夢/マフィア後輩 | ナノ

DVDと脱出


「―――」


千梅が誘拐され、きっと何かしらコンタクトを送ってくるだろうと思って、三郎たちはアジトで大人しくしていた。
夕方がきて、夜がきて…。そして一晩が過ぎて、朝。
新聞を取りに降りた三郎がそれを見つけた。
(それと一緒に一輪の花、「マツムシソウ」が置かれていたが気付かなかった)
すぐに部屋に戻って小包を開けると、何も記載されていないDVD一枚と、手紙。
三郎がすぐにDVDを用意し、兵助が手紙の中身を読む。
手紙には、「ごちそうさまでした」としか書かれておらず、首を傾げた。
だが、その意味はDVDを見て理解することができた。


『……』
『いい目だな。だが、今の自分の立場を忘れるなよ。私はいつだってお前を殺すことができる』
『殺すなら殺せばいいさ。それを覚悟の上で私たちはここに戻って来た』
『戻って来た?お前たち元々マフィアだったのか?』
『喋ると思うか?』
『喋れ、と私は命令してるんだがなぁ』
『お前たち汚いマフィアと一緒にするな、それだけしか言えん』


暗い部屋に千梅と小平太。
ベットの上で拘束されている千梅はいつものように毅然とした態度で小平太と言い争っていたが、進むにつれその表情が崩れていく。
この時点で大体予測ができた五人だったが、目を奪われたように映像を見ていた。
身体も動かず、進んでいく行為に言葉すら失ってしまった。


『なぁ千梅…。大嫌いな男に孕まされる気分はどうだ?』
『ッ…あああああああ!』


千梅の悲鳴を画面越しに聞いた八左ヱ門はギュっと目を瞑り、テレビを破壊しようと拳を振り上げる。
しかし雷蔵と勘右衛門に止められてしまった。


「離せェエエエ!」
「ハチッ…!ダメだ…っ」
「落ち着け八左ヱ門。壊したらダメだ!」
「こいっ…こいつ…!殺してやる…ッ、絶対に殺してやるッ!千梅がっ……千梅……ッの野郎ォオオオ!」


憤怒する八左ヱ門と、泣きそうな表情で八左ヱ門を抑える雷蔵。
勘右衛門も食いしばったまま八左ヱ門を抑えている。
兵助は顔面蒼白になって目を背けた。聞きたくないと耳を抑えようとしたが、グッと堪えた。
三郎だけは真面目な……冷たい目で映像を見ている。
行為はそれからも続き、結局千梅の意識が飛ぶまで犯され続けた。
最後には悲鳴すらあげることができなくなった千梅を見て、八左ヱ門は「クソォ!」と行き場のない怒りを吐き出す。


「静かにしろ八左ヱ門。これからだ」


リモコンを強く握ったまま三郎が喋る。
その言葉に全員も見たくない画面に目を向けた。
千梅の衣類は破かれ、セットしてあげた髪も乱れている。
このカメラの位置では千梅の表情は見れないが、見れなくてよかったと変なところで安心してしまった。


『よいしょっと…』


画面の向こうの小平太は平然とした顔でカメラの前に移動し、ニコッと愛想のいい笑顔を向けた。


『こいつ、お前らの大事な女なんだろう?すまんな、私が最初に食べてしまって』


小平太の挑発的な言葉に八左ヱ門の額には青筋が浮かんだ。
だが睨みつけたまま破壊しようとしない。
拳を強く握りしめたまま、小平太の次の言葉を待つ。


『お前らの誰かとヤってると思って黄色いバラを贈ったのに…。あ、でも不貞って意味はあってるかもな。っと…それはもういいや、ただのお遊びだったし。で、どうする?お前たちの仲間は私の部屋にいる。お前たち五人で襲撃してくるか?今なら文次郎と仙蔵がいないから楽勝だぞ。どうせどこにあるか知ってるんだろう?じゃあ早く来てこいつを救出しろ。じゃないと、本当に孕んでしまうからな。じゃ!』


小平太の胸に刻まれた竜の刺青がアップになって、映像は消えた。
静まる部屋。だが殺意だけはジワジワと溢れ、最初に八左ヱ門が扉へと向かった。


「八左ヱ門」
「止めるな三郎。俺一人でも千梅は助ける。じゃないとっ…!」
「誰が止めると言った」
「ああ。あんなもの見せられて大人しくしているほど俺らは大人じゃない」
「大量の武器持っていこうね。言葉通りぶっ壊そう」
「でも、作戦はちゃんと立てようね?」


五人の目は殺意に燃え、素早く千梅奪還の作戦会議を開いた。
そして誘拐され、犯された千梅はお昼ぐらいに目を覚ました。
目を覚ますとすぐに膣が痛んで「つっ…」と短い悲鳴をもらし、目を瞑った。
小平太はいない。だから痛覚を消すために集中すると、膣の痛みは綺麗に消えた。
身体を使って起き上がり、部屋を見渡すも、何もない。


「ともかく逃げないと…」


昨晩のことを思い出すと死にたくなる。
だからあえて何も考えないように唇を噛みしめてベットから降りた。


「っえ!?」


床に足をついた瞬間、ガクン…と膝が崩れて床に倒れこむ。
何でか解らないが足と腰に力が入らない。
理由を悟った瞬間、「クソォ!」と吠えて、ベットに寄り掛かりながら無理やり立ち上がった。
机の上には小平太のものであろうナイフが置かれており、それを取って拘束されていた縄を切る。
多少自身を傷つけてしまったが、寝れば治るだろう。
ようやく解放された手で部屋に投げられていたシャツを拾い、腕を通して身体を隠す。
あの男が着ていたものだと思うと胸糞悪かったが、裸で外を出歩くことなどできない。
ナイフを持ったまま何か情報になるものがないか探したが、前にも言ったように彼の部屋には何もない。
すぐに諦めて扉に向かって、ドアノブに手を伸ばした瞬間、下腹部に違和感。


「……絶対に…。ッ絶対にあの男は殺してやる…ッ」


太ももからは昨晩小平太に注がれた精液が流れていた。
激しい嫌悪感と殺意を覚えたが、手で拭って振り捨てる。
ナイフを持つ手に力を込めて逃げることに集中する千梅。
ゆっくり、静かに扉を開けて廊下の様子を探る。廊下は綺麗で広かった。


「(どこに逃げる…。とりあえず外に出ないと……)」


一歩廊下に出ると、既視感を覚えた。
グラリと頭が揺らいで倒れそうになるのを踏み止まる。
でも腰も膝も弱っているため、その場にべしゃんと座り込んでしまった。
ドアノブを持ったまま嘔吐に耐え、気分を落ち着かせる。


『あれ、千梅はどこに行こうとしてるのかな?』
「っうわぁああ!」


そんな幻聴がして千梅はその場から立ち上がって逃げた。
適当に屋敷を走り、とにかく外を目指す。
幸い誰にも見つかることなく屋敷の外に出ることができて、ほっと息をつく。
太陽の光りは眩く、目を細めつつ死角になっている場所に身をひそめる。


「なんで……何で今あのことを思い出すんだ…!」


お祈りをするように胸の前でナイフを握りしめ、何度も自分を「大丈夫」と励ました。
少し休んでから顔をあげて逃げ場所を探す。
屋敷はとてつもなく広大で、逃げついた庭も綺麗で広かった。
だが、逃げる箇所はあるはずだ。


「(見たところ見張りもいない…。どこかに行っているのか?ともかく逃げるなら今だな)」


左右を確認して立ち上がり、庭を見て回ることにした。
姿を隠しながら、周囲の警戒を怠ることなく出口を探す。


「バカな女だな。建物から見られてるって思わないのか」
「……小平太」
「したいことはした。あの女も、きっとあいつらも悔しくて泣いたはずだ。少しだけ腹の虫が治まったからもういらない。あとは仙蔵があれを持ち掛けたあと、殺す」


庭を見渡すことができる部屋から小平太と長次は千梅を見ていた。
余程混乱しているのか、建物から見られていることにまで意識を向けることができない千梅を嘲笑い、興味を失ったように窓に背中を向けて歩き出す。
好き勝手に動くのはいつものこととは言え、小平太の行動にあまりいい顔ができない長次。
確かに千梅は敵だし、潰したい気持ちはある。


「…私のワガママだな、これは」


窓から千梅を見下ろすと、彼女は動きにくそうに走っている。
そんな彼女に近づく男を見て、彼は微笑み、窓から離れた。


「―――お前…」
「しまっ…!」


出口らしき扉を見つけた千梅は笑顔を浮かべて走り寄った。
その時に警戒を解いてしまい、幹部である留三郎と遭遇してしまったのだ。
小平太の部屋にいるはずの千梅が何でここにいるのか…。留三郎も言葉を失っている。
留三郎の右耳の二つのピアスが太陽光を反射してキラリと光り、その光りで千梅が先に留三郎にナイフを向けた。
だが留三郎は動じることなく千梅を真っ直ぐ見ている。
買い物帰りなのか、手には様々な荷物を持っており、ドサッと地面に落としてから一歩近づく。


「殺すぞ…」
「殺せるものなら殺してみろ。その前に俺が殺してやる」


実力の差を見せつけるように留三郎も殺気を飛ばして威嚇すると、千梅は苦悶の表情を浮かべた。
それじゃなくても誰かのせいで体調が悪いのに。


「だがその前にお前と話したいことがある」
「私はない。そこをどけ」
「言い方が悪かったな。来い」


ナイフを向けている手首を乱暴に掴み、ナイフを奪ってから屋敷へと歩かされる。
激しく抵抗する千梅に、


「また小平太の部屋に閉じ込めてやろうか?」


と睨みつけると奥歯を噛んで大人しくなった。


「あれ、食満さん。新しい女ですか?そんな恰好させてマニアックですねぇ」
「ちげぇよ!いいから仕事に戻れ。あ、庭に荷物があるから運んでおけ。それと、伊作にちゃんと寝るよう伝えておいてくれ」
「了解です」


途中、留三郎たちの部下と遭遇するたび、千梅は俯いて顔を隠す。
何も喋ることなく連れて来られたのは留三郎の部屋。
小平太の部屋とは違い、生活臭があった。
何もかも綺麗に整えられている部屋に若干引きつつ、部屋に入れられ、パタンと扉を閉められた。


「……」
「安心しろ。俺はお前とは戦わない。殺すこともできない」


ドアから離れ、千梅と距離を取ってから話しかける。
最初に言ったように、留三郎は千梅とは戦う気がない。千梅が女だからだ。
勿論、必要だと思ったときには容赦なく殺すつもりではいるが、今はこちらが優位だ。
その余裕を見せつけられた千梅は、あからさまに不機嫌になる。


「お前を逃がしてやる」
「―――は…?」
「だから考えてほしい」
「何を言っている…」
「お前らにはこれから二つの選択を迫られる。一つは俺らの傘下に加わるか。もう一つは殺されるかだ」


究極の選択を突き立てられ、千梅は一瞬呆けたあと、不器用に笑って「ほざけ」と悪態をついた。
だが留三郎の顔は至って真面目だ。


「何をバカなことを…」
「ああ、俺らもバカなことだと思う。部下を殺した奴を仲間に入れるなんてな」
「誰が……誰が貴様らマフィアの傘下に加わるか…っ。貴様らマフィアを潰すために私たちは―――」
「…お前たちは?お前たちのことはよく調べさせてもらったが、目的が解んねぇ。教えてくれ」


留三郎の問いかけに千梅は動きを止めて、どこか遠くを見つめた。
自分を見ているけど、見ていないことがすぐに解ったが、彼女が喋るのを黙って待つ。


「―――お前たちが憎いからだ…。マフィアなんて…どいつもこいつも最低だ…っ。だから潰す…消えろ…消えてなくなれ!」


片目から涙を流した彼女は発狂するように言い捨てた。
と同時に背後の窓の外から爆音が轟き、建物が少し揺れる。
留三郎が片膝をついたあと、背後を確認して再び千梅を見ると、彼女の姿はなかった。


「っちぃ!」


携帯を取り出し、部下に何があったか聞いたあと、面倒くさそうにネクタイを緩めてから銃を取り出した。


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