夢/マフィア後輩 | ナノ

興味と同盟


椅子に座った仙蔵は目だけを持っていた書類に落とし、乱雑に机に投げ捨てた。
仙蔵の前には長次と小平太が真面目な顔で仙蔵を見ている。
緩くスーツを着ている長次の胸ポケットにはサングラスではなく、眼鏡。
見た目はちゃんと着ているように見えるが、ボタンを二つほど外して、動けば鎖骨が見える。
腕のボタンもわざと外しており、動きやすさを重視していた。
小平太は変わらずまともに着ていない。
お揃いのピアスがキラリと光り、仙蔵は目を細めて口を開いた。


「鉢屋は瞬間記憶能力、久々知は動体視力向上と射撃、尾浜は感情の削除、竹谷は超人的な身体能力の向上、吾妻は痛覚の削除と治癒」
「不破は……持ってないらしい…」
「この報告書がなければ貴様ら全員足を打ち抜いておったわ」


本部に一時帰還していた仙蔵と文次郎が帰って来て、屋敷の崩壊に怒りを通り越して無になった。(無我の境地とも言う)
あれほど、「暴れるな」と言ったのにこれだ。
しかも頼りの長次も戦いを楽しんだらしく、怒られているというのに彼の顔は若干だがスッキリしている。
言いつけの一つも守れない仲間、しかも幹部に頭が痛くなって片手でこめかみを押させると、隣に立っていた文次郎が長次の報告書に手を伸ばす。


「これが本当だったらこいつら人間じゃねぇだろ」
「だから僕が連れて帰って研究したかったのにー!それなのに小平太が邪魔するから!」
「なはは、すまんな伊作!」
「ああもういい…。屋敷の修繕費はお前たちに出してもらう」


溜息を吐いてそう告げると、屋敷に残った四人が不満そうに声をあげ、ギロリと睨みつける。


「で、どうすんだ仙蔵。能力も解った、アジトも解った。潰すか?」


能力が解れば作戦を立てられる。数にも勝てないだろう。
文次郎の言葉に仙蔵は表情変えず、「前言った通りだ」と答えた。
特殊な能力、しかも使えそうな力ばかりだ。欲しくてたまらない。
多少(いや、かなり)性格に難はあるが躾は得意だと口角をあげると、全員が目を細めてどこか遠くを見つめた。


「聞いた話によると精神的ダメージを与えたみたいだしな。他にも穴を見つけたことだ、あいつらのアジトに行くか。面倒だが、どっちが強いか思い知らしてやる」


最初は興味なかった。また犬がキャンキャン吠えてる、程度だったが、次第に邪魔な存在へと変わった。
取引の邪魔はするし、大事な部下は殺されるし、とにかく目障りで殺してしまおうと思った。
だが、彼らを知っていくうちに「欲しい」という願望が出てきた。おまけにかなり使える特殊能力を持っているなら尚更欲しくなる。反対に、他の奴らにとられてなるものか!とも思う。
報告書を見る限り、強いと思っていた六人は、精神的に弱いことが解った。
そんな奴らを調教して、自分の駒として使いたい。
仲間でさえ目を背けるような顔で仙蔵は「くっ」と笑い、足を組み直した。


「その為にはまず順序を踏まねば。人間と犬はパートナーになれるが、野犬とはなれん」


おまけに、事情も知らない他のマフィアに殺されたり、誘拐されたりしたらたまったもんじゃない。
あいつらは誰の犬かというのを、他のファミリーにもちゃんと教えてやらなければならない。


「留三郎、六匹分の首輪を用意しとけ。それと長次、お前も一緒に来てくれ」


さぁ、可愛いペットを飼う準備を整えるぞ。
これほど楽しそうに笑う仙蔵はいつ以来だろうかと全員が心の中で呟いた。


「次に勘右衛門がこう動いて…、で、三郎と雷蔵がここを…」
「…あ、あのよ兵助」
「なんだ、八左ヱ門。今作戦会議中なんだからあとにしてくれ」
「はんなりさん豆腐をコマにして作戦会議開くの止めようぜ…っ」


首輪を持った仙蔵たちが来ることも知らず、彼らはこれからのことについて作戦会議を開いていた。
彼らに選択しを持ち掛けられるのは解っている。そして答えは「はい」だ。
でも、だからと言って傘下になるわけではない。
「休戦」もしくは「同盟を組もう」と持ち掛ける気満々だ。
襲撃してからまだ二日しか経っていないが、彼は通常の生活を送っていた。
千梅の怪我が一番に治り、八左ヱ門もほぼ完治している。
雷蔵の精神も落ち着き、今もはんなりさん豆腐をコマに、作戦を説明している兵助を見て苦笑いを浮かべている。


「このはんなりさんは気に入らなかったか?ふっ…八左ヱ門は贅沢な男だな。よし、なら八左ヱ門はこっちの少し大き「そうじゃない!そうじゃないんだ兵助!」
「もー…兵助の豆腐バカどうにかならないの?真面目なのに不真面目すぎるよ」
「諦めようよ、千梅。ちょっと甘いもの食べて休憩しよっか。雷蔵、紅茶淹れてー。俺お菓子準備するー」
「集中力が続かないよなお前たちは…。兵助、はんなりをどけてくれ」
「三郎っ、「はんなり」じゃなくて「はんなりさん」だ!」
「………はんなりさんをどけてください…」
「仕方ないな…。勘右衛門、俺には豆腐一丁を」
「はいはい」


もし、同盟を結んでくれたとしても、自分たちのやるべきことは変わらない。
マフィアという存在を全て消し去りたい。
順番に、徐々に周りから力を削いでレゴーラファミリーを壊滅させるのが自分たちの目標であり、野望だ。
だが、「レゴーラ」の名前を出すだけで全員取り乱してしまう。
過去の記憶にどうしても震えてしまい、自我を保てない。
それを克服しようと努力するのだが、根付いたトラウマはなかなかそうはさせてくれなかった。


「―――おい、お客さんだぜ」


雷蔵に紅茶を淹れてもらい、勘右衛門が用意したお菓子を食べていると八左ヱ門が鼻をスンッと鳴らして低く囁いた。
とうとう来たかと三郎の口端は自然とあがり、玄関の扉を睨みつけたまま立ち上がる。
コンコン。とノック音がしたあと、「どうぞ」と返す。自然と心臓が早まった。


「初めまして、野良犬諸君」
「何度目まして、アルモニアファミリーの幹部様」


男くせに綺麗な顔をしたアルモニアファミリーの幹部、立花仙蔵は爽やかな笑みを三郎たちに向ける。
仙蔵の言葉に答えたのは三郎。優しい口調だが、どこか棘があった。
仙蔵が一歩部屋へ踏みはいると、長次と留三郎も入って仙蔵の左右に並ぶ。


「こんな埃っぽい棲み処に長いことおれんから簡潔に話すぞ。我がアルモニアファミリーの傘下に加われ」


仙蔵の言葉に八左ヱ門は舌打ちをして睨みつけると、留三郎が殺気を放って睨み返してきた。
元々目つきが悪い留三郎の睨みは凄みを増し、大体の奴はこれに臆するのだが、小平太に慣れた八左ヱ門にはあまり効果はなかった。
長次は部屋に入ってからずっと雷蔵を見ている。雷蔵も逸らすことなく長次を睨み続けている。
あのときの勝敗を今すぐつけたい。そう言うように身体がそわそわと動いている。


「同盟で」


仙蔵と同じく簡潔に、スパッと言い切ったのは野犬のボス、兵助。
三郎より前に出て彼らを背中にまっすぐと伝えるのだが、仙蔵は見下して鼻で笑う。


「野犬が人間様と対等になれると思うか?」
「譲れません」
「小さなプライドだな」
「そちらは汚いですね。まだ俺たちのほうが綺麗なのでは?」
「綺麗ではない、ガキだと言っているんだ」
「そのガキの能力を欲しがっているのでしょう?欲しければ相応の態度が必要かと思いますよ。大人でしたら解りますよね」
「今すぐここで首輪つけて保健所送りにしててやってもいいんだぞ?いくら特別な力を持っているとは言え、手に入らないと思ったら私は遠慮なく殺す」
「人数はこちらの方が多いですし、まだ貴方たちが知らない能力も持っております。この部屋に入った時点でお気づきになりませんでしたか?死にますよ」
「……口達者な男だな」
「同盟しか認めておりません」


勿論、ただのハッタリだ。仙蔵もそれを解っている。
一歩も引かない兵助の姿勢にほんの少しだけ見直した。とは言っても、野犬からペットショップに売られている犬へと印象が変わっただけだが。


「貴方たちが俺たちに選択肢を与えるように、俺たちも貴方たちに選択肢を与えます。同盟を組みますか?それとも死にますか?」


兵助の背後にいる五人の目が光る。
殺気を身体中にまとって、いつでも攻撃できる準備が整っているのがよく解った。


「―――同盟を結んでやろう。しかし条件がある」
「内容によりますね」
「最低条件だ。その力を私たちに貸せ」
「解りやすくて助かります。場合によります」
「クソガキが。容易く手折ってやってもいいんだぞ」
「ありがとうございます。話も終わりましたし、こんな埃臭い部屋から早く出て行って頂けますか?俺たちも同じ空気を吸いたくないので」
「まずはお前たちに躾が必要なのがよく解った。行くぞ長次、留三郎」


誰一人気を許すことなく、話し合いは終了し、仙蔵は踵を返す。
玄関のドアノブに手をかけたあと、顔だけ振り返って「そうだ」と会話を続けた。


「同盟を結ぶならお前たちにはマフィアになってもらう必要があるな。正式なマフィアとするため、一週間後の会合に顔をだせ。詳しいことは手紙を送る」
「……」
「マフィアが嫌いなのにマフィアになるなんてとんだ酔狂な奴らだ。が、お前たちが同盟を持ち掛けたんだぞ。言葉に責任を持て」


仙蔵たちが出て行ってから、暫く沈黙で立っていたが三郎がソファに座り、順番に全員も腰をおろす。
解っていたし、覚悟していたことだが、自分たちがマフィアになるのはやはり抵抗があった。気分も悪い。


「一週間後か…。それまでにやることやって、覚悟決めておかないとな」


兵助の言葉に全員が黙って頷き、数人が頭を抱えたのだった。


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