夢/マフィア後輩 | ナノ

入院と苛立ち


「―――……」


八左ヱ門に車を破壊され、事故を起こした小平太は病院で目を覚ました。
頭には包帯が巻かれ、色々なところにかすり傷がある。
あんな事故を起こしておいて、かすり傷程度ですむほうが凄いと、気絶している小平太を治療しながら医者はぼやいたという。
少しの間自分が何故ここにいるのか考え、思い出していくたびに目が開いていく。


「あの野郎!」


ガバッ!と勢いよくベットから起き上がると頭に鋭い痛みが走ったが、それ以上に怒りが勝り、手が震える。
自分の腕を見ると点滴をされていたので引きちぎって、冷たい床にペタリと足をついてベットから降りた。
ベットの近くに置かれていた自分の汚いスーツを持って部屋から出ようとすると、様子を見に来た看護師さんとぶつかって「七松さん!」と怒られてしまう。
しかし、看護師さんがいくら止めようとしても小平太の耳には届いていない。それどころか、


「黙れ。殺すぞ」


と殺気を飛ばして脅す。
小平太にとって、女であろうが男であろうが敵と見なしたら容赦しない。
彼らの存在を知っているこの病院は、彼らに見慣れているとは言え、凄まれてしまえば何も言えなくなる。


「小平太、何をしている…」
「中在家さん…!」
「長次。あいつらを殺すぞ」
「ベットに戻れ」
「もう大丈夫だ!いいから「戻れ」


看護師の後ろから静かに現れたのは、彼の扱いをよく解っている長次。
ぺこりと看護師に謝って小平太を病室に戻そうとするも、彼は頑固にそれを拒否した。
だから長次も殺気を滲ませ、睨みつけると小平太は目を背ける。
彼の理性があるうちは自分の言うことを聞いてくれる。理性を飛ばす前に落ち着かせるのが長次の役目だ。(勿論、他のメンバーの役目でもある)
長次の睨みに小平太は大人しく病室に戻り、ベットに座る。


「すみません、また注射してもらえますか…?」
「あ、はい…」
「長次!私もう大丈夫だから!」
「ダメだ。ついでに健康チェックもしてもらえ」
「だから大丈夫なのに…!」


再び点滴をしてもらい、ベットに大人しく寝る小平太。
その隣に椅子を持ってきて、手土産に持ってきたリンゴを剥いてあげる長次。
病室のカーテンは閉め切り、いつでも発砲できるようにベットの上に銃を置いた。


「仙蔵から大まかなことは聞いた…」


仙蔵を迎えに行ったのは長次。
そこで仙蔵から大まかなことを聞いて、小平太を迎えに行ったのだが見ての通り事故にあってしまった。
慌てることなく救急車を呼んで、ここまでずっと付き添ったという。
他の幹部たちで彼らの行方を追ったが見つからず、彼らの真意も解らないものになってしまった。


「お前は…奴らを見たんだろう?」
「ああ」


兎の形に切ったリンゴを小平太の口元に運んであげる。
一口食べて頷く小平太に、長次は「どうだった」と聞いてあげた。


「女みたいな男の射撃の腕は見事だった。私もギリギリまで解らなかった…。距離も遠かったしな」
「ああ、仙蔵から聞いた。寸分狂わぬ射撃だったらしいな…」
「あと運転してた男は楽しそうに笑っていたな。私をバカにしているようだったからあいつも私が殺す」
「落ち着け。また頭から血が出るぞ…」
「―――竹谷…。殺すなんて言葉すら勿体ない…」


目を見開き、ギラギラと燃える小平太を見て長次は呆れるように溜息をはいて、無理やりリンゴを口に突っ込んだ。
ちゃんと見張ってないと暴走してしまう。そしたら怒られるのは自分だ。
大事な友人ではあるが、仙蔵に怒られるのだけは控えたい。
大体、暴れたいと思っているのは小平太だけではない。自分だって暴れまわりたい。
生意気に自分たちを……自分を見下した雷蔵のあの目が脳裏に焼き付いて未だに離れない。
温厚そうな顔と雰囲気だったが、その裏に何を秘めているんだろうか…。
考えるだけで「潰したい」という考えが浮かんで、拳を握り締めていた。


「その為にはもっと情報がほしいな」
「……あぁ。何の目的で動いているのか気になる。仙蔵もさすがに動き出しそうだった」
「そりゃそうだ。取引の最中に邪魔をされたからな。いつもみたいに怒鳴らないってことは…」
「ああ。本部の仙蔵は恐ろしいぞ…。怒られたくなかったらお前も大人しくここにいろ」
「悪いな、長次。完治したら私の好きなように動かせてもらう」
「小平太…」
「―――止めれるものなら止めてみろ。何か言ったらこう伝えてもらえるか?」


怪しく笑顔を作る小平太に、長次は眉間にシワを寄せて目を瞑る。


「「拾ってくれたのはお前だが、ボスではない」とな」
「…………行くからには何かしろ成果を得てこい」
「おう!あ、もう一つリンゴ切って!」
「解った」


穏やかな時間が流れる病室とは対象に、アルモニアファミリーの幹部室は殺伐とした空気が流れていた。
仙蔵が本部に戻ってから、先ほど戦いの後始末に追われた。勿論、取引中だったものを終わらせた。
いくら苛立ちを押えていても空気は気まずく、文次郎も留三郎も喧嘩することなく黙々と仕事をしている。
やるべき仕事を終えた仙蔵は椅子深くに座って天井を仰いで休んだが、先ほどのことを思い出し、ギリッと噛みしめる。


「文次郎、留三郎」
「「なんだ」」
「被害はどうだ」
「俺の部下は最初にやられただけで、今はない」
「二桁はいってないが、怪我人が多い」


留三郎は眼鏡をかけ、目の前のパソコンに目を向けたまま答える。
文次郎は大量の書類を処理しながら答え、一度手を止めて仙蔵に視線をむけた。


「お前らのところは武闘派な奴らが多かったよな」
「ああ。負け知らずだ」
「小平太のところもだけどな」
「目に余る」


吐き捨てるように発言する仙蔵を見て、文次郎と留三郎は顔を見合わせる。
多くを語らず、感情のままに喋る仙蔵は機嫌が悪い証拠。
文次郎はソファから腰を浮かせ、仙蔵の横にある棚に近づいて何かを探し始める。
留三郎は携帯を取り出し部下らしき相手に何かを指示する。


「仙蔵、写真借りて行くぞ。見つけたらすぐ報告するよう伝える」
「文次郎、先にこっちに貸してくれ。パソコンに画像取り込んで全員の携帯に送る。あと仙蔵のとこの部下を数人借りるぞ。奴らの素性を明かしてやる」
「優先すべきは解っているな」
「「解ってるっつーの」」
「二度もハモるな」


ようやくいつものように不敵に笑う仙蔵に、二人も口元を緩ませた。


「(しかしあそこから発砲するなんてな…。人間のできることではない。小平太すら見えなかったんだぞ?どうやって……)」


解らないことばかりだ。
何故、彼らはいきなり現れ、街をかき乱すのか。
他のファミリーみたいに野望があるようにも見えない。
ただ、何かを隠していることは解る。自分たちを睨んできた彼らの目はギラギラと燃え上がっていたのだから。
それが解ればきっと対処できる。
ぽっと出の奴らに負けるほど何年も幹部を務めていない。


「(犬がちょろちょろと目障りな…。だがすぐに捕まえて保健所送りにしてやる)」


立ち上がり、椅子にかけてあったコートを持って部屋をあとにする。
彼もまた楽しそうに笑っていた。


「私たちに喧嘩を売ったことを後悔させてやるから覚悟しろ」


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