夢/マフィア後輩 | ナノ

介抱と戯れ


いくら、「嫌いだ」「一緒に仕事したくない」と文句を言っても、私たちの上司にあたる立花仙蔵は笑って返事をするだけで、私と七松のコンビを解消してくれない。
今日も嫌々ながら一緒に仕事をして、さっさと帰ろうとしたら、不意打ちで襲われた。
致命傷ではない限り私は死なない。痛みを消すこともできるし、寝ればすぐに完治する。
だと言うのに、相棒(凄く不本意な言い方だが)の七松が私を庇って、代わりに怪我を負ってしまった。
脇腹に銃弾が貫通しただけの大した傷ではない。こいつの治癒力も化け物並みだからきっと大丈夫。


「なのに何で私が看病しなくちゃいけないんだよ…!」
「お前を庇ってやったんだ。当たり前だろう?」
「私は庇ってもらわなくても平気なの知ってるだろ!」
「んー…。解ってるんだけど、何でだろうな。身体が勝手に動いてた」


ニカッと爽やかに笑ったって全然なんとも思わないからな!
上半身裸で、腹に包帯を巻いている七松は大人しくベットで寝ている。
その横にある椅子に座って彼が動かないように見張るのが私の役目。
ぶっちゃけ。こいつが本気で動いたら私は止められない。なのにこの役目を押し付けた立花をマジで恨む。あの男はいつもこうだ!


「あー、暇だな」
「さっき撃たれたんだぞ。大人しく寝ててください」
「でもなぁ…。確かに痛むが動けないほどではない」
「化け物かよ…」
「お前らほどではないさ」


こっちのトラウマを平気で踏んできやがる。
大事に、触らないようにしてほしいわけではないが、これはこれでムカつく。
きっと、こいつらに何言われてもムカつくんだと思う。


「とりあえず寝て回復してください。私携帯触ってるんで」
「何するんだ?」
「別になんだっていいじゃないですか」
「私もする」
「あんた携帯ゲームしないでしょ」
「おう」
「だから寝てください」


できればこいつと会話したくない。
前に「私だけを見ろ」って言われて、どういう顔をすればいいのかとか、どう反応すればいいのか解らなくなってる。
こいつを含めた立花たちは未だに嫌いだ。前ほどではないが、やっぱりマフィアは嫌い。
おまけに六人全員性格に癖があって、ただの会話も気が抜けない。
しかも七松はあれだ。…そうだ、あんなことをされたのに、何でこんなに親しく会話してるんだろう。
乙女にとってあれはトラウマなんだぞ?


「(まぁ乙女ってほど乙女でもないし、あれ以上の……トラウマはあるし…)」
「どうした、吾妻。気分でも悪いか?」


終わった過去のことをふと思い出して、気分が悪くなった。
眉間にシワを寄せただけで七松は優しい声をかけて、私の頬に手を伸ばす。
不意打ちの行動に肩が飛び跳ねて、椅子から落ちそうになるのを、身体を起こした七松に掴まれた。


「何してんだ?」
「いや…お前が……」
「私、変なことしたか?」


したさ。
何で心配した?ああ、私に興味があるからだよな。じゃあ何であんな優しい声をかけた?
最近の私はおかしい。こいつの行動、言葉の一つ一つにビクビクしてしまう。
怖いわけじゃない。その感情じゃない。だから変な行動をとってしまう。
ああ嫌だ嫌だ。こいつにどんどん心を食べられてしまっているようで嫌だ。
昔の強い私はどこに行ってしまったんだろうな…。立花の言葉通り、「牙を抜かれた狼」、犬になってしまったようだ。


「もういい。飲み物とってくるから大人しくしてろ」


七松を押しのけて部屋を後にする。
部屋を出て、大きく深呼吸をし、ゆっくり吐き出す。


「静まれ心臓。確かに私は不意打ちとかに弱いけど、そこまで驚かなくてもいいだろ…」


なんて情けない。こんな姿を竹谷に見られたら指指されて笑われるぞ、千梅!
心臓が落ち着いたあと、自分と不本意だけどあいつの飲み物を取りに行く。
ベットの上でジッとできないだろうから何か持ってってやるか。じゃないと私に話しかけてくる。


「大人しくしてないだろうけど、大人しくしてましたかー」


アクション系の映画が好きだってどこかで聞いたからそれのDVDと飲み物を持って部屋に戻ってくると、七松は寝ていた。
まさか寝たふりでも?と思って静かに近づき、名前を呼ぶも、彼は全く反応を示さない。
本当に眠っているのかどうか解らないが、静かに寝ている七松を見るのはこれが初めてだった。


「幼い…」


寝てれば可愛い。という言葉はこの男に似合う気がした。
飲み物とDVDは近くのテーブルに置いてさっきまで座っていた椅子に腰をおろして、ジッと七松の寝顔を見る。
たまに苦しそうな表情をしていたが、すぐに元に戻る。こいつの治癒力はやはり化け物だ。


「今なら…殺せるぞ、千梅」


無意識に自分自身が呟いた言葉に冷や汗が流れる。
私たちの目的は全てのマフィアの壊滅だ。マフィアなんていらない。それにこいつらを潰せたら自分たちも「野良」に戻れる。
ぐっすり眠っている今なら確実に殺れる。
懐に仕込んでいる小型の銃を取り出し、立ち上がる。


「…はぁ…!」


自然と息を殺していた。
簡単に殺せる。解っているのに手が動かない。苦しくなる。
わざとらしい溜息をして、銃を強く握りしめた。


「お前らは相変わらず未熟だな」
「ッガ…!?っまえ…寝たふりか!」
「いや、本当に寝ていたさ」


銃口を七松に向けた瞬間、近くにあったシーツで視界を奪われた。そして呆れた声とともに腕を捻りあげられ、ベットに押し倒される。


「戦闘も下手くそ、暗殺も下手くそ。これではいつまで経っても二流…いや、三流以下だぞ?」
「うるさい!離せ!」
「殺すなら殺気をもらすな。躊躇うな。見つけたと思ったらすぐに殺せ」
「いたたたたた!」


お前腹ケガしてんだろ!?何でいつも通りに動けるんだよ!


「私はな、殺気を向けられると起きるし、勝手に身体が動くんだ」
「さすが何人も人を殺してきただけあるな!」
「なに、褒めるな」
「褒めてないっ!いいから離せよ!」


私の言葉に七松の目が細くなるのが解った。
まとう空気もガラリと変わり、拘束している手に強い力が加わった。


「―――離せ?これが私ではなく、他の奴らだったら殺されてるんだぞ?一度の失敗は死を意味する。いい加減学べ」
「ッ…!」
「それから…。いい加減自分が女だと自覚したらどうだ?」


ニヤリと笑えば犬歯が見えて、背筋に鳥肌がたった。
言葉通り、「食われる」と思ったのはこれが初めてで、頬が引きつる。
「止めてくれ」と言ってもこいつは喜ぶ。「離せ」ともう一度言っても「嫌だ」と言われる。「ごめんなさい」と謝れば喜ぶだろう。


「っこんなガキに欲情するお前は変態だな」
「強がったつもりか?最初が少し震えてるな」


喋れば喋るだけ色気が増すのは気のせいだろうか。
妖艶に笑い、色を含んだ声で視覚と聴覚を犯される。
爆発するんじゃないかと思うぐらい、落ち着かせた心臓は悲鳴をあげている。


「離せよ…」
「楽しいから断る」
「暇を潰したいならそういう女を呼んで来てやる」
「別にそういうことをしたいわけではなかったが、千梅はしたかったのか?」
「ックソが…!お前怪我人だろ!ジッとしてろ!」
「ああ、だから遊びまでにしておくつもりだよ」
「遊びで火傷してたまるか!」
「千梅、いい加減自覚しろって言っただろう。お前はどうあがいても「食べられる」立場なんだ」


ペロリと自分の唇を舐めたあと、「いただきます」と言うように口をゆっくり開けて、


「っだああああああ!」


カプリと首筋を噛まれた。
弱く噛んでるつもりだろうが、かなり痛い!
殴ろうとしても強い力に抑えられているから殴れない!憎い!やっぱり七松なんて大嫌いだ!関わりたくない!


「色気がないなー」
「痛いって言ってるだろ!噛むな!」
「痛いなら力使えばいいだろ?」
「集中してるときしか使えないの!」
「…ということは、今は集中できないってことだよな?集中できないぐらい気持ちいいか?」
「痛いって言ってんだよバーカバーカ!」


首をカプカプと噛んだあとは、服を脱がせながらその周辺も噛んでいく。
何がしたいのか全く分からない!噛むのって楽しいのか!?


「離せー!痛い!くすぐったい!」
「(処女じゃないとは言え、ほぼ処女だから反応に色気がない…)」
「あはっ、ふ、っ…あははは!やっ、くすぐったい!いひひひ!」
「(これは萎える。まぁ面白いからいいけど)」


七松の髪の毛がチクチクするのもあって、とにかくくすぐったかった。
笑いすぎてお腹も痛くなってきたし、殴る力も抜けてしまい、いつの間にか解放されていた。
逃げ出そうと思えばベットから降りることもできたけど、足にも力が入っていない。
笑いすぎて涙が出たのと、ずっと噛みついているので七松がどんな顔をしているか解らないけど、「色気がない」って顔してるのがなんとなく解った。
いや、これでどう色気を出せと?くすぐったいだけじゃん。何をどう感じろって言うんだ。


「あひゃっひゃ!ひー、もう止めろー!これならまだ殴られたほうがマシだー!」
「―――千梅」
「あっ…ん!……ううん!?」


耳に柔らかい何かが当たったかと思うと、あの声で名前を呼ばれて変な声が出た。
何をされてもくすぐったかったのに、今はそれが落ち着いて解放された両手で口を塞ぐ。
な、なんだ今の…。み、…耳はダメだ。ダメな気がする。
その心の声が聞こえたのか、七松は私の顔を見てニヤリと笑ったあと、耳にキスしてきた。


「うわあああああ!やめっ、やめっ、止めて!」
「そうか、お前首じゃなくて耳なのか」
「違う!ちょ、離れろ!もう止めろってば!」
「止めるつもりだったけど面白いものを見つけたから止めん」
「ぎゃああ!おまっ、性格悪すぎだぞ!どけよ!」
「止めてみろ」
「よーし、やってやろうじゃないか!」



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