夢/マフィア後輩 | ナノ

会合と再会


仙蔵たちから届いた招待状を持って、再びやってきた六匹の野犬。
屋敷の前には黒くて高そうな車がたくさん停まっており、スーツに身を包んでいる強面の男たちがその近くに立っていた。
勘右衛門が運転する車から降りると、視線が一斉に彼らに集まる。
兵助たちが来ることは知っていたみたいで、強い憎悪も向けられ緊迫した空気が流れた。


「車ここでいいの?俺らが離れたら壊されるんじゃない?ほら、ここにいる人たち陰湿そうな顔してるし」
「勘右衛門、まだ入り口だ。遊ぶんじゃない」
「でも兵助もそう思うでしょ?」
「思っても口にするなと兵助は言っているんだ。解れ」
「じゃあ貴重品だけ持って中に入ろうか。皆、ちゃんと武器持ってる?」
「雷蔵…武器も持ち込み禁止だって…。ってそこのバカハチ、聞いてんのか」
「冗談だって!こんなもんなくたって俺自身が最強だからな」
「うわー、ガキくさい台詞…」


だが彼らは臆することなく、いつもの口調と態度で車から離れて、会合が開かれる大広間へと向かう。
彼らが車を停めた場所はこの間八左ヱ門が壁を壊した付近。だが壁は既に修復されていた。
彼らの持つ経済力はやはり凄かったが、ところどころヒビ割れが見える。


「どうしたの、三郎」
「いや。体裁を保つのも大変だなぁと思っただけだ」


前を歩いていた雷蔵が足を止め、首を傾げて聞くと三郎はフッと口元を緩めて雷蔵の背中をぽんぽんと叩いて先を歩き出す。
ぎゃーぎゃーとうるさい八左ヱ門と千梅の後頭部を叩いて、アルモニアファミリーの下っ端らしき人物に屋敷を案内してもらう。


「ここから先に入れるのは手紙に書いていたように二名だけです。どちらの方が?」
「俺と勘右衛門です」
「宜しくねー!」


長い廊下を歩いて辿り着いた場所は大きな扉の前。
案内人は足を止めて無表情の顔で業務的な台詞をはくと、兵助と勘右衛門が返事をする。


「では残りの方はご自由に。待合室はそちらの扉になります。但し、争い事は禁止ですので」
「兵助、頼んだぞ」
「勘右衛門、遊んだりふざけたりしたらダメだからね?」
「寝るなよー!」
「ハチじゃないんだし寝るかよ。二人とも頑張ってね!」
「ああ、行ってくる」
「兵助のことは俺に任せといて!」


扉越しから重苦しい空気が漂ってくるというのに彼らはやはりいつも通りに笑って中へと入って行った。
案内人が扉を閉め、残りの四人に頭を下げてから元来た廊下を戻って行く。
四人は言われた待合室に向かって扉を開けると、外にいた彼らより落ち着いた雰囲気を持つ男性たちがたくさんいた。
きっと幹部の人たちなんだろう。
空気で察した彼らは特に挨拶することなく中に入る。


「なぁ、これって勝手に食っていいのか?」
「ああ、食べていいらしいぞ。飲み物も自由だから好きにしてこい」
「よっしゃ!雷蔵、あれ食いに行こうぜ!」
「うん、普段食べれないようなものばかりだしいっぱい食べたいね!」


部屋にはたくさんの食事が並べられており、それを自由に食べることができる。
立食パーティのような会場に千梅は首を傾げて三郎に近寄った。


「毒とか入ってんの?」
「入ってないだろ」
「じゃあ何でこんなパーティみたいな…」
「さぁな。特に意味はないんじゃないか。それより、ほら。千梅も食べろ」


近くのテーブルに並んでいた小さくて可愛いケーキを小皿に取り分けて、水と一緒に渡す三郎。
会合というものを知らないから疑問ばっかりなんだろうな、と割り切ることにして素直に受け取った。
周囲からの視線が気になるものの、争いは禁止。
さすがにこの人数を四人で相手にするのは無理だ。おまけに地の利は彼ら…もっと言うならアルモニアファミリーにある。
今回は何もすることなく、兵助からの報告を大人しく待つ。


「お、これうまいな。今度作ってみるか…」
「ほんと!?じゃあこのデザートも作って!」
「ああ、任せろ。これよりうまいもん作ってやる」
「さっすが三郎!」


千梅と食べ差しあいこをしながら自分も美味しい料理で胃を満たす。
八左ヱ門と雷蔵を見るとお皿を大量に持って、人間のくせにほお袋を作っていた。
汚い食べ方に小言を言いたくなったが、こんなところでオカンを発揮するのも恥ずかしいのでグッと堪える。


「三郎は根っからのオカンだね」
「そのオカンというのは止めろ」
「面倒見がいいよね」
「お前たちが大雑把すぎるんだ…」
「そのうち胃痛めるよ?」
「じゃあ少しぐらい大人しくしたらどうだ?」
「善処します。あ、ちょっとトイレ行ってくるね」
「私も行こう」
「いいよ、大丈夫。それに三郎はマフィアたちの会話を盗み聞きしてくるって仕事があるでしょ?」
「じゃあ八左ヱ門と雷蔵たちを「もういいってば。ここでは争い事禁止だし大丈夫」


持っていたお皿を三郎に渡し、千梅は部屋を出て行く。
争い事は禁止だが、何があるか解らない。
すぐに八左ヱ門を呼んで千梅を追わせた。


「トイレに行くだけだしそこまで過保護にならなくても…」


とは言うものの、一人になるのはやはり心細かった。
おまけにここはアルモニアファミリーの屋敷。所々見覚えあるところがあって少し前のことを思い出してしまう。
聞いた話によると、兵助と勘右衛門が入った部屋にマフィアファミリーのボスとその右腕が集結している。
その他の仲間たち、幹部は先ほどの待合室に、下っ端たちは外に控えているらしい。
だから屋敷を歩き回っても誰とも遭遇しないと思っていた。


「すみません、どいてください」


そうもいくわけもなく、千梅は知らないマフィアファミリーの下っ端らしき男たちに囲まれてしまった。
八左ヱ門たちより大柄な彼らに囲まれ、逃げる道を失う。
まだ男に囲まれたり、話しかけられるのが怖いが、そんな素振りを見せることなく真っ直ぐと彼らを見上げて言った。


「テメェらハイエナの分際でなに人様の屋敷にあがってんだよ」
「どうやって招待状を貰ったんだろうなぁ?どうせ潰したファミリーから奪ったんだろ?お呼びじゃねぇんだ、出て行きな」
「ちゃんと立花から頂きましたが?それより知ってますか、人間様」
「あぁ?」
「争い事は禁止ですよ?さっさと私の手首から手を離して頂けますか?」
「そんなのテメェが黙っておけばいいだけの話だろ?」


これだから下っ端は!
彼らの言葉に一瞬殺気を飛ばして、反対の手で殴り飛ばしてやろうかと思ったが、背後の男から「ぎゃっ!」という短い悲鳴を聞こえて振り返る。
男は千梅にのしかかり、千梅が慌てて彼から離れると、ベシャと床に倒れた。
倒れた男を見ると知らない靴が映って、足、太もも、腹、と順番に見上げていくと、会いたくない男がニマニマと笑って立っていた。


「よぉ吾妻、久しぶりだな」
「―――……七松ッ…!」


相変わらずスーツをまともに着ておらず、ポケットに手を突っ込んだまま、浮かせていた左足を床につける。
小平太が床に倒れている男の後頭部を蹴ったんだろうとすぐに解ったが、小平太に助けられたと思うとさらに殺意が湧いた。
小平太を見た男たちは舌打ちをしてその場を去って行く。
広い廊下に千梅と小平太の二人。
あからさまな殺意と警戒を向けるも、小平太は変わらず笑っている。


「助けてやったんだ、言うことはないのか?」
「お前と話すことなんてない。しいて言うなら「死ね」」


何度も言うが、争いは禁止だ。ここで自分が争ってしまえば、皆に迷惑をかけてしまう。
しかも相手はアルモニアファミリーの幹部。
悔しいが一対一では勝てないし(それでも自分が殺したい気持ちはある)、何より武器がない。
拳を握りしめて背中を向けて小平太から離れると、小平太は「あれ?」と言うような顔で首を傾げたあと千梅を追いかけ、その腕を掴んで廊下の壁に投げつける。


「(ハチみたいなバカ力だな!)」


今さっきから思っていたが、小平太の気配は察しづらい。
背後をとられ、腕を捕まれ、壁に投げつけられた千梅は背中と後頭部を打ち付け、痛くはなかったが呼吸が一瞬止まってしまった。
小平太は両手を壁について千梅の逃げ場をなくす。
今の状況を把握すると同時にブワッと鳥肌が立って、思わず目線を落としてしまった。
だがすぐにあげて睨みつけると、犬歯を見せて笑っていた。


「孕んだか?」


その言葉に胃から何かが込み上げてきたが、気合いと根性で必死に抑える。


「種なしの精子で孕むと思うか?」
「お前の身体がおかしいんじゃないのか?お前たち人間じゃないだろ?」
「それはお前もだ」


負けじと言い返すのだが、勝てる気がしない千梅の額から冷や汗が流れる。
一歩動こうとすると睨まれ、動きが止まってしまい、ギリッと奥歯を噛みしめた。


「折角つけてやった噛み跡も綺麗になくなってるし、面白い力だな」
「私に触るな!」


固まる千梅の身体に手を伸ばし、襟を掴んで首元を露わにする。
あのときにつけられた小平太の噛み跡は綺麗になくなっていたが、赤い跡だけは残っておりニヤリと笑うと千梅は激しく抵抗してきた。
所詮は女の力。小平太に勝てるわけもなく、両手首を捕まれてしまい再び動きを止められる。


「孕んでないならもう一回「おいテメェ!」
「ハチッ!」


八左ヱ門の怒声が廊下に響いて、千梅も安堵の声で彼の名前を呼んだ。
あからさまにホッとした表情を浮かべる千梅を見て、今度は小平太が不快な顔をする。
折角千梅を捕まえたのに…。と思って、「ん?」と首を傾げて千梅を解放した。
千梅より八左ヱ門と遊ぶほうが楽しいはずなのに、おかしい。
解放された千梅はすぐに八左ヱ門の元へ走り、手を取って待合室へと走って行く。


「離せ千梅!あいつまた―――…あいつ…ッ!」
「争いは禁止だ!いいからさっさと行くぞ!」


小平太は追いかけることも、何かを言うこともなく二人を見送った。
千梅を握っていた手を見つめたあと、頭をかいて、二人とは違う方向へ歩き出す。


「………噛み跡が消えるのはつまらんな。もっと遊びたかった」


TOPへ |

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -