夢/マフィア後輩 | ナノ

薬と決着


レゴーラファミリーのボス、両城に連れられた二人は懐かしいトラウマの場所、白い部屋へとやって来た。
勘右衛門は気絶していたので反応は見れなかったが、千梅は雷蔵や兵助同様の反応を見せ、両城は満足そうに笑う。
部屋の隅に置かれていた可愛らしくラッピングされた箱に手を伸ばし、千梅に与えてあげる。
箱の中にはウサギのぬいぐるみが入っていたが、千梅は首を横に振って「いらない」と断った。


「そうだよね…。千梅はもう大きくなったんだからこんなのだとダメだよね…。じゃあ今度は可愛い服にしようね?でもそれまではこれで我慢しててくれるかい?」
「うう…!」
「でも雷蔵は喜んでるんだよ!あの子はいつまで経っても子供らしくて可愛いよ!兵助は大人びていたからぬいぐるみじゃ喜んでくれなくてさ…。あ、でも、勘右衛門が来てくれて嬉しいだろう?」


血だらけの勘右衛門を兵助の前に投げ捨てると、兵助の目にようやく光りが戻って勘右衛門を抱き上げる。


「勘右衛門!勘右衛門!」
「本当に兵助は勘右衛門が好きなんだねぇ…」
「勘右衛門に……何で…っ」
「だって勘右衛門が僕に逆らったんだもん。いけないことをしたらお仕置きだって、解ってるはずなのにね」
「勘右衛門っ……!お願いします……勘右衛門を、助けて…くださいっ…!」
「兵助がお願いするなんて珍しい!うん、そうだね。じゃあ助けてあげる。でも先に八左ヱ門と三郎を捕まえてからにしよう。あと邪魔者を排除してからだ」


勘右衛門を抱きしめる兵助の頭を撫でたあと、雷蔵に目をやると、雷蔵はこちらを見ておらず、クマのぬいぐるみを抱きかかえたまま白い床を見つめていた。
そんな雷蔵に愛しさを感じて、雷蔵の頭も撫でて、二人から離れる。
入口に立ち尽くしている千梅の手を取り、白いソファに座らせてあげた。


「ごめんね、千梅。本当だったら千梅に女友達を作ってあげたいんだけど、どの子も失敗しちゃってさ…。あと、君のことをお姉ちゃんって呼ばせてあげようとしてるんだけど……君たちみたいにはいかないや」


それで劣化人間たちは自分たちを時々「お兄ちゃん」や「お姉ちゃん」と言っていたのか。
だが、今の四人にはそれを理解するだけの判断力はなく、小さくなって身体を固めている。


「じゃ、いい子にしてるんだよ」


電気は消すことなく、扉を閉めると、そこには自分たちと白いものしかない。
密閉された空間に四人は声を発することもできなかった。


「ったくあの男、どこ行きやがった…!」


千梅と勘右衛門が捕まり、地下の白い部屋に連れて行かれたあと、八左ヱ門はビル内で迷子になっていた。
コンビを組んだ小平太は理性を軽く飛ばして勝手に暴走。
理性を飛ばした小平太は、能力を持ってしても追いつくことができなかった。
能力が落ちたか?と思ったが、ただの体力切れだった。
自分も相当な化け物だとは思うが、あいつは体力バカだなと溜息を吐いて階段をあがり続ける。
自分たちの目的は順番にフロアの雑魚を殺すのみ。
抵抗をしない敵は無視して、歯向かってくる者のみだが、抵抗しない奴のほうが少なく、なかなか上にあがることができない。
だけど、いくつかの階は既に鎮圧されていたりした。きっと文次郎や長次たちによるものだろう。
そこで体力回復を図ったあと、再び小平太を探しに向かう。


「最近の科学力は便利だよね。たった数年でここまでの進歩と遂げるんだから、「凄い」の言葉しか出てこないよ」


携帯を片手に廊下の角からは両城が現れる。
各階にカメラを設置しているから、彼らがどこにいるかなど簡単に把握することができた。
勿論、解っていたのだが、まさかボスが一人でやってくるとは思ってなかった。
足を止めて身構える八左ヱ門。
他の誰より落ち着いた呼吸で両城を見据えて、拳に力を込める。


「お帰り、八左ヱ門」
「っうるさい!黙れ!」
「おや、悪い子だね八左ヱ門。誰がそんな汚い言葉使いを教えたんだい?あぁ、彼らだね。だから外の奴らとつるんだらダメだって言ったんだ。皆を守るためにあの部屋を用意してるのに勝手に散歩に出ちゃってさ…」
「なん、で…ボスがここに…!雷蔵と兵助はどこにやった!」
「仲間思いなところは変わらないね。兵助と雷蔵、それから千梅と勘右衛門は先に部屋に戻ってるよ。あとは八左ヱ門と三郎だけだから、早く戻ろう?」
「断るッ!俺は……俺たちはここを潰しに来たんだ!ボスを殺して、あいつらを助ける!」
「正義感の強さも昔のままか…。だけど、八左ヱ門は僕にどうやって勝つの?力を使って?あんなに力を使うのが嫌いだったのに…成長したんだね。凄いよ、八左ヱ門!じゃあ僕も協力してあげよう」


そう言って取り出したのは小さなケース。それを開けると注射器が二本入っていた。
一本を手に持ち、八左ヱ門に見せると、先ほどの強気な姿勢から打って変わって弱気な声をもらす。
八左ヱ門の目には注射器しか映っておらず、両城が一歩近づくと、八左ヱ門は一歩後退した。


「どうしてさがるの?協力してあげるって言ったのに…。あ、そっか!八左ヱ門は昔からこれが苦手だったよね」


八左ヱ門は精神的には強いと言ったが、恐怖心は未だに克服できない。それが注射器だ。(勿論、八左ヱ門だけではない)
注射をされたあとは必ずと言っていいほど、激痛に襲われる。
それも嫌いだが、昔、力が暴走して大事な仲間を傷つけたことがあった。
千梅を瀕死寸前にまで追いやったこともあったし、他の仲間を殺したこともあった。だから注射器が怖い。
両城が近づくたびに後退して逃げようとするのだが、ドンッと壁に追い詰められてしまった。逃げ場はないし、足がその場から逃げようとしない。


「可愛い可愛い八左ヱ門。いくら僕より大きくなったって言っても、あのときのままで安心したよ」
「―――がっ!ああああああ!」


壊れないように八左ヱ門を抱きしめたあと、首筋に注射器を差し込むと、八左ヱ門はのけ反って悲鳴をあげた。
両城は八左ヱ門から二、三歩離れて崩れ落ちて、もがき苦しむ彼を見下ろしている。


「あああああ!ぐっ、あ…っ止めろ…!くっそぉおおおおお!」


打たれた場所から血管が浮き上がり、骨の軋む音が聞こえた。
薬の投与で八左ヱ門の細胞は変化して、力を増幅させる。
だがその早い細胞変化に身体がついていくことができず、鋭い痛みが全身を駆け巡る。
痛みを耐える八左ヱ門だったが、我慢できなくて壁を軽く殴ると、いとも簡単に崩れ落ちた。


「いっ…(てぇよ…クソォ!筋肉が、骨が、身体がいてぇ!止めろくそっ。止まれよ…!止めろ止めろ止めろ!)」


痛みで大量の汗が溢れて床に落ちる。荒っぽい呼吸を繰り返して理性を保とうとする。
少しでも力を加えたら壊れてしまう。こんなの人間じゃない。
自分がどんどん人間じゃなくなっていく。また仲間を殺してしまう。
自分が怖いと蹲って痛みを耐える八左ヱ門に、そっと背中を触る両城。
ビクリと震える八左ヱ門は涙を流している目で男を見上げた。


「八左ヱ門、痛いよね?ほら部屋に戻ろう。そしたらきっと落ち着くよ。あそこには大事な仲間がいるからきっと耐えることができる。そしたらもっと強くなれるよ?」
「がっ、う…!やめ、…ろッ…!」
「八左ヱ門にもこれをつけてあげないと。―――ほら、よく似合う」


千梅のときと同じく、ドックタグをつけてあげる。八左ヱ門の番号は「No,29」。
ドックタグをつけられた八左ヱ門は観念したかのように目を瞑り、全てを諦めた。


「八左ヱ門!」


そこへ、仙蔵と別れて応援に来た三郎が現れた。
銃口は両城に向けて、必死な声で八左ヱ門の名前を呼ぶと、八左ヱ門は目を開けて「三郎…」と返事をする。
両城は三郎の顔を見てからさらに喜び、立ち上がった。


「三郎!よかった、君から帰って来てくれたんだね。君は賢いから捕まえるのが難しくてね…。とは言ってもカメラで居場所は解るんだけど」
「お前、八左ヱ門から離れろ…!」
「…三郎、雷蔵も兵助も千梅も…僕のことを昔みたいにボスって呼んでくれたよ。三郎も昔みたいに呼んでよ。それとも呼び方を忘れたかい?」
「うるさい!いいから八左ヱ門から離れろ!八左ヱ門っ、しっかりしろ!お前の足で起き上がれ!」
「あのね三郎、兵助も雷蔵も自分からあの部屋に入ってくれたんだ。勿論、八左ヱ門も三郎も入ってくれるよね?あのときのままだから安心して?」
「黙れって言ってるだろ!私たちはもう戻らない!お前たちを殺しに来たんだ!」
「雷蔵が戻って来て、って言ってるのにかい?」
「ッ!」
「雷蔵もね、三郎には戻って来てほしいみたいだよ。あの部屋で寂しそうに三郎の名前ばかり呼んでる…。君たちは一緒にいないとダメなんだ。それとも三郎は雷蔵が嫌いなのかい?散歩している間に喧嘩でもしちゃった?それはダメだよ、仲良くしないと」
「黙れ黙れ黙れ!雷蔵はそんなこと言わない…っ。雷蔵はそんなことっ…!うるさい、黙れ!雷蔵と兵助たちを返せ!もうお前たち………私たちを自由にしろッ…!」


最後の切実な願いを呟くも、両城は笑って首を横に振った。


「君たちに自由は必要ないよ。それに君たちは僕に逆らえない。僕がそう躾したんだからね」
「寄るな!く、来るな!」
「三郎は昔から変わらないなぁ…。躾が足りなかったかな?―――三郎、動くな」


鋭い声と目つきに三郎の動きが停止した瞬間、両城の背後から銃声が響き、膝を廊下について振り返る。


「口が過ぎたようだな、レゴーラのボス様?」


そこには仙蔵と文次郎、小平太がいた。発砲したのは仙蔵。
長次たちから報告を受けた仙蔵は、三郎に囮になれと言って、わざと油断させたのだ。
瞬間、三郎は八左ヱ門に駆け寄り、抱き起してその場から逃げだす。
逃げられると両城も解っていたのか、部屋に隠れていた部下たちが飛び出し、二人を捕まえようとしたのだが、文次郎と小平太の邪魔により阻止される。


「アルモニアファミリーの幹部たちが…。君たちもあの子たちが欲しいの?僕のだからあげないよ」
「ああ、欲しいな。便利な能力だと思うし、この私が使ったほうが有益だ」
「あれは僕が育てたんだ。一匹たりともくれてやるか。一匹でも逃げると言うなら、全員殺す」
「それは残念だったな。―――死ぬのは貴様だ」



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