夢/マフィア後輩 | ナノ

笑顔と事件


「はぁ…」


仙蔵たちと同盟を結び、自分たちを本当のマフィアにすると言われた数日後、会合の招待状がきた。
月に一度は絶対に開くというマフィアたちの会議だ。(報告、視察などとも言われている)
会合場所はアルモニアファミリーか、レゴーラファミリーの屋敷で行われることになっているが、今回はアルモニアファミリーの屋敷で行われるらしい。
場所、時間、そして招待状のみしか書かれていない手紙をつまむのは千梅。
体育座りの千梅は膝に顎を乗せたまま、つまんだ手紙を見上げる。


「またあそこに行くのか…」


そりゃあ、レゴーラファミリーに行くよりアルモニアファミリーの屋敷でするほうがいい。
千梅の隣に座っている勘右衛門が名前を呼んで、ソファの背もたれに回していた手で千梅の後頭部をぽんぽんと撫でてあげる。


「嫌だったら俺と留守番しとく?俺も行きたくないし」
「なに言ってるんだ勘右衛門。お前と兵助は絶対に行かないといけないだろ」


軽い口調でニコニコと笑いながら言うもんだから、二人の目の前に座っていた三郎がパソコンに目を落としたまま会話に割り込んできた。
眼鏡をかけたまま、上目使いに睨んでくる三郎に勘右衛門がヘランと笑って見せると、ハァ…と溜息をはく。
手を止めて眼鏡を外したあと、眉間にシワを寄せて目を瞑る。


「兵助は俺たちのボス。そして肝が据わりまくっている勘右衛門がいくほうがいい。私はどちらかと言えばサポート側だしな」
「確かに、兵助と三郎が会合に参加したら冷戦になっちゃうもんねぇ。でも千梅はいいでしょ?」
「勘右衛門…」
「ああ、千梅が嫌なら無理することない。雷蔵と留守番しとくか?雷蔵もな、中在家を見ると興奮してしまうんだ…。頼りになるんだがなぁ」


自身の肩を揉んだあと、ソファにもたれてオフモード。
だらける三郎は少し珍しく、ぷっと千梅が笑うと恥ずかしそうに「なんだよ」と言って座り直す。


「でもさ………あいつら来るんでしょ…」
「いや、欠席だそうだ。基本的に二大マフィアが揃って会合をすることはないらしい」


アルモニアファミリーの屋敷で会合をすれば、レゴーラファミリーは絶対にこない。反対になってもだ。
三郎の言葉にあからさまに勘右衛門と千梅はホッといきをつく。
いつの間にか手を握りしめており、手のひらには汗。


「ううん、行くよ。皆と一緒なら大丈夫だし、行かなかったら負けた気分になる」
「あははっ、千梅は負けず嫌いだよねー!じゃあ一緒に行こうね。俺も守ってあげるー」
「ありがとう、勘右衛門。私も勘右衛門守ってあげるー」
「千梅、男前ー!惚れるー!抱いていー?」
「そこは「抱いてー」でしょ」
「はっちゃんと同じにしないでよ。俺、千梅のこと本当に好きだよ。だから、抱いていい?」


頬に手を添え、反対の手で抱き寄せて距離をつめる。
勘右衛門の真ん丸な目が細くなって、低い声で真剣な顔で伝えるが、三郎はどうでもよさそうな目で紅茶が入ったマグカップに手を伸ばす。
するとタイミングよく扉が開いて、ドサッと荷物が床に落ちる音が耳に届く。
そちら側に目を向けると、買い出しに出ていた雷蔵と八左ヱ門が立っていた。
荷物を落としたのは八左ヱ門で、わざとらしく蒼白な顔をして両手で口を抑える。雷蔵は笑顔で見ていた。


「こ、この泥棒猫…ッ!千梅くんは私のものよ!」
「ふふっ、残念だったわね竹子ちゃん。千梅は私のよ」
「違うんだ八子!俺を信じてくれ!」
「竹子か八子か統一しろよ…。お帰り、雷蔵。遅かったな、また迷ったのか?」
「うん、ごめんね。でも美味しそうなお菓子はたくさん買ってきたよー」
「千梅ー、ちゃんと俺に合わせてよ」
「いや、普通は八子ちゃんじゃね?」
「どっちでもいいからちゃんとしろ。タイミングよく帰宅したのによー」


ブツブツと文句を言いながら落とした荷物を屈んで拾い上げたあと、そのまま頭を抱えた。
「どうしたの?」と千梅が聞けば、雷蔵が気づいたように「あ!」と声あげて、八左ヱ門は首を横に振る。


「もっかい卵買ってきます…」
「バカ左ヱ門」
「あはは!はっちゃんさいこーっ」


大きな身体が小さくなっていくのを四人はそれぞれ見送って、バタンと閉まる。
それと同時にお風呂の扉が開いて「あれ?」と姿を現したのは兵助。
タオルを腰に巻いて、髪の毛から滴が垂れているにも関わらずペタペタと歩く兵助に、三郎が目を吊り上げて「兵助!」と近づく。
呼ばれた兵助が振り返ると、下腹部に入れたウロボロスの刺青がチラリと見える。


「ちゃんと拭け!部屋を濡らすな!何でそんな恰好で出てきたんだ!」
「いや、服がなかったから…」
「だから服を用意してから風呂に入れと言っただろ!持って行くから戻れ!」
「勘ちゃん……知ってたけど兵助ってエロいよね。雰囲気とか身体とか」
「女の子が凝視しながら言う言葉じゃないよ。でもそうだね、俺もそう思う。刺青もなんかエロいしねぇ」
「それは勘右衛門もじゃん。内太ももだなんてマニアックな…」
「女の子限定なんでーす。あ、千梅も―――は、どこだっけ?」
「え?ああ、私は腰。お尻の上ー」
「えろーい!」
「えろい女に私はなりたい」


千梅も女の子だから見れるよ?といつものように言おうとして、話を逸らす。
気づかれてないし、気にしていないだろうけど、さっきのは軽率だったと心の中で自分を叱る。
だけど千梅は兵助の身体を見てあのことを思い出していた。
いつもだったら凝視してからかっているのだが、今は目を若干逸らしてそれ以上は喋らない。
あのことを思い出してしまうし、思い出すと身体が震える。それを仲間に知られるのが何よりも怖い。
だが、嬉しいこともあった。月ものがきてくれたのだ。(嬉しいことという表現はおかしいが)
いつもはわずらしいとか、なくなればいいのにと思うが、今回ばかり言葉にできないほど感謝をした。
でも憎悪だけは消えず、今も思い出すだけで殺したくなる。


「(つーか、あの男のせいで皆とくっつくのもちょっと怖ぇんだよ…!)」


大好きな仲間。家族。なのに怖いと思ってしまう自分が憎い。
自分の性格からして、時間が経てば前みたいに戻るだろう。戻ってほしい。


「あ、そうだ三郎。新しいスーツ買わない?会合のときに必要でしょ?」
「………」
「…なに?」
「衣類に無頓着な雷蔵が…っ!今日は赤飯だな」
「もう、大げさだよ!」
「三郎パーパァ、俺、もっと高くて格好いいスーツが欲しいなぁ?あと腕時計とぉ、指輪とぉ…」
「三郎パパァ、私………いや、私普通のでいいや。あ、男装していいんだよね?」
「勘右衛門、お前は自分の金を使え。千梅はそうだな、髪の毛結んでシンプルな恰好にサングラスしておけ。女だがツルペタだから解らんだろ」
「おい!止めろよ、こう見えて繊細なんだぞ!」
「とりあえず全員購入しとく。雷蔵、頼むからすぐに破かないでくれよ」
「八左ヱ門じゃあるまい破かないよ!」
「三郎、服まだか?」
「あー、はいはい。待ってろ兵助」
「ねぇ千梅、僕ってそんなに破かないよね?八左ヱ門が一番雑だよね?」
「うーん、雷蔵も結構雑って言うか…」
「えーっ!そんなことないよ!千梅のほうが破いてるの知ってるんだからね!三郎に隠れて捨ててたでしょ!」
「雷蔵しーっ!」
「おいバカ女。あとでその話詳しく聞かせてもらおう」
「うわー…三郎のマジ顔こわー…」
「三郎、寒い…」
「もっかい温もってこい!」
「あああもう雷蔵のバカ!ってか何でそんなこと知ってるの!?」
「んーっ!んんん!」
「あ、ごめん。口も鼻も抑えてた」
「っはぁ!し、死ぬかと思った…。酷いよ千梅…」
「ただいまーっ。―――千梅くん、酷い…。今度は雷子さんと浮気だなんて…!」
「違うんだ八子!俺はお前だけを愛してる!」
「バカ左ヱ門!お前は何度卵を割れば気が済むんだ!」
「あ………」
「アハハ、はっちゃんバカすぎっ!」
「は、八左ヱ門…大丈夫?今度は僕が行こうか?」
「バカだなハチ!学習しろーい」
「いいか八左ヱ門。卵を扱うときは湯豆腐を扱うときのように優しくだぞ!」
「兵助!お前はもう一回風呂入って温もって来いって言っただろ!」
「もう一度入ったら湯豆腐になってしまう。本望だがな」
「あああああもうどいつもこいつも!」


笑っている彼らとは対称に、アルモニアファミリーの幹部たちは険しい顔をしていた。
空気は重苦しく、あの小平太ですら黙っている。
部屋に中心に置いてある机に上半身と下半身が真っ二つに分かれた人間の写真が数枚。
人間は元は仙蔵の部下だった。他の写真も同じような殺され方をしている。


「―――仙蔵、やはりあいつら殺そう。こんなことできるのあいつ…竹谷しかいない」


静かな口調で喋りだしたのは小平太。
人間を真っ二つにするなんてできるわけがない。
もし、道具を使って真っ二つにしたとしても、周囲の壁に血飛沫が飛んでいるはずだが、飛んでいなかった。
殺したあと、ここに持ってきたとも考えにくい。


「いや、待て小平太。多分犯人は違う」
「あいつら以外に誰がいる!私の部下も殺された…っ」
「本部からの報告が遅れたな。ここ最近、ドラッグをやっている人間が増えてきたらしい。そのドラッグが少し不可解でな……」


両膝に両肘をついて、指を絡ませる仙蔵。
「伝えたいことがある」と言われ、本部に戻っていた仙蔵と文次郎は不可解なことを聞いたという。
本部の街でドラッグが流行っているらしい。そのドラッグは仙蔵たちがいる街で作られているらしく、レゴーラファミリーが怪しいと言われた。


「そのドラッグってのと、この事件と、なんの関係があるんだよ」
「このドラッグを打ったもしくは飲んだ人間は、人間を超越することができるらしい。人間を真っ二つにするなど、簡単だろうな」


人体強化。
全員の頭に浮かんで再び黙り込んだ。


「今回の会合で、そのことを他のファミリーたちに伝える。勿論、あいつらの反応も見させてもらう。それでこれがあいつらの仕業だと思ったら今度こそ殺せ。いらん」
「………」
「どうした伊作。何か言いたいことがあるのか?」
「…。いや、ちょっと…。それとは別にそのドラッグって手に入る?ちょっと研究したいんだけど」
「いや、無理だ。だから注意しろ、見つけろ、と本部から言われたのだからな」
「そうだよね、ごめん。でもそんな薬……―――…あぁ、だとしたら彼らがマフィアを潰す理由がちょっと解ったかも」


仙蔵と長次と伊作はアルモニアファミリーの中では賢い部類に入る。
特に仙蔵はズバ抜けている。この若さで幹部に入り、ボスに信頼されているほどだ。
長次は自分と同じような目線でサポートしてくれるから信頼しているし、助けてもらっている。
伊作は二人とは違った視線を持って二人を支えている。
時々、仙蔵たちより賢くなるときがある。今回がそれだ。


「…どういうことだ?」
「留三郎、解らない?まぁ僕の憶測だけどね。でも今度の会合に来るんだよね?そのときに何で戦うか聞いてみようよ。多分、この話をすると顔色が変わると思うけど」


優しい雰囲気と笑顔の持ち主である伊作だが、結構性格が悪い。
隣に座っている留三郎は「またか…」とでも言うような顔をして写真に目を落とす。
残虐な殺され方だ…。
自分も八左ヱ門がやったものばかりだと思っていたが、どうも違うらしい。
見つけ次第同じような目に合わせてやると目を光らせた。


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