夢/マフィア後輩 | ナノ

説教と棲み処


「貴様は本当にバカな男だな」
「……」
「首輪をつけてやらんと解らんか?」
「……すまん」
「すまんですむか!」


八左ヱ門と千梅に逃げられ、もやもやが残りつつも久しぶりに本部に戻って来た小平太だったが、怒りに満ちた仙蔵に捕まってしまい、現在お説教中。
あんなに感情を剥きだした仙蔵は久しぶりだと、ソファに座っていた文次郎は笑う。
長次も知らん顔で説教を聞きながらコーヒーを飲み、自分の仕事を進めている。


「で、でもあいつらのアジトはぶっ飛ばしたし…」
「ぶっ飛ばす前に私たちに報告しろ!お前一人で倒せる敵ではないだろ!」
「そんなことない!竹谷にも吾妻にも「でも逃げられただろうが!言い訳無用だ!」


馬鹿者が!と机に置いてあった書類をバシンと小平太の顔に投げつけた。
小平太は犬のようにしょぼんと落ち込み、もう一度仙蔵に謝罪をする。
だが仙蔵は許すことなく、「で」と気持ちを次へと切り替えた。


「戦ったってことは何かしら得たんだろうな」
「っおう!」


小平太の明るい声を聞いた文次郎と長次は手を止め、耳を傾ける。
小平太は思ったこと、感じたことを素直に仙蔵に伝えるも、小平太の解りにくいドストレートな日本語に首を傾げたが、まぁ理解することができた。


「特殊能力か…。そんなものあるんだな」
「だってあんなの異常だ」
「小平太に言われちゃあおしまいだな。テメェも相当異常だよ」
「そうか?文次郎だって強いじゃないか」
「いや、そうじゃなくてでな…」
「………吾妻は本当に笑ったのか?」
「ああ。本当に打撃がきいてなかった。手応えもあったのに全然……。あいつはどんな能力持ってるんだろうな…」


八左ヱ門との戦いはとても楽しかった。
自分の攻撃を何発も食らっておきながら倒れることなく、寧ろ自分が追い込まれた。
千梅には興味がなかった。どうせ女だから戦えないだろうと思っていたからだ。
だけど千梅にも攻撃がきかなかった。それが嬉しくて、楽しくてまた興奮する。
そんな小平太を察した長次は背後から忍び寄って本で後頭部を叩く。


「本当に特殊な能力があるなら、他のメンバーも持っているだろうな」
「だがこれで辻褄が合うな。じゃなきゃあんな数人のファミリーなんてすぐに潰れてるっつーの」
「いや、素質もいいんだろう。………これは、面白いことになってきたな」
「…仙蔵、悪い癖だぞ」
「だがそう思わんか、長次。確かに憎い相手ではあるが、あいつらが我らの傘下に加わればボスも喜ぶ。レゴーラの奴も完全に潰すことができる」
「それだと均衡が崩れるだろうが」
「なに、私たちが医療関係にも出資すれば問題ない。ボスもそれがお望みだ」
「はぁ……。で、小平太はなんで不機嫌そうなんだよ…」
「やだ。私はあいつらを殺したい。戦いたい!仲間になったら戦えない!」
「聞け小平太。まずはあいつらに仲間にならないかと持ち掛ける。それを断ったら潰す。傘下に加わらないならいらん、邪魔だ」
「……」
「今回のことで迷惑をかけたんだ、言うことぐらい聞いてくれるよな?」
「解った…」


反省しているのか、小平太は素直に仙蔵の言葉に従い、空いてるソファに飛び込んで寝始める。
すぐに長次が毛布をかけてあげ、そのまま仕事に戻った。


「…。加わると思うか?」
「いや。しかし口実はほしいだろう?」
「性格悪ぃんだよ、テメェは」
「そうでないとこの世界で生きてはいけんさ。さて、私は少し本部に戻らせてもらう。文次郎、貴様もだ」
「解ったからネクタイを引っ張るんじゃねぇよ!」
「長次、ここは任せた。今はあいつらを追わんでいい。仕事だけに集中してくれ。あと、レゴーラの動きも頼む」
「任せろ…」


文次郎のネクタイを掴んでそのまま扉へ向かう仙蔵と、抵抗すると振り解けない文次郎を長次は静かに見送った。


「おい三郎。本当にこんな普通のアパートでいいのか?」
「あいつらを観察してきた解ったことがある。アルモニアファミリーは一般人を巻き込まないようにしている」


路地裏で一夜を明かした二人は、何かあったときの待ち合わせ場所に二日かけて向かった。
そこには変装をした三郎がおり、黙ってついて行くと、普通のアパートへと連れて来られ、八左ヱ門と千梅は不安そうな表情を浮かべる。
だが三郎の言葉に二人はふむふむと素直に聞き入れた。


「だからここなら安心だ。すぐ近くには商店街、反対側は大きな公園。おまけにここのアパートにはたくさんの子供たちがいる」


先を歩く三郎が二人を振り返り、ニヤリと笑う。
さすが三郎だと褒めて、三郎も「まぁな」と答えてから角部屋の扉を開けると、雷蔵と勘右衛門に迎えられた。


「よかったー、なかなか来ないから殺されたのかと思ったよー!」
「大丈夫だった?あ、着替えの用意できてるからそれ脱いで」


さっさと部屋に入ってあれこれ言われ、八左ヱ門も千梅もくすぐったそうに笑ってから「おう」と答える。
ソファにはまだ目に包帯を巻いている兵助が「無事でよかった」と声をかけてくれた。
前のアジトより狭くなったが、なんら問題はない。
部屋は綺麗だし、部屋もある。でも、リビングにたくさんの荷物があって、そこで彼らは生活をしていた。
たった二日で全ての準備を整えたのはきっと三郎だ。彼は手際がいいし、几帳面だし、なにより、


「いいか、ここで暮らすことになったんだから近所の人たちとは仲良くしろ。それとちゃんと手を洗って来い」


オカンだ。
たった二日しか離れてなかったが、懐かしさが込み上げて二人は元気よく頷いたのだった。


「で、三郎。どうする?あんなに接触したんだし、きっと俺らの力、バレてるかもよ?」
「八左ヱ門から話は聞いたが、そうだろうな。八左ヱ門と千梅の力はバレただろう。だが問題はない。バレたところで対処できるわけがないからな」
「それ侮ってない?」
「いや、事実だ。八左ヱ門に勝てる人間などいるわけないだろう?」
「……七松という男は危険だぞ」
「うん、僕もそう思う。扉越しだったのに久しぶりに鳥肌が立ったよ…」
「安心しろ。それでも俺には勝てねぇよ!」
「あんまり自惚れんなよー、ハチ。ねぇ、お風呂入ってきていい?髪の毛ベトベトでさー…」
「あ、じゃあタオル準備しとくよ。ゆっくり浸かっておいで」
「ありがとう雷蔵!雷蔵も一緒に入る?」
「テメェの貧相な身体見たって嬉しくもなんともねぇから黙って入って来い」
「何よ八左ヱ門くん!本当は私と入りたくて仕方ないくせに!」
「べべべべべ別に入りたいなんて思って「もういいから少し黙ってろバカコンビ…。千梅、湯船で寝るなよ」
「はーい」
「じゃあ今度は俺と入ろうねぇ」
「勘右衛門くんはお断りしまーす」
「ちぇー…。三郎、俺はしばらくの間動かないほうがいいと思う」
「いきなり真面目な話に戻るな。だがその通りだと私も思う。兵助の調子も戻らないし、少し様子を見たほうがいい。―――レゴーラファミリーのな」


三郎の最後の言葉にその場にいた全員の顔が強張った。
気持ち悪いぐらい静かな部屋は、時間が止まっているように見える。
だが、


「三郎っ、なにあのお風呂!熱湯なんだけど!」


タオルを身体に巻いた千梅がリビングに戻って来て、時間は動き始め、すぐに三郎の怒鳴り声がアパートに響き渡った。


「女がそんな恰好で出てくるんじゃない!」
「いや、だって熱かったんだもん!嫌がらせ!?」
「水入れて調節しろバカ!次出てきたらそのまま廊下に出すからな!」
「いやん、そしたら「鉢屋三郎に犯された挙句追い出された」って言いふらしてやるっ」
「そしたらまた新しいアジトを見つけないとなぁ…?私が折角好物件を見つけてやったのに……」
「すみません、大人しくお風呂入ってます」
「肩まで浸かれよ」
「オカンかよ…」


渋々戻って行く千梅を見送り、話し合いは自然と終わり、彼らもそれぞれやるべきことに手を付け始めた。


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