夢/マフィア後輩 | ナノ

強さと弱さ


「だから言っただろうが!」
「ごめん、三郎…」
「私はいいから八左ヱ門に礼言っとけ!」
「解ったよ…」


八左ヱ門に助けてもらい、待合室に戻って来た千梅は開口一番に怒鳴られた。
「やかましい」と言うような視線を集めたが、誰一人として気にしていない。
シュンと沈んだ千梅は隣の八左ヱ門に身体を向けて、素直に頭を下げると、未だに握られたままの手を強く握りしめた。


「千梅…頼むから一人にならないでくれ…」


震える声の八左ヱ門に千梅は泣きそうな顔になって、コクンと声を出すことなく頷く。
仲間が大事すぎて、誰かが一人でも欠けると自分の体調が悪くなるのもある。
その気持ちが解るから千梅は文句をこぼすことはなかった。
二人を見た三郎もようやく肩の力を抜いて、カラカラだった口内を水で潤す。


「千梅に首輪つけとかないとダメだね」
「あと勘右衛門にもな」
「あはは、僕らって本当に野犬なのかも」
「笑えない冗談だな」


今度は大人しく兵助と勘右衛門が戻って来るのを待つ。
その兵助と勘右衛門は、待合室より狭いが、それなりに広い部屋に入った。
大勢が座れる机には各マフィアのボスと右腕。ボスが座って、右腕がその斜め後ろに立っている。
机も、インテリアも、その部屋にあるもの全て一級品で、勘右衛門は「わーお」と部屋に似つかない声を出す。
だが、興味がないので誰も彼らを見ない。


「そこに座れ。全員揃ったら始める」


部屋の一番奥(上座)に座っていたのはアルモニアファミリーの仙蔵。その横には文次郎が目を伏せて立っていた。
仙蔵の言葉通り兵助が椅子に座って、勘右衛門がその後ろに立つ。
キョロキョロと他のファミリーのボスと右腕を見て色々な観察をすると、さすがに仙蔵に咳払いをして怒られてしまった。


「兵助。兵助もそこに座っていると格好よく見えるよ」
「そうかな。勘右衛門も凛々しいのだ」
「俺はいつだって凛々しいよ。あと格好いい」
「お前らは黙れんのか」


だけど黙っていることができなかった。
別に、緊張という感情を消しているわけではないが、こういう静かな場所に来るとテンションがあがってしまうのが勘右衛門。
兵助は特に緊張してないし、勘右衛門が話しかけてくるならちゃんと答える。ただそれだけ。
再び仙蔵に怒られて黙るが、最後のファミリーが来るまで何度も欠伸をして過ごした。


「―――では始めようか」


約束時間ギリギリにやってきたマフィアが座ると同時に仙蔵が発言する。
いつもだったらすぐに話し合いや報告などをするのだが、今日は違った。
仙蔵が立ち上がり、兵助と勘右衛門の名前を呼んで立ち上がるよう命令する。
兵助は立ち上がり、真っ直ぐと仙蔵を見返す。
あの仙蔵に一歩も引かない強い目力に鼻で笑って、一枚の書類を皆に見せつけた。


「久々知兵助、尾浜勘右衛門、鉢屋三郎、不破雷蔵、竹谷八左ヱ門、吾妻千梅。以上の六人を正式にマフィアとし、我がアルモニアファミリーと同盟を結ぶことにした」


書類にはそういったことが詳しく書かれていた。
最初から彼らの手元に紙が配られていたが、改めて仙蔵が言うと少しだけ空気がざわつく。
アルモニアファミリーと同盟を結びたいファミリーはいくつかいる。だがアルモニアファミリーは断ってきた。(有益にならないから)
それなのにどうしてこんな奴らと…。という雰囲気に変わり、そこでようやくボスたちの視線が二人に集まった。
二人は特に反応せず、黙ったまま仙蔵を見ている。
いや、仙蔵ではなく文次郎を見ていた。そのことに気付いているはずなのに文次郎は目を伏せたまま、全てを仙蔵に任せている。


「同盟、ということは解るよな」


最後に釘を刺すと、誰もが視線を手元に戻す。
兵助は椅子に座って、同じく視線を手元に落として、書類に書かれた文字を目で追う。
仙蔵はいつものように各マフィアたちから近況を聞き、本部から受けた報告を彼らに告げた。
そのことも全て手元の書類に書かれている。


「もし、そういった者に心当たりがある奴がいたら今すぐ報告してほしい」


各マフィアに告げているのに、仙蔵の目線は兵助に向けられていた。


「……」


兵助の顔は先ほどと変わらない。
もし本当に兵助たちの仕業なら多少は動揺すると思っていたのだが、そんな素振りは見られない。
いや、兵助という男はそもそも感情を外に出さない。隠すのが上手だ。
これが八左ヱ門や千梅ならきっと解っていただろう。
片方の眉根だけ寄せて、近くに座っているマフィアのボスに話を聞く。
だが文次郎は見逃さなかった。
何かの空気を感じて、初めて勘右衛門を見ると、彼の手が少しだけ震えて、そのあと楽しそうに笑った。


「(あぁ、力を使ったな)」


やはり彼らは何かを知っている。
今すぐ奴らを殺したくなったが、規則は絶対。ボスである自分が規則を破ってはいけない。
右うなじに彫っている竜の刺青を触ったあと、首をコキンと鳴らすと勘右衛門と視線が合った。
ニコニコと人当りのいい笑顔。それとは対照的に、文次郎は子供が見たら泣き出しそうな顔で勘右衛門を見ている。
静かな争い。一歩も譲ることなく、睨み合ったまま会合はすぐに終了した。


「そうだ。最後に一つ。お前たちのファミリー名を決めよう。何かあるか?」


兵助たちはマフィアではないので「アルモニア」ファミリーみたいに名前がない。
仙蔵の言葉に目を伏せたまま、「どうぞお好きに」と言うと、「そうか」と素っ気ない言葉が反ってくる。


「刺青通り、「ウロボロス」でどうだ。他の皆(みな)も問題なかろう?」
「ハイエナや野犬でいいですよ。では私たちはこれで。勘右衛門、帰ろう」
「うん!では失礼します、潮江さん」
「何を言っておる。お前たちは残れ。同盟同士、少し話そうではないか。他の者は悪いがすぐに帰ってくれるか」


この場が怖いわけではないが、ここにはいたくないと兵助は勘右衛門を連れて出ようとしたが、止められる。
残ったのは四人。


「何か」
「お前たちの目的はなんだ」


相変わらず結論しか求めない言葉だな思いながら文次郎は、仙蔵の隣に座って、机に肘をつき彼らを睨む。
立ったままの兵助と勘右衛門は一度顔を見合わせたあと、身体を彼らに向けた。


「「マフィアの全滅」」
「我らがいるから政府も助かっている。我らが潰れたら困る一般人もいるぞ?」
「関係ありません。俺たちはマフィアに強い恨みしか持っておりませんし、この街の者ではない」
「何故そんなにマフィアを嫌う?」
「え、そんなの簡単じゃないですか。最低だからでしょ?」
「はっ!まるでガキみてぇな理由だな。これだけ強かったらもっとちゃんとした理由があるのかと思ってたんだがな」
「ガキだと思いますよ。でも、潰さないと俺らは一生………」


初めて仙蔵たちに見せる、揺れる瞳。
兵助の言葉が詰まると同時に勘右衛門が背中で庇って、ニコッと微笑む。


「俺たちガキなんでぇ、俺たちの幸せのためにマフィアを潰したいんです。あなたたちが潰れて困ると言っても、マフィアに強い恨みを持ってる人たちも大勢いますよね?」
「本当にお前たちはガキだな。そんな精神が弱くて大丈夫か?虚勢は見ていて滑稽だぞ。崩してやろうか?」
「あなたたちでは壊せると思いませんけどー?」
「吾妻が犯されたのは誰のせいだろうな?とてもいい声で泣いていたそうではないか」
「アハハ!俺もあれには興奮しちゃいましたよー。千梅がようやく女の子っぽくなってからさぁ。相手は不快ですけどね」
「尾浜、力を使わず私と会話しろ」
「命令聞くと思いますか?それとこれ、素なんですけど」
「だとしたら吾妻は可哀想だな。実はお前たちがあの女を慰み「失礼します」


喋るにつれ、ピリピリとした空気が増していく。
それを切ったのは勘右衛門の陰に隠れていた兵助。
手を取って、部屋を後にする。


「……脆いな」
「脆すぎだろ」
「漠然とした理由は解ったが、引っかかる…」
「伊作が言っていた言葉か?」
「あぁ」
「…。あいつら、この事件に見覚えがあるらしいぞ」
「は?」
「いや、尾浜が少し動揺してた」
「……文次郎…。何故それを早く言わん!」
「った!?」
「だからお前は名ばかりボスなんだ!ったく…」


足を組み直した仙蔵は黙り、両肘をついたまま机の一点を見つめる。
彼らの今までの言葉、行動を考え、一つの疑問が生まれた。


「……マフィアがそんなに憎いなら、何故レゴーラを襲わない…?」
「仙蔵?」
「…ほう、そうか。伊作の言葉の意味が解った。なるほどな。本当の復讐はレゴーラか」


どれも憶測だし、根本の理由はハッキリしないが、解った。解ってしまった。


「本部の与四郎に頼んでいたものも届いているだろう。戻るぞ文次郎」
「解ったんなら俺らにもちゃんと伝えろよ」
「自力で理解しろ」
「あーはいはい…」


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