似た者同士と寝顔 八左ヱ門と三郎が地下の白い部屋に向かっている最中、アルモニアファミリーとレゴーラファミリーが交戦していた。 とは言っても、戦闘に長けている文次郎と小平太に劣化人間を使ったとしても勝てるわけもなく、勝敗は明らか。 それでも諦めないレゴーラのボス、両城。 「両城さん、いい加減諦めたらどうですか?劣化人間の在庫も、底を尽きるでしょう?」 「君たちが諦めてくれたらこんな無駄な争いをしなくてすむんだけどなぁ…」 「ですから、諦めるのはあなたですよ。それとも本当に殺して差し上げましょうか?」 「僕が諦める?君たちより前からこの街を支配してきたのは僕らレゴーラだ。それなのにお前たちのボスときたら…。まるでハイエナなような男だと笑っていたよ」 「ははは、我がボスを愚弄ですか。いやはや…参ったな。文次郎、小平太。両城さんが挑発しておられるぞ」 「だからどうした」 「私たち、ボスをバカにされても怒らんぞ?」 ニヤリと笑う三人に両城も笑って、「だろうね」と答える。 この街は昔、レゴーラだけが支配していた。そこへ、力をつけたアルモニアファミリーがやってきたのだが、そのときはまだ弱小ファミリーだったのでなかなか活動ができなかった。 しかし、どうしてもこの土地は欲しかった。 一旦この地を離れ、力をつけてから、仙蔵たちにここを任せたのだ。 力をつけたとは言っても、レゴーラに太刀打ちできるような資産も力もない。 本部で力の強いものを集め、ここを任せられた。いわば彼らは賭けだったのだ。 「なんたって私たちは、アルモニアファミリーのはみ出し者だからな」 とは体裁を守るための言葉で、所詮は彼らも必要とされてない者だったのだ。 賢すぎる仙蔵や長次、伊作、強すぎる文次郎や小平太、留三郎はただの脅威。 いつ食われてもおかしくないとボスを含めた幹部たちは彼らをここに追いやった。レゴーラに潰されることを願って…。 皮肉がこもった笑顔で両城に発砲するも、壁に隠れて避ける。 劣化人間を囮にして両城も攻撃を仕掛けるものの、文次郎と小平太が劣化人間を潰して、仙蔵の目の前から障害物を無くした。 「さようなら、両城さん。あの犬たちは私が使ってやるから安心して逝け。この街も任せてもらおう」 「君たちみたいな強い者は嫌いだ」 「すまないな、強すぎて」 遠くにいるのに、まるで近くで会話をしているような二人。 文次郎と小平太によって作られた道に再び銃口を向けて、発砲。 銃弾は両城の頭を打ち抜き、男はのけ反ってゴトリと床に倒れた。 「さぁ終いだ。さっさと後始末に入るぞ。伊作、メディアと警察は任せた」 銃をさっさと締まって携帯で伊作と連絡をとる仙蔵。 その後ろでは、文次郎が血を拭いながら劣化人間にトドメをさしていく。人間とは言え、こいつらは存在してはいけない。 小平太に至っては若干理性が飛んでいたので、文次郎がそこらへんに落ちていた銃を投げつける。勿論、簡単にかわされた。 口だけが笑っている小平太が文次郎を振り返り、ゆらりと立ち上がって攻撃を仕掛けてくるのだが、文次郎も簡単にかわして小平太の胸倉を掴んだあと、ゴツン!と頭突きを食らわせた。 「このバカたれが」 「ったいなぁもう!」 「いいから後始末するぞ」 「ぶー!…にしても、呆気ない最期だったな」 「そんなもんだ。所詮賢いだけなんだよ」 「じゃあさっさと潰しておけばよかっただろ?」 「バカ小平太。この男は滅多に表に出てくることはねぇんだよ。顔もきちんと把握できてなかったしな。今回、あいつらがいたから簡単に潰すことができたんだ。いいから行け」 「解ったってば!頭ど突くなバカもんじ!」 「んだと!?」 「貴様らいい加減にしろ」 仙蔵に強めの口調で叱られたあと、二人は黙ってその場を後にする。 これからきっと忙しくなる。そんなのは解っているが、並ぶ死体を見て溜息をはく仙蔵。 「また忙しくなるな」 だが、おかげでこの街を手に入れることができた。力をつけることができた。おまけに強い犬も手に入れた。 自分たちの野望も順調に進んでいる。だからこそ今、油断してはいけない。 溜息を吐いた口を強く結んで振り返ると、留三郎と長次が六人を連れて立っていた。 「どうした?お前たちはもう屋敷に戻れ。囮ご苦労だったな」 悪びれもなく言う仙蔵を無視し、床に転んでいる両城を見て六人は目を見開いた。 死んでくれて嬉しいのに、何だか複雑だ。 自分たちが殺す、殺したいと思っていたのに、他の人に殺されると寂しさを感じる。 いや、寂しいと言っていいのか解らない感情に彼らの表情は複雑そうだった。 「人間なんて……呆気ないものだな」 三郎の言葉に全員は目を瞑る。 殺したいと思っていたが、彼らの中で両城は死なない人間だと思っていた。そう錯覚していた。 昔から彼に恐怖を植え付けられていたから、無意識に「勝てない人」「死なない男」だと勘違いしていた。 だから目の前の死体を見ても、実感できない。この死体は実はフェイクなんじゃないかとも思っていまう。 なんて言ったらいいか解らないこの感情を噛みしめ、仙蔵の元へと揃って向かう。 「どうした。囮という言葉に「ありがとうございました」 兵助がハッキリと、心から気持ちを込めたお礼を伝えて頭を下げたあと、全員も揃って頭を下げる。 会釈とかではなく、きちんと腰から折って頭を下げている六人に仙蔵の目は丸くなって、彼らの後ろにいる長次と留三郎を見た。 二人は苦笑しながら首を左右に振る。 「気持ち悪いこともあるものだな。だが、それでここの後始末ができるわけではない。邪魔をしないよう、さっさと屋敷に戻れ」 照れくさいのか、本当に邪魔なのか解らなかったが、仙蔵は軽くあしらって六人の横を通りすぎる。 長次と留三郎に何か言われつつもこの階を後にした。 残った六人はようやく顔をあげ、もう一度両城を見てから、彼らはエレベーターを使うことなく階段で一階に向かう。 会話はなかった。喋らなくても何だかお互いの言っていることが解るような気がした。 まだ怖いし、多分これからも能力の副作用に悩まされると思う。 これからが大変なのは重々周知しているのだが、六人の肩からようやく力が抜けたのだった。 「あ、お帰り仙蔵」 ビルをあとにした六人は、外に用意されていた車に乗り込んでアルモニアファミリーの屋敷へと向かった。 戻れと言うなら戻る。こんなときだけは素直に命令に従う彼らを、仙蔵たちの部下は変な顔をしたが、屋敷へと送り届けてあげた。命令だったから仕方がない。 屋敷にやって来た六人は用意されている部屋に入って、倒れるように揃って寝転び静かに眠りについた。 屋敷に残って、色々と彼らをサポートしていた伊作は笑って彼らを見届けたあと、寝ずに後処理を続けた。 ようやく現場が落ち着き、レゴーラファミリーの傘下に加わっていたマフィアとの話し合いも終わった。 それからようやく屋敷に戻ってきたのはあれから丸一日が過ぎていた。 たった一日で全てをうまくまとめてしまうのは、やはり仙蔵だからだ。 それをサポートする五人もやはり強くて、頼り甲斐がある。 まだ細かな処理は残っているが、区切りがついた五人はスーツを脱ぎ捨て、指定位置に座って身体を休めた。 「お茶淹れてくるよ」 「いい。伊作も疲れてるだろう」 「身体は動かしてないから大丈夫だよ。寧ろちょっとパソコンから離れたいから」 そう言って伊作は腰を擦りながら立ち上がって、全員分のお茶を注ぎに部屋を出た。 さすがに疲れているようで、誰一人発言しない。 「ふふ、お疲れ様。はいどうぞ」 お茶と一緒にチョコレートなどの甘いお菓子も一緒に持ってくると、全員が口に含んで脳みそも休めた。 「……ところで伊作。あいつらはどこだ?」 「彼らならいつもの部屋だよ。あれからずっと寝てる」 「呑気なもんだ…」 仙蔵が椅子から立ち上がると、ギシリと音がたった。 足音をたてて、彼らが眠っている部屋に向かう。 六人が眠っている部屋は仙蔵たちの部屋からしか行けない。出るにしても、仙蔵たちがいる部屋を通ってからじゃないと廊下に出ることができない。 常に監視したいので、この部屋を使わせていたので、最初は文句を言っていたが、彼らはたった数日で慣れてしまった。 昔から監視されていたから慣れてんだろうな。と、留三郎がいつか呟いたことを思い出し、扉を開ける。 「…全く、これじゃあ野犬ではなく、子犬にしか見えんな」 安心しきった顔で小さく寄り添って寝ている彼らを見た仙蔵は、その穏やかな寝顔に逆に毒気を抜かれてしまった。 仙蔵に続いて伊作、留三郎、長次、文次郎、小平太と部屋を覗いたが、五人も仙蔵と同じような反応をして笑う。 寝顔のせいか、彼らのあんな様子を見てからかどうか解らないが、今こうやって警戒することなく眠っている彼らはただの子供しか見えなかった。 「子犬ならこれからたくさん躾してあげないとね」 「伊作…。両城みたいなこと言うんじゃねぇよ」 「は?両城、そんなこと言ったのか?」 「私たちは両城と会ってないからな…。ちょっと聞きたかった」 「躾なら私得意だぞ!とりあえずどっちが上か教えてやればいいんだろう?」 「お前たち楽しそうだな」 『一番楽しそうな仙蔵に言われたくない』 「ははは!」 彼らもまた、マフィアらしからぬ顔で笑うのだった。 とある六人の物語 ▼ 2013/3/3 執筆終了:完結 ( TOPへ △ | ▽ ) |