夢/マフィア後輩 | ナノ

保護と再度


「今さっきまで後ろにいたのにどこ行ったんだよ吾妻の奴!長次、どうする」
「……きっと大丈夫だ。不破や久々知みたいに誘拐されただけだと思う…。だから、先に仙蔵たちと合流して地下へ向かおう。きっとそこにいる」
「…でもよ…!」
「留三郎、情は捨てろ。…お前はまだ甘い」
「うるせぇ!年上だからって偉そうに言うな!」
「そこがお前のいいところでもあるけどな…。さ、行くぞ」
「ックソ!本当にどこ行ったんだ…」


仙蔵たちと合流することになった三人が誰もいない廊下を歩いていた。
留三郎が先行し、長次、千梅と歩いていたのだが、気づいたら千梅がいなかった。
すぐに周辺の部屋などを探したが、気配すら感じられない。
もしかしたらもうこの階にはいないかもしれない。そう思って長次は先を進むことにした。
徐々に千梅たちに心を開き、気になる存在となっていた留三郎は慌てたが、長次によって止められる。
留三郎はアルモニアファミリー幹部の中で一番年齢が若く、感情で動こうとする。
それを止めることができ、留三郎も素直に従うのが長次か伊作である。
エレベーターに乗り込む前も後ろを振り返って千梅を探すが、やはり見つけることはできなかった。


「大丈夫だったかい、千梅」
「…っは…はっ、はっ、はっ…!」


その千梅はレゴーラファミリーのボスと一緒にいた。
心配そうな顔と声で先ほど留三郎に叩かれた頬に手を添え、声をかけるも、千梅は酸素を吸い続けていて答えることができない。
強くなりたいと思った。仲間を助けたいと強く願った。踏ん張って、立ち上がったのにトラウマは千梅の前に現れ、言葉を失う。


「ほら、だから言っただろう。外は危険だって…。でも千梅たちにも散歩が必要だもんね?」
「……ボス…!」
「あぁ、お帰り千梅。少し見ない間に可愛くなったね。うーん、こんなに可愛くなったんだし、千梅は雷蔵たちとは引き離さないといけないかもね」
「っあ…!や、だ…っ。やだ…!」
「ダメだよ。君たちが交尾しないようにするのも僕たちの役目だもん。部屋はちゃんとあとで作るから、とりあえず今日はあの部屋に戻ろうか。雷蔵と兵助も待ってるよ」
「っやぁだぁああああ!!」


ボスが千梅の手首を掴んで歩き出そうとするのだが、千梅が悲鳴をあげて抵抗する。
だが、力で男に勝てるわけもなく引きずられて行く。
痛覚を消して、火事場の馬鹿力を使えば拒絶して逃げ出すことができるのに、彼女はパニックに陥っていた。
ボスはクスクスと笑って「懐かしいなぁ」と呟く。


「長い間散歩してたから、君たちの力がどうなったか調べないとね。そうだ、眠たくならない薬を打って、爪を剥ごう。何日まで持つようになったか楽しみだよ。前は三日が限界だったもんね」
「うわああああ!離してぇ!やだぁあああ!ハチィ!助けて!」
「大丈夫だよ、千梅。八左ヱ門もすぐに連れて行くから。アハハ、君はいつも八左ヱ門の背中に隠れてたっけ?そうだ、千梅!八左ヱ門と交尾して子供産んでみるかい?君たちの子供ならきっと素質があるよ!そしたらより完璧な人間を作ることができる!何で気付かなかったんだろう…」
「やだっ!やだやだ!やだよ、怖い…っ!助けてください!お願いします、止めてください!」
「うーん…。早く雷蔵たちに会わせてあげないと壊れちゃうね。そんなにあいつらは怖かったのかい?解った、皆を捕まえたらあいつらも壊してあげる。あ、そうそう。これも返してあげよう。大事なドックタグだろ?」


手を離すと勢い余って床に尻餅をつく。
ボスは懐からシルバーのドックタグを取り出した。
大きめのプレートには、「吾妻千梅」「雌」が書かれており、他にも血液型とここの住所が刻まれている。
もう一つの小さめのプレートには「No,33」と刻まれていた。
チャリンと音をたて、首にかけてあげると、千梅の動きが止まる。
このドッグタグは、ここにいたとき…ここに入ったときにつけられたもので、これを外そうとするときついお仕置きをされていた。
身体はよく覚えており、これをしているときは大人しく彼の言うことを聞く。勿論、悲鳴をあげることも許されない。


「いい子だね、千梅。さぁお部屋に戻ろう。千梅のためにぬいぐるみを用意してたんだけど、もうぬいぐるみじゃないほうがいいかな。でも雷蔵は喜んでたんだよ。あと兵助もね―――」


彼の声は聞こえるものの、千梅は感情を押し殺して、世界を拒絶した。


「アハハ!すっごい量ですねー。これ全員殺しちゃっていーんすかぁ?」
「遊んでないで殺せ」
「うっわー…怖いなぁ…」


小平太と八左ヱ門が派手に暴れて敵を引き付けている間に、文次郎と勘右衛門が幹部と戦っていた。
大量の下っ端はあの二人に任せ、自分たちは幹部やそれなりに強く賢い敵を相手にして、仙蔵から連絡が入った通り地下への行き方を聞く。
だが、どいつもこいつも「知らない」の一点張り。いくら太ももを打ち抜こうが彼らは決して口を割ることなく絶命していった。


「こいつら幹部のくせに弱すぎですねー。あはは、見てみて!こいつ折れて骨が出てる!」
「……おい尾浜」
「え、なんですか?」
「お前…力使ってるのか」
「はいっ。じゃないとこんな怖いところでこんなに暴れることできませんよー!あー、楽しっ」


確かに彼らはトラウマがある。そのトラウマのせいでレゴーラファミリーと戦うことができない。
知っているが、死体を見て喜ぶ勘右衛門に背筋が寒くなる。
自分も人殺しに慣れているとは言え、ああやって笑うことはできない。
そりゃあ戦うのは好きだが、死んでしまった相手には興味がない。興味があるのは戦っている間だけだ。


「(…いや、そう教えられてきたのか…?)」


憶測だが、彼らはここで育ってきた。
きっと自分たちの言うことを素直に聞き、殺人に長けた人形人間を作りたかったのだろう。
そう思うとやはり彼らには同情してしまうし、こうやって笑っている勘右衛門が何だか可哀想に思えて目を細める。
その視線に気づいた勘右衛門は文次郎を振り返って、真っ赤に染まっている手を軽く振ってニヘッと笑顔を向けた。


「さ、この階はもう静かになりましたし、次の階に行きましょうか」
「…。ああ、そうだな。だが、上の階は長次と留三郎がいるからいい」
「そうなんですか?じゃあ二つ上に行きましょうか!」


レッツゴー!と軽快に階段へ走り出す勘右衛門を文次郎は追いかける。
上の階には長次と留三郎がいるから一緒に合流しようとしたのだが、もしかしたら彼らはもういないのかもしれないと、止めた。


「……千梅?」
「どうした尾浜」
「すみませーん、俺ちょっとここの階調べていいですか?」
「ダメだ」
「お願いしますよー!千梅がいるような気がして…」
「長次たちもいるから大丈夫だ」
「いいから行かせて。悪い予感がする」


長次たちがいた階まであがって、勘右衛門の足が止まる。
その階も静かだったが、何だか怪しい雰囲気を感じて、文次郎に頼む。
先ほどまで笑っていたのに、今は真面目な顔だ。
その真面目な目に負け、長次たちに連絡をとると、千梅が消えたと報告を受ける。


「解った。だが尾浜、油断するなよ」
「解ってる!」


そこで初めて銃を取り出し、千梅が消えたその階を走って行く。
文次郎は勘右衛門を数秒見たあと、階段をあがる。
長次の判断には賛成だし、自分もきっとそうしていた。
だけど自分も悪い予感しかしない。
いくら勘右衛門が強いとは言え、もしトラウマと遭遇することになったら彼はどうなるんだろうか。
気になったが、自分もきちんと任務を全うしないと仙蔵たちに迷惑をかけてしまう。


「地下の行き方さえ解ればこっちのもんなんだよ」


廊下を走って、一つ一つの部屋を調べる。だがそれは長次と留三郎もした。
どの部屋にも千梅はおらず、気絶している敵しかいない。


「んー…どうしたもんかねぇ。でもここに千梅がいそうな気がするんだけど…」
「おや、勘右衛門じゃないか」
「―――」


背後からの声に振り向きざまに銃口を向けると、トラウマの根源ボスが千梅と一緒に立っていた。
気配なんて感じられなかった。
内心驚いたがそんな感情を顔を出すことなく、「お久しぶりです」と話しかける。口は微かに震えていた。


「アルモニアファミリーのボスがあなたを探していますよ?」
「うん、そうみたいだね。こんなにしちゃって…。でも、まずは皆を迎えに行かないと。だってようやく帰って来てくれたんだからね」
「っ違う!俺たちはここを…ボスを殺し、殺す…殺しに…っ…!」
「ん?どうしたんだい、勘右衛門。ほら、いつも見たいに笑ってごらん。君には笑顔がよく似合うからね」


銃口を向けたまま片手で頭を支え、苦悶の表情を浮かべた。
だがすぐに立て直し、ニコニコと笑ってボスの後ろにいる千梅に声をかける。


「千梅、こっちおいで。帰ろう」
「……」
「何を言ってるんだい、勘右衛門。それは僕の台詞だよ。それにこれから千梅はお部屋に帰るんだ。それからまたお勉強するんだよね?健康チェックもしないと…。あ、そうだ。勘右衛門、千梅に手出した?勘右衛門と交尾してもいいんだけど、僕は「うるせぇなぁ!」


声とともに発砲したが、男に当たることはなかった。


「ははっ、凄いね勘右衛門!喜怒哀楽全てをマスターしたのかい!?さすがだよ!君は兵助に続く優秀な子だったもんね。信じてたよ!」
「黙れ!いいから千梅を離せよ!千梅を……俺たちを犬扱いするな!」


今、勘右衛門にとっていらない感情は、恐怖と楽観だ。
それらを怒りで押さえつけて男に襲いかかるのだが、男は笑ったまま勘右衛門の攻撃をヒラリといとも簡単に避けた。
突き出された拳の腕を掴み、自分に引き寄せてから鳩尾に膝を食らわすと、「ガハッ!」と胃液を吐き出して地面に膝をつく。


「動きも昔に比べてよくなっているけど、誰が鍛えてあげたか忘れたの?」
「ぐっ…!」


痛みで動けなくなっている勘右衛門を千梅は黙って見下ろしていた。
助けたい。一緒になって戦いたいのに、少しでも動くとドッグタグが鳴って動きが止まる。
勘右衛門のその音を聞いて動きが鈍り、その隙をつかれて足で顔を蹴られた。
床に寝転ぶ勘右衛門をそのまま踏みつけると、呻き声がもれる。


「うん、多少強めにお仕置きしても大丈夫だね。昔は遠慮してたんだよ。君たち小さかったからさ…。そうだ、折角なんだしどこまでもつか実験しようか!」


ニコリと微笑んだあと、勘右衛門に一方的な暴力を振るった。
最初は逃げようとしたり、立て直そうとしていた勘右衛門だったが、男が急所をついてくるたびに胃液や血を吐き出して動きが止まる。
数分後にはボロボロになって床に静かに寝ている勘右衛門…。
真っ赤に汚れていた手は黒く変色しており、その手を踏みつけると乾いた血液がぽろぽろと床にこぼれ落ちる。


「それなりかな。やっぱりこういう痛みは千梅が強いからね」
「ひ…っ」
「あぁ大丈夫だよ千梅。君は殴りつけるより、切り裂いたほうが楽しいし、いい実験になる」
「…あ、う…!」
「さぁ勘右衛門。君もお部屋に戻ろうね?兵助が君を待っている」


屈んで髪の毛を掴み、持ち上げたあと優しく声をかけてあげるも、勘右衛門の意識はそこになかった。
しょうがないと手を離し、首根っこを掴んで歩き出す。
引きずる音が静かな廊下に不気味に響き、千梅もその後ろをついて行く。
歩きたくないけど、歩かないと怒られるし、放っておけない。


「あいつらが地下に辿り着く前に皆を捕まえないと」


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