人っぽく、綺麗に仕上がっていて、少しだけ嬉しかったけど、今回はそんなことを思う余裕がなかった。
私たちはもっと深い絆で結ばれていただろ!?なのになんだこれ。私を見捨てるってか!?犠牲にするってか!?


「七松なのは気に食わないが」


背後に立って、アクセサリーをつけてくれる三郎から微かに殺気を感じる。
皆、七松に対しては他の人たちより冷たい。冷たい?憎んでる?
私も嫌いだけどさ…。皆はちょっと異常に嫌ってる。


「だが、仕事だからな…。我慢はしているが、何かあったらあいつを見捨てて逃げてこい。あいつなら死なないだろ」
「それもそうだね。でも仕事だから最後まで頑張ってくるよ」

それに最近のあいつは、少しだけマシになったように感じる。嫌いだけど。
この間遊ばれたけど、あれ以来特に何かあるわけでもないし…。寧ろちょっと大人しいぐらいだ。
それでも一緒にいたくないから、嫌だと言ったけど、私の我儘は聞いてもらえそうにない。


「まぁ七松はもうこの際どうでもいい。それより三郎」
「なんだ?髪形は不満か?」
「髪はいいんだけど、このドレス、背中開きすぎじゃない?」
「私だって断ったんだ。千梅にはまだ早いと。しかし立花がだな……」
「まぁたあの男か。別にいいけどさぁ…。寒くてお腹冷えそう…」
「パーティでそんな色気のないこと言うなよ」
「はーい」


会場までは立花の部下が車で送ってくれるらしい。
七松と一緒に行かないだけマシだが、でも二人きりの車内には微妙な空気が流れる。
私たちがここにきて、数ヶ月がすぎたが、あいつらと以外滅多に会話をしない。するとしても、業務連絡だけ。
マフィアと仲良くなるつもりはないが、何か月も一緒に過ごせば、情が湧いてくる。だから気まずく感じる。


「仕事内容はこちらに書かれてます」
「っはい」


運転手から数枚の書類を渡され、それを受け取る。
書類には相手のデータがたくさん載っており、最後に「パーティが終わって、油断した瞬間を殺せ」とだけ書かれていた。


「へー…。格闘術を扱うんだ…」


どこで調べたのか知らないが、相手の情報はたっぷり書き込まれている。
その中の、重要なところだけ頭にしっかり刻み込んで、会場に到着するまでどうやって殺すか何度もシチュエーションを繰り返す。
脳内シュミレーションは完璧。あとは何事もなくパーティを過ごして、終わりに殺すだけ。よし!


「よお、遅かったな」
「……」


会場に到着すると、すぐに相手の七松がやって来て、やる気を失ってしまった…。
すぐにお前の顔なんて見たくなかったよ。
心底嫌な顔を見せてやったのに、七松は悪態をつくことなく先に会場へと向かって行った。
……うむ、おかしい。いつもなら「なんだその服」って笑ってくるだろうに…。

「千梅、何してる。早く来い」

先を歩いた七松は振り返り、私を呼ぶ。そして待っている。
別に…黒いスーツがよく似合ってるなんて思わない。あんなの馬子にもなんちゃらってやつだ!

「さっさと終わっちまえ…」

調子が狂う。丁寧に扱って欲しくない。笑わないでほしい。助けてくれなくていい。もう本当に何もしないで欲しい!
パーティが始まり、ひたすら時間が過ぎるのを七松の横で過ごしていたが、いちいち七松が何かしてくる。
美味しい食べ物があれば無理やり食べさせてくるし、飲み物がなくなれば気づいてウエイターにグラスを渡す。
ヒールに歩き慣れていない私の手をとって、リードしてきたときは鳥肌が立ってしまったぞ!そのときの私は絶対に引きつった笑顔をしていたと思う。

「はぁ…もう疲れた…」

慣れないパーティにもだが、紳士的な七松にも精神的疲労が……。
でも、何もないならこのままであってほしい。このままパーティが終わり、ターゲットを殺して仲間と旅行に行く…ああ、それを思えばもう少し頑張れる気がする。

「喉乾いた…。お酒は飲めないからジュー………え…?」

情けないことに、このときの私はすっかり油断していた。
いくらパーティや七松で疲れていたとは言え、ここは敵の陣地。何故油断していたんだろうか…。
飲み物のおかわりを貰おうと、グラスを持って椅子から立ち上がると、パンッ!と乾いた音が耳に届き、続いて腹部に鋭いような痛みが走った。
混乱しつつも痛みを消して腹部を見ると、白いドレスがじんわりと真っ赤に染まっていっていた。
その次に周囲から悲鳴が湧きおこり、私から離れていく。

「あー……。(これどうしよう…倒れたほうがいいのかな。でも、私を狙ったってことは、私のこと知ってるってことだよね?)じゃあ、ちょっと早いけどやりますか」

ドレスの裾をちぎって、動きやすい服にする。
太ももに忍ばせてあった銃を取り出し、小さな丸いテーブルをひっくり返して身を隠す。
さて、相手はどこだ?

「一般人がいるのに……早漏な奴らだな」

隠れてみたものの、追撃はない。
試しに腕や足を出してみても、撃たれる気配を全く感じない。

「何でだよ…。つか七松どこに行きやがった!」

そういえば少し前から見ていない。
解放されてラッキーなんて思っていたけど、こうなってしまったら逆にやり辛くなる。
お前が派手に動いて、私が影で支えるのが戦闘スタイルなんだから早く出て来い!祭り好きなんだろー。

「や……っば…寒くなってきた…」

銃を持つ手が震える。
撃たれた箇所に手をやると、ねちゃりと固まりかけている血が手につく。

「…あ、れ…?なんで…血が…止まらない…」

通常の銃弾なら、こんなことない。
え、いや、待って。頭が回らない。寒い。寒くて眠たい…。
丁度いいや。このまま寝たら……回復する、から…。ねむ……―――。

「お、いた。―――…おい、大丈夫か?」

パーティの途中、怪しい動きをする奴を見つけたから、千梅を置いて追いかけた。
そいつが見事ビンゴで、ここから離れた場所で始末していたら、最後の男が無差別に発砲してきた。
私には当たらなかったが、もしかしたら会場にいた連中に当たってしまったかもしれない。そしたらまた仙蔵に怒られてしまう。
慌ててそいつも始末し、会場に戻って来ると誰もいなくなっていた。死体もない。
安心して千梅を探すもなかなか見つからず、ようやく見つけたと思ったら、腹が真っ赤に染まって床で寝ていた。

「呼吸は…ある。普通の人間なら死ぬ出血量だが、まぁ大丈夫だろうな」

何せ寝ればすぐに完治する力を持つ化け物だ。このまま放置でいいだろう。
にしても、

「…腹に赤い花」

机の陰から少し広い場所に担いで移動し、寝かせて改めて見る。
真っ白だったドレスは腹…身体の中心から外に真っ赤に染まっていき、模様を作っている。
趣味は悪いが、「赤い花」に見えて思わず口に出す。誰も聞いていない。

「…。折角ドレスを着たんだから、今回は巻き込みたくなかったんだがなぁ…。伊作と一緒で不運な奴」

顔色が悪い頬を触るとやっぱり冷たかった。死人のように冷たい。

「こんなのを綺麗だなんて思う私はきっと頭がおかしいんだろうなー」

仙蔵たちへの連絡はもう少しあとにしよう。


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